史上最多? 驚異の「10人乗り巨大戦闘機」 が全然使えなかったワケ “武装に全振り”した結果
乗りものニュース / 2024年6月14日 18時12分
第二次大戦中のアメリカに、傑作爆撃機B-17ソックリの戦闘機がありました。機関銃18丁、おそらく史上最多の乗員数を誇る戦闘機ですが、なんと失敗作。どのようにして生まれ、なぜうまくいかなかったのでしょうか。
傑作機がベースなら派生型も傑作機になる?
未来がどうなるかを正確に予想することは誰にもできません。それは兵器の世界も同様で、世界大戦などでは、何が使えるのか、はたまた使えないのか、ともかく試してみて、よくできたものを採用するという事例が多々見受けられます。ただし、こうした取り組みは往々にして成功よりも失敗する結果の方が多いようです。
その心配の典型例といえるのが、アメリカ陸軍航空隊が試験的に実戦投入した異形の戦闘機YB-40でしょう。
YB-40は、一見するとアメリカが多用した傑作爆撃機のB-17「フライングフォートレス」によく似ています。それもそのはず、YB-40はB-17シリーズのF型を流用する形で開発された戦闘機仕様でした。
ただ、なぜ鈍重な爆撃機を戦闘機に仕立て直そうとしたのでしょうか。
そもそも、YB-40の開発は1942年に遡ります。当時、アメリカは第二次世界大戦に参戦したばかりで、イギリス本土の基地を拠点にドイツ空襲を始めようとしていた時期でした。
アメリカ陸軍航空隊のB-17は航続距離が極めて長く優秀な爆撃機でしたが、それゆえにB-17の作戦に追従できる護衛戦闘機が存在せず、目標上空ではドイツ戦闘機の迎撃を受け、致命的な被害を受けていました。
このような憂慮すべき事態に対し、アメリカ陸軍航空隊は一計を案じます。B-17に比肩する航続距離を持つ戦闘機がないなら、B-17で護衛戦闘機を作ってしまえばよいと。こうして生まれたのがYB-40でした。
史上最多の乗員数の戦闘機?
アメリカ陸軍は1942年8月、ベガエアクラフト社に試作機XB-40の開発を発注します。そして1942年11月10日には早くも初飛行を行うと、実戦評価機YB-40を早くも13機発注したのです(後に12機を追加)。
YB-40の原型となったB-17Fは、もともと12.7mm機関銃を12門搭載するという重武装を誇っていました。そこでYB-40では、さらなる機銃の増設だけでなく、各銃座の射界や視界の確保などといった改良が盛り込まれました。
爆弾を投下しないので爆撃照準器を廃止し、機首部に連装ないし4連装機関銃を有したターレットを増設、胴体上部には連装機関銃を備えるボール式ターレットを1基増設し、計2基に強化しています。また、胴体左右の機銃はそれぞれ1丁ずつ追加され、2丁備えた連装式へと改良されました。
加えて、胴体下部にも連装機関銃を備えるボール式ターレットを原型のB-17Fと同じく配置したほか、尾部銃座も連装ないし4連装機関銃を設置しています。こういった改良により、12.7mm機関銃の搭載数は最低でも14門、最大18門へと大拡張していました。
なお、爆弾倉も廃止したものの、この部分は機銃弾薬庫に転用した結果、弾薬搭載数は1万1200発(約1.2t)で、これはB-17Fのおよそ3倍にも及んだそうです。
乗員はパイロット2名、航法士1名、航空機関士兼背部前方ボールターレット機銃手1名、通信士兼背部後方ボールターレット機銃手1名、機首部チンターレット機銃手1名、胴体下部ボールターレット機銃手1名、胴体側面機銃手2名、尾部機銃手1名の合計10名。これは「戦闘機」としては、おそらく史上最も多い乗員数であると思われます。
実戦投入してみたら、出来損ない確定!
完成したYB-40は、1943年5月に12機がイギリスに配備され実戦投入されましたが、護衛対象であるB-17Fに追従できないという失態を犯します。なぜならYB-40は、完全装備のB-17Fと比べて1.8tも重く、さらに銃座を拡張したことで空気抵抗が増えたため、飛行性能が著しく低下していたからです。
結局、8月までに10回のミッションに参加したものの、護衛機としての任務を全うできなかったことから、前戦から引き上げられ開発プロジェクトは中止、量産されることなく終わりました。
飛行性能が十分ではなく護衛できないことは、試験中に判明していたはずなのに、なぜ実戦投入されたのかは非常に疑問ですが、いずれにせよ現場での大不評の結果としてYB-40はキャンセルされ大失敗に終わっています。
ただ、アメリカにとって幸運だったのは、同時期に傑作機として名高いP-51「マスタング」長距離戦闘機が完成し、間もなく実戦投入されたことです。しかもP-51は1人乗りの単発機であったことから製造コストもYB-40の4分の1程度でした。
そのため、もし仮にYB-40の飛行性能が十分だったとしても、コストパフォーマンス(費用対効果)の観点からP-51には太刀打ちできず、小数生産で終わっていたのは間違いないでしょう。
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