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毎月1万機必要 ウクライナの軍事ドローンは「驚きのローテク」で運ばれていた! スーツケースに詰めて30時間の列車旅

乗りものニュース / 2024年6月14日 7時12分

列車の車窓から見たキーウ中央駅(セルゲイ・スムレニー氏撮影)。

ドローンを駆使して戦うウクライナへ、国外からドローンを届けている人たちがいます。その方法はまさに「出前」。スーツケースにドローンを詰めて列車を乗り継ぎ、自らの足で運ぶ苦労から、戦時と日常が交錯する鉄道の姿が見えました。

ウクライナ軍は毎月1万機のドローンを使う

 ドローンの軍事使用が歴史的な転換期を迎えています。ウクライナ戦争ではウクライナ・ロシア双方がドローンを大量投入し、今までには見られなかった戦法が現代戦の常識となっています。ウクライナ軍だけでも毎月1万機のドローンが消費されている現状は(英国王立防衛安全保障研究所による)、ドローンの軍事的重要性がどれだけ急上昇したかを物語っています。実際に敵を攻撃するのはもちろんのこと、敵情視察や、ロシアから受けた攻撃の被害を記録してプロパガンダ利用するのにもドローンは欠かせません。

 こうしたドローンはウクライナ政府が自軍に配ったものとは限りません。まったくの一般人なのに、ウクライナの最前線までドローンを届けに行っている人がいます。そこには様々な苦労がありました。

超ローテクで戦線まで運ばれているドローン

「対ロシアに使うドローンの調達資金をください」。クラウドファンディングでの呼びかけに対して16か月で50万ユーロ(約8千500万円)が集まりました。

 同クラウドファンディングを立ち上げた、欧州強靱化イニシアティブセンター創設者のセルゲイ・スムレニー氏。かつては、ロシア反体制派ジャーナリストをしていましたが、12年前にロシア国籍を捨ててドイツ人になり、現在はベルリン在住です。

 ドローンの最先端技術とは裏腹、同氏が最前線までドローンを供給する方法は超ローテクです。戦地の友人たちから日々届く「ドローンが足りない」というSMSに対応して、クラウドファンディングで集めた資金を利用して、ベルリンでAmazonなどのネットショッピングで市販品を調達。それをスーツケースに詰めて戦線まで手荷物として持参するのです。

 ひとつのスーツケースにはドローンが4個入るため、友人と2人で各々がスーツケース2つを引き、リュックサックなどにも詰め、一度で計20個ほどを供給できます。

 以前はベルリンからウクライナ東部の最前線まで鉄道のみを利用していたものの、安全面を考慮し、最近ではウクライナ西部の大都市リビウや中部にある主都キーウまで鉄道で行き、そこで車に乗り換えて最前線まで行くように手法を改めたそうです。戦時下の鉄道利用にはどのような危険が潜んでいるのでしょうか。

「列車は安全」でも最前線まで行くのは危険

 ウクライナを支援している欧州連合(EU)は、ウクライナがロシア領を攻撃することに良い顔をしません。それを周知しているロシア軍は、ウクライナとの国境ギリギリのロシア領内に軍隊を大量に派兵し、国境を越えずに遠隔攻撃してきます。

 しかし、「勘違いして欲しくない。列車は安全なんだ」と、スムレニー氏。というのも、ロシア軍が砲撃に使うミサイルは走っている列車を追撃できるほど精度が高くありません。GPS搭載で遠方まで自動飛行が可能なドローンもミサイル同様の低い精度です。

 ドローンに搭載されたカメラで人間がターゲットを目視しながら操縦する「FPVドローン」は精度が非常に高く、列車を標的にできるものの、飛行距離が短く、国境から10km程度しか飛ばせないのでお話しになりません。つまり、100km/hでウクライナ国内を走る列車を、国境線を越えず正確に攻撃する能力はロシア軍にはないのです。

 危ないのは、精度が低いミサイルや自動操縦のドローンでも攻撃可能な駅です。首都キーウや南部のザポリージャなど、主要都市の中央駅はことごとく過去にミサイル攻撃を受けています。

 特に危険なのが、最前線に近い駅だそうです。そうした駅では大概、毎日1本しか列車はなく、列車は満員な上に、乗降する人の半分は軍人だとスムレニー氏は指摘します。戦時下でも定刻率93%という驚異的な正確さを誇るウクライナ鉄道ゆえに、列車の到着時刻を狙って駅を攻撃すれば、無防備な軍人を大量に攻撃できるわけです。

 最前線から30kmに位置するウクライナ東部の終着駅クラマトルスクに鉄道でドローンを持って降り立った際、その数週間前にミサイル攻撃を受けた同駅の悲惨な被害を目の当たりにし、それ以来、最前線まで鉄道で行くのはやめたとスムレニー氏は沈痛な声で語りました。

時差1時間なのに時差ボケに悩まされる

 戦地へのドローン供給の際、地味に悩まされるのが、時差ボケだと言います。スムレニー氏が住んでいるドイツとウクライナの時差は1時間しかありません。それでも、ウクライナに着くと、いつも、まるで日本など極東に行った時と同じくらいの時差ボケに襲われるそうです。

 ベルリンからウクライナへは様々なルートがあるものの、どのルートをとっても、丸一日から30時間ほどかかります。その中で最短で行かれるのがポーランドの最東部、プシェミシル市経由です。2023年3月に岸田首相がウクライナのゼレンスキー大統領と首脳会談をするためにキーウを電撃訪問した時も、プシェミシル市経由でした。

 このルートを利用することが多いというスムレニー氏ですが、朝10時52分にベルリン中央駅を出発し、プシェミシルで列車を乗り換え、プシェミシルを出発するのは深夜23時26分。そこからさらに9時間半かけて夜通し列車の旅は続くわけですが、その間に国境検問、税関の検閲、麻薬探査犬の捜査など、様々な事情で繰り返し叩き起こされ、眠れないままキーウに降り立つと言います。

 ほかのルートでも、あらゆる理由で結局いつも眠れずに、キーウに着くと時差ボケの睡魔と戦いながらの生活になるそうです。キーウの駅に着いた途端、寝不足でボンヤリしている頭上を飛ぶミサイルを見たこともあったと回想します。

 今後、民間資本の軍事ドローンが戦争で果たす役割の重要性は増すばかりだと思われますが、「盟友の元にドローンを届ける」という、このような篤(あつ)い意志に支えられた超ローテクのマンパワーで届けられていました。

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