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交通系ICカードより「タッチ決済」ゴリ押しでいいの? 「外国人にも便利」は本当か 海外の“現実”

乗りものニュース / 2024年6月24日 9時42分

東急線のタッチ決済対応改札。2024年5月から普通運賃のタッチ決済も対応した(乗りものニュース編集部撮影)。

鉄道などの交通機関でも急速に普及するクレジットカードなどの「タッチ決済」。国際的なサービスが、日本独自の交通系ICカードの地位を脅かしています。タッチ決済は実際、海外でどう利用されているのでしょうか。

定期券を“食った”タッチ決済 交通系ICは?

 クレジットカードやデビットカードなどを駅の改札にピッとかざして電車に乗る「タッチ決済」が急速に広まっています。首都圏では2023年に江ノ島電鉄が全線にタッチ決済を導入したほか、東急線では2024年5月から首都圏大手私鉄で初めて、全駅で普通運賃の支払いに使えるようになりました。東京メトロも2024年度中に実証実験を開始すると発表しています。
 
 タッチ決済が進めば交通系ICカードがいらなくなるとも言われます。実際に海外で先行しているのは、ロンドンです。ここから日本が学べることはないのでしょうか。

 ロンドンでは、2014年にタッチ決済が導入されて以降、利用者数は右肩上がりに伸び続け、現在は1日平均500万件の支払いがタッチ決済で行われています。これは、全決済の6割近くになります。

 その大成功の主な要因は、2014年の導入時にタッチ決済のために創設された「週間キャップ」という制度です。「キャップ」とは、「蓋(ふた)をする」の意味で、つまり、1週間にタッチ決済で交通機関を何度も利用した場合、ある一定の金額以上は、課金されないという仕組みです。

 この登場により、それまで「シーズンチケット」という定期券を購入していた客層が一気にタッチ決済へ移行しました。2014年度は4657万件あった定期券の販売件数は、コロナ禍前の2018年度にはほぼ半減。コロナ禍で業務形態の多様化が進んだ影響も加わり、現在の定期券の利用者はタッチ決済が始まる前の約4分の1にまで減少しています。

 現在導入されている日本のタッチ決済には、週間キャップありません。日本でも公共交通機関を利用する人の大半が通勤・通学であることを考えると、週間キャップが導入されればタッチ決済が増えるかもしれません。

 では、ロンドンでの交通系ICカードからタッチ決済への移行はどうでしょうか。

 ロンドンではタッチ決済導入で「定期券離れ」が顕著になった反面、実は意外なことに、日本のSuicaやPASMOなどの交通系ICカードに相当する「オイスターカード」にお金をチャージして公共交通機関を利用する顧客層の減り幅は、2割程度にとどまりました。

予想外に少ない外国人観光客のタッチ決済

 要因のひとつは、ロンドンを訪れる外国人観光客がオイスターカードを引き続き利用し、タッチ決済をそれほど使っていないことです。

「訪日外国人のお客様などに対して、これまでより利便性の向上が図れることを目的として導入を検討しております」―-タッチ決済の実証実験を開始する東京メトロは取材に対して、こう説明しました。

 ところが、ロンドン交通局によると、過去1年間にロンドン交通局のタッチ決済で行われた支払いのうち、海外のクレジットカードでの支払いはたったの1割だそうです。2023年はヒースロー空港の利用客数が8000万人弱と、同空港史上3番目に多い記録を叩き出していることから、コロナ禍の名残で海外からの旅行客がそもそも少ない、というわけではなさそうです。

 世界都市ロンドンにもかかわらず、海外のクレジットカードでのタッチ決済は思いのほか、少ないのです。理由として、3つの仮説が考えられます。

 まずは、タッチ決済の周知が進んでいないため、外国人旅行客が自国のクレジットカードやデビットカードで直接支払えると知らない可能性があります。

 2つ目は、タッチ決済で海外のカードを使用した場合、決済当日の為替レートが適用されるうえに海外手数料を取られるため、レートの良い日を選んで交通系ICカードにチャージした方が得な場合がありそうです。ちなみにロンドンではクレジットカードでもデビットカードでもオイスターカードにチャージできます。

 そして、最後に、防犯上の理由から、慣れない旅行先の駅の雑踏の中で、クレジットカードやデビットカードを取り出してタッチ決済することに不安を感じる旅行客も少なくないのではないでしょうか。

 日本でもタッチ決済を本格導入した場合、訪日外国人の利用はどの程度見込めるのか、すでに導入されている江ノ島電鉄などでの統計が待たれます。

 さらに、日本では交通系ICカードからタッチ決済への移行がなかなか進みそうにない特殊な事情がありそうです。

日本の交通系ICカードと似て非なるオイスターカード

 日本の交通系ICカードと比較されがちなオイスターカードですが、そのオイスターカードはとても狭いロンドンの首都圏でしか使うことができないのは、あまり知られていません。例えば、ロンドンの主要駅のひとつ、ビクトリア駅を出発してから25kmも走るとオイスターカードの圏外になってしまうのです。

 それは車掌も心得ていて、オイスターカードの圏外に突入したとたん、車内検札にやってきて、オイスターカードしか持たずに乗り続けている客を一網打尽に罰金刑に処して歩くのです。日本の首都圏でいえば、品川駅から東海道線に乗っていて、横浜駅を過ぎたとたんに罰金刑をくらうイメージです。

 そんな狭い区間でしか使えないオイスターカードとは比較にならないほど、日本の交通系ICカードは、全国津々浦々の公共交通機関で使えるサービスです。

 ましてや、日本の交通系ICカードは乗りものだけでなく、コンビニやスーパーなどの商店から自動販売機、飲食店、役所などでの支払いでも使えるのです。クレジットカードやデビットカードはお断りでも、交通系ICカードは使えるというケースも多々あります。

 ここまで浸透している日本の交通系ICカードですから、駅の改札やバスにタッチ決済の機械を設置しただけで、一気にタッチ決済に軍配が上がる、とは行かないのではないでしょうか。

 にもかかわらず、交通系ICカードを廃して、タッチ決済へ移行する流れも出てきました。

費用が高い交通系IC―タッチ決済ならば万事解決、なのか?

 交通系ICカードの読み取り端末の更新に多額の費用がかかるという理由から、熊本の路線バス5社と熊本電鉄では、2024年内に交通系ICカードのサービスを停止(くまモンのICカードを除く)した後、タッチ決済へ全面的に移行することを発表しています。熊本市電も1年遅れで追随する見込みです。

 これに対し、地元の熊本日日新聞がアンケートを実施し、利用者の抵抗が強いことを浮彫りにしています。JR線などとの相互利用を含めた利便性の低下を指摘する声が多かったといいます。一方で、全国交通系ICカードの導入・更新費用が高すぎるとして、廃止に理解を示す交通事業者の声も伝えています。

 世界的な技術の流れに遅れないように、タッチ決済に移行していくことは確かに重要です。また、訪日外国人の利便性を考えることも必要です。しかし、これだけ多岐に渡って普及している便利な交通系ICカードを、一気に過去のものにするのは、難しいのではないでしょうか。

 熊本の一方的な交通系ICカードの廃止はいささか強引にも思えますが、その背景に高い「更新費」があることも浮彫りになりました。交通系ICカードは高い、タッチ決済があるからいい、との理由で、生活に根付いたシステムが急速に損なわれていく流れにならないことを願うばかりです。

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