だから日本は「ローカル線」になった 急成長する世界の物流に引き離された現実 国の返り咲きプランとは?
乗りものニュース / 2024年6月25日 7時12分
日本で建造された「世界最大級のコンテナ船」は、日本に戻らず、立ち寄ることもありません。圧倒的な量の貨物が動く国際基幹航路から外れ、日本が「ローカル線」と化したからです。その物流幹線へ“返り咲く”ことはできるのでしょうか。
華々しく進水した巨大コンテナ船 2万4000TEU船の恐るべき輸送力
2023年、呉や今治から日系コンテナ船社のONE(Ocean Network Express)が発注した「世界最大級のコンテナ船」が次々と進水し、造船所は興奮に包まれました。全長約400mは渋谷ヒカリエ全高のおよそ2倍、幅約61mはJR在来線3両分。喫水約17mは6階建のビルが水中に沈んでいるような大きさです。20フィートコンテナを約2万4136個積載できる(2.4万TEU)のですが、どれだけの量か想像つきづらいですね。
たとえばJR貨物が所有するコンテナ貨車は7058両=2万1174TEUなので、船1隻でこれを上回ってしまいます。コンテナを縦に並べれば152kmに達し、東京-清水(静岡)間や大阪-城崎温泉間にほぼ相当する途方もない量です。この規模の船が6隻も進水し、毎日運航するほど、世界では貨物が動いているのです。
コンテナが追求する究極の輸送効率
国際海運は石油、LNG、鉱石などバルク(ばら積み)輸送を除く貨物は、ほぼコンテナ船で運ばれるようになりました。積み荷は食品、家電、雑貨、化成品、農産品など多岐に渡ります。コンテナ船は究極に輸送効率が高く、コストが低いのです。
かつて貨物船への積み降ろしは、倉庫から艀(はしけ)を経由して迷路の様な船倉に人夫が肩担ぎで運ぶ人海戦術で、時には航海よりも積み降ろしの方が時間とお金がかかり盗難や破損も多かったのですが、コンテナにより画期的に機械化・効率化され、積荷は壊れも盗まれもせず、海上輸送のコストは劇的に下がりました。
そしてコンテナは置けば倉庫になり、車や鉄道に載せれば陸上移動もするので、倉庫も艀も不要です。コンテナは急速に世界へ拡がり、安い輸入品が出回るようになり、材料や部品を安い国から仕入れ工程ごとにコンテナで輸送するグローバル・サプライチェーンも盛んになりました。
船を大きくすればコンテナ1個あたりの燃費や船員のコストは低くなるので、2000年ごろよりコンテナ船は巨大化し、1万7000TEU以上の船が2025年には累計53隻になります。一方で巨大船は1隻1時間あたりのコストは高くなるので、経営的には1分でも遊ばせたくありません。
そのため巨大コンテナ船は貨物が多く、素早く積み卸しができる巨大なハブ港だけに立ち寄る様になりました。その他の港には、ハブ港から各地を結ぶフィーダー船にコンテナを積み替えて運びます。この船から船へと積み替える輸送をトランシップと言います。
そのハブ港は、日本にはないのです。
世界5位だったのに…30年間で大転落した日本の港
日本で作られた2万4000TEUの巨大コンテナ船は、欧州-東アジアを結ぶ航路に就航し、日本の港には立ち寄りません。
「え?日本は貿易大国では?」「日本の貨物は減ったの?」と思われたかもしれませんが、どちらも違います。
日本の貨物は増えてはいるのですが、中国・シンガポール・韓国・ベトナム・タイなど東アジアの貨物量が急成長して日本は追い越されたのです。神戸港が1990年には 260万TEUで世界5位だったのが、2022年には280万TEUに増えているものの、世界72位に転落します。日本最大の東京港は46位で東アジア各港の下位になります。
今や日本の港に出入りするコンテナの多数は、中国や釜山などの海外ハブ港でトランシップされています。鉄道で言えば新幹線からローカル線に乗り換えて終着駅に着くようなイメージです。乗り換えがあれば、時間もお金も余分にかかるので、輸出入する国内企業にとっては不利になります。
なぜ日本の港はローカル線になったのか? 世界が進めてきたコト
日本の港は海外に比べなぜ大きく差を付けられたのでしょう。
米国は、コンテナを2段重ねで輸送するダブルスタック鉄道輸送の効率がとても良く、1990年に国際輸送と合わせて国内輸送もコンテナ化して鉄道輸送に集約、効率化しました。規制緩和で輸送モード間の提携が進み運賃も下がり、インターモーダル輸送は6倍に成長しました。
欧州は、オランダのロッテルダム港(1446万TEU)、アントワープ港(1350万TEU)、ドイツのハンブルク港(826万TEU)が競い合い巨額な投資を続けています。フィーダー船に加え、鉄道・艀・トラックによるネットワークが組まれ、英国・北欧・南欧・東欧から広く貨物を集めています。
中国は物流で産業を育成する国家戦略を立て、2001年にWTOへ加盟し貿易を急拡大。海運事業を育成し港湾・鉄道・コンテナターミナルに莫大な投資を続け、2013年に海運と鉄道を融合させ欧州・アジアを中国経由で結ぶ「一帯一路」構想を発表しました。上海港は4703万TEUで世界一となり、欧州と結ぶ鉄道コンテナ輸送「中欧班列」も急成長しています。
シンガポールと韓国は東アジア各国の貿易で行き交うコンテナを積み替えるハブ港を目指し港湾に巨額な投資を続けています。船が巨大化するのと同様に、港も巨大化しコスト競争力をつけたのです。シンガポール港は世界2位の3747万TEU、釜山港は7位で2271万TEUです。また両国は港湾運営のシステム化、自動化、脱炭素化を進め海外にも進出しています。
国際基幹航路を呼び戻す!
一方、日本は1985年のプラザ合意から急激な円高となり、生産拠点の海外移転が進み貨物量は伸び悩みます。またコンテナ港が各地に建設され貨物が分散した上に、地方港の貨物はコンテナ取扱いコストが安い釜山トランシップに流れ、神戸港に貨物が集まらなくなりました。アジア-米国間の国際基幹航路の多くは貨物量の多い中国・釜山から日本海を通るようになり、太平洋側の神戸港や東京港はさらに不利になりました。
日本への国際基幹航路の寄港が減る事態に対し、対策が取られてきました。コンテナ取扱拠点をより集中させるため、京浜港(東京・川崎・横浜)、阪神港(大阪・神戸)は2004年に「スーパー中枢港湾」、2010年に「国際コンテナ戦略港湾」に指定され、コンテナターミナル群は港湾管理者(自治体)と国が出資する港湾運営会社による共同体制を構築しています。
2020年、新型コロナで釜山港が混乱、大渋滞しトランシップに数週間以上かかる事態に陥りました。これでは荷主の製造や販売が止まってしまい大打撃です。サプライチェーン強靭化のためにも国際基幹航路を呼び戻そうという動きが強まりました。
そして国は2024年2月、「新しい国際コンテナ戦略港湾政策の進め方検討委員会最終とりまとめ」を発表しました。貨物量を確保するため、国内やアジアなどからのトランシップ貨物の集貨や、貨物を創出する流通加工・再混載等の複合機能を有する物流施設など、港湾背後への産業立地に取り組んでいます。
さらにコンテナ船が寄港しやすい環境を整えるため、コンテナターミナルの一体利用・機能強化(大水深・大規模ターミナルの整備、DXによる生産性向上)に加え、荷役機械の脱炭素化などのGXを進めています。
ローカル線に転落した日本の港は、果たして幹線に返り咲けるのでしょうか。この政策が鍵を握ります。
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