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「ジェット機でもプロペラ機でもない」異色の飛行機、なぜ誕生? 実はドンズバかもしれない使い方とは

乗りものニュース / 2024年6月26日 7時42分

「ファントレイナー」(細谷泰正撮影)。

飛行機はおおむね、ジェット機とプロペラ機の2タイプに分かれます。しかし、ドイツでは、そのいずれでもないエンジンを持つ飛行機を過去に開発していました。その目的はなんなのでしょうか。

「プロペラ機特有のクセ」が関係?

 飛行機はおおむね、ジェット機とプロペラ機の2タイプに分かれます。しかし西ドイツのライン航空機製造では、そのいずれでもないエンジンを持つ飛行機を過去に開発していました。練習機の「ファントレイナー(ファントレーナー)」です。

 最新鋭のジェット戦闘機のパイロットも、大型旅客機のパイロットも、操縦訓練を始めるとき最初に乗る機体はプロペラ機です。その理由は、運航費用が安いことに加え、操縦士としての適性の見極めに適していることなどが挙げられます。

 ところが、プロペラ機の操縦には、特有のクセも存在します。その一つが「ピーファクター(P-Factor)」と呼ばれるものです。

 プロペラは回転軸に対して気流を正面から受ける場合にはまっすぐ前に推進力を発生させます。ところが、迎え角を変えるとプロペラの右と左で気流と接する角度が変わってしまうため、推進力の方向が斜めに傾いてしまうのです。

 たとえば、プロペラの回転方向が時計回りのアメリカ製のエンジンを搭載した飛行機では、機首を上げると左側に引っ張られます。そのため、パイロットは右ラダー(方向舵)を動かすペダルを踏んで、修正する動作が必要になります。プロペラの回転方向が反時計回りのイギリス製のエンジンを搭載した飛行機では逆に左側のラダーを踏んで対処します。

 かつて、こうしたプロペラ機特有の操縦性が、ジェット機パイロットの養成には有害であると考えられた時代がありました。

 たとえば1950 年代、アメリカ空軍では全ての練習機をジェット化する構想のもと、ジェット初等練習機セスナT-37を導入します。ところが、訓練生が初めて操縦する機体としてはやはりジェット機は不向きであることが判明しました。そのため、米空軍は軽飛行機のセスナ172を軍用仕様としたT-41初等練習機を採用し、訓練生は最初にT-41で基本訓練を行った後にT-37へ移行する訓練体系に変更しました。

 戦闘機パイロットを大量に養成する必要に迫られていた西ドイツ(当時)でも1960年代、プロペラ機ではない練習機が計画されます。西ドイツのライン航空機製造はダクト(エンジンカバー)内に収めたプロペラ型のファンを用いて推進力を得る「ダクテッド・ファン」方式の軍用練習機を計画し、ジェットエンジンを用いた練習機よりも経済的にジェット機のような操縦感覚の練習機を目指します。これが、のちの「ファントレイナー」です。

あまり売れずも結構すごい「ファントレイナー」の能力

 同社はドイツ国防省から補助金を得て、エンジン出力150 馬力のロータリーエンジンを搭載した「ファントレイナー」原型1号機が製作。この結果をもとに出力420 馬力のアリソン250ターボシャフトエンジンを搭載した原型2号機が作られます。これは西ドイツ空軍の次期練習機候補として、ビーチクラフトT-34C「ターボメンター」、ピラタスPC-7ターボプロップ練習機と比較審査が行われました。

 結果、この時の審査では「ファントレイナー」が選定されました。しかし、西ドイツ空軍では当時運用していたピアジョP.149で十分であるとされ、実際の発注は見送られてしまいます。軍以外でも、経済的にジェット機の操縦感覚が得られる練習機としてドイツの大手航空会社ルフトハンザが一時採用を検討しましたが、結果としては、ドイツ国内からの採用はありませんでした。

 とはいうものの「ファントレイナー」は量産型が製造され、545馬力のアリソン250-C20Bターボシャフトエンジンを搭載した「ファントレイナー400」と、650馬力のアリソン250-C30を搭載した「ファントレイナー600」が完成しました。

 そのようなか、1982年にやっとこの機に発注が入ります。タイ王国空軍が31機の「ファントレイナー400」と16機の「ファントレイナー600」を発注したのです。

 タイ王国空軍が本機の採用に至った背景は、アメリカ製の練習機とともに、プロペラの回転方向が逆向きのカナダ製デハビランド・チップマンク練習機を使用していたため、異なる操縦操作による煩わしさを回避させたかったのでは、と筆者は分析しています。

 ライン航空機製造によると、ファントレイナーはジェット機に酷似した操縦性を持ちながら、燃料消費は80年代の典型的なジェット練習機であるアルファジェットの10分の1。取得費はT-37ジェット練習機のおよそ5分の1であるとしています。

 結局、「ファントレイナー」量産機は50機にも満たない機数しか製造されませんでしたが、ファンジェット・アビエーション社が2010年、この機の設計などを取得し、「ファンジェット600」として再び売り出そうと動いています。この機が、経済的な練習機として再び注目される可能性は十分あるのではと筆者は考えています。

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