「戦車にもなる」「負傷者も運べる」実はほぼラジコン!? 変幻自在の「ロボ車両」戦場を変える? 陸自はどう使うのか
乗りものニュース / 2024年7月6日 6時12分
戦場で無人車両が活用されつつあります。ウクライナでは最前線で負傷した兵士を助けに行っていますが、兵装を施せば無人戦車にも。陸上自衛隊も同様の無人車両を導入する見込みですが、どう活用するのでしょうか。
最前線へ「行ってきて」「運んできて」ができる
ウクライナ国防省は2024年5月、同国経済産業省および国軍参謀本部と共同で、負傷兵や病人を前線から安全な後方へ輸送する担架型UGV(無人車両)の実証実験を行ったことを明らかにしました。
実証実験で使用されたUGVはタイヤで走行する装輪式と、履帯(いわゆるキャタピラ)で走行する装軌式で、両タイプとも遠隔操作により走行するようです。まだ実際の戦闘には使用されていないようで、ウクライナ国防省としては、この実証実験が開発と量産の資金を集めるためのアピールの場も兼ねていると見られます。
このUGVの開発が継続し、量産に移行するのかは未知数ですが、ウクライナ軍は既に負傷者や病人を後送するUGVを使用しています。その一つがエストニアのミルレム・ロボティクスが開発し、同社からウクライナの慈善団体に寄贈された「テーミス」(THeMIS)です。
一般論として、前線から負傷者を担架に載せて後送する場合、1名の輸送につき2名以上の人員が必要となります。また前線に医療器具などを輸送する際にも、輸送する物資の大きさ次第ではやはり1名以上の人員が必要になります。
後送を担当する人員は一時的に前線を離れることになるため、その分、部隊の戦闘力は低下します。また、過去の紛争では負傷兵の後送や医療器具などの輸送にあたる人員が敵の襲撃を受け、負傷兵だけでなく、その救命を行うはずの軍医が命を落とすという事例も少なからず発生しています。
いかにして人手をかけずに負傷兵を安全な後方へ輸送するのかは万国共通の課題で、タイ陸軍のように、UAV(無人航空機)で負傷兵などの後方への輸送実験をしている軍隊も現れています。
ただ、UAVでの輸送は実際に乗る(運ばれる)負傷兵の心理的な抵抗が大きく、タイ陸軍の担当者はそれが実用化への課題の一つだと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)に語っていました。
戦車にもなる!
地上を走るUGVは、UAVに比べて乗る負傷兵の心理的な抵抗が小さく、負傷兵の後送などの手段として有力視されており、ウクライナは寄贈されたテーミスを活用しています。
テーミスの活用により、実際にどの程度の人名が救えたのかを示す明確な資料はないのですが、ミルレム・ロボティクスはテーミスを使用すれば、1名以上の負傷者をテーミスのオペレーター1名で後送できると述べています。またテーミスには最大1200kgの貨物が搭載できるため、重量の大きな医療器具や大量の輸血用血液などもオペレーター1名で前線へ輸送できるとのことです。
前に述べた実証実験に参加したウクライナのアンナ・グヴォズジャル戦略産業副大臣は「これらの装備は前線で必要であり、負傷者と軍医の両方の命を救います」と述べており、またオレクサンドル・シルスキー軍総司令官も「最新のロボット車両を使って負傷者を搬送することは、極めて重要なことです。戦場から適切な医療を受けられる場所まで兵士を避難させるのに必要な時間を短縮することができます」と述べていることから、テーミスの活用で負傷兵の後送や医療器具の輸送などの効率化が図れたことは確かなようです。
テーミスは2024年6月の時点で、お膝元のエストニアをはじめ16か国に採用されている、履帯で走行する多用途UGVです。
多用途というだけあって、遠隔操作式の機銃やミサイルランチャー、各種センサーを搭載すれば戦闘任務や偵察任務などにも、各種センサーを搭載すれば偵察任務にも使用できます。車体中央部の貨物スペースには、遠隔操作式の兵装や各種センサーの代わりに、人員や貨物を搭載することが可能で、ウクライナの慈善団体に寄贈された車体の貨物スペースには担架が置かれ、負傷兵の後送や医療器具の前線への輸送に使用されています。
陸自も導入 その使い道は?
防衛省は令和5年度(2022年度)から、5年以内に防衛力を強化するための施策の一つとして、「無人アセット防衛能力」の整備を打ち出しています。その一環として2024年3月にテーミスを導入するとも発表しています。
ミルレム・ロボティクスは防衛省からテーミス3両を受注したと発表していますが、これはUGVを早期戦力化するための試験導入分で、陸上自衛隊による試験結果が良好ならば、追加調達や日本でのライセンス生産もあるのではないかと筆者は思います。
防衛省はUGVを偵察や駐屯地(基地)の警備などで活用していく方針を示しており、負傷兵の後送などに活用していくのかは未知数ですが、有事だけでなく大規模災害の救助活動においても有用と考えられる救命用途での活用も、検討すべきではないかと筆者は思います。
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