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発車時刻に遅れたら“置き去り”は本当? そもそも「車外に客出さない」場合も 高速バス「休憩」の変化

乗りものニュース / 2024年7月7日 9時42分

高速道路の休憩施設に停まる高速バス(成定竜一撮影)。

高速バスの運行中にトラブルが生じやすいシーンが、SA・PAなどでの休憩です。各社があの手この手で“乗り遅れ”を防いでいますが、そもそも客を車外に出さない事業者も。乗務員にとっても休憩は運行上ますます重要になっています。

高速SAに着いても休憩は「乗務員だけ」

 高速バスがサービスエリア(SA)などで休憩する際、乗務員の交替だけで、利用者は車外に降りられないケースがあります。「売店に行きたいのに」と感じる人もいるかもしれませんが、休憩時に降りられないのはどんな場合でしょうか。

 そもそも、高速バス乗務員の運転時間には規制があります。運行管理の基本となる「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」で、「運転時間4時間に対し合計30分以上の運転の中断」が必要とされています。また、「高速乗合バス及び貸切バスの交替運転者の配置基準」では、運行計画上、連続運転はおおむね2時間までとされています。

 そのため、同乗している乗務員間での運転の交替(ツーマン運行の乗務員交替)や、地上で待っている別の乗務員への交替(ワンマン乗り継ぎ運行)の際は、交替さえできればよく、必ずしも休憩をする必要はありません。一方、ワンマン運行で、片道2時間強を超える路線では、休憩が必須となります。

 昼行路線はワンマン運行が多いので、片道2時間以上の路線ではほぼ必ずSAなどで休憩をし、利用者も車外に降りられます。利用者が降りられる休憩のことを「開放休憩」と呼びます。

 しかし、夜行路線では「開放」するかどうか、事業者のタイプによって分かれます。

 まず国鉄バスの流れを汲むJR系事業者は、多くが開放休憩です。1969年、東京~大阪間の夜行路線「ドリーム号」を運行開始した頃からの伝統と考えられます。ただし、ワンマン乗り継ぎを行うためだけにSAや営業所に停車する場合など、例外もあります。

 私鉄系事業者の夜行路線は、以前は多くが開放しない方針で、SAで停車してもツーマン乗務員の交替にとどめ利用者は降りられませんでした。これら私鉄系事業者の夜行路線は、1980年代に3列独立シート、トイレ付き車両の登場とともに成長したからです。3列独立シートは各シートが必ず通路と隣接しており、走行中でも周囲の乗客を起こすことなく車内トイレに向かうことができたからです。

開放休憩を「しないのが普通」だったワケ

 開放休憩をすれば、車内照明を明るくし発車時刻の放送も必要で、就寝中の利用者を起こしてしまいます。発車時刻に戻ってこない利用者への対応という課題もあり、開放しない傾向だったのです。かつて京王帝都電鉄(現・京王バス)/西日本鉄道の共同運行だった新宿~福岡線「はかた号」など極めて長距離の路線で1~2回の開放休憩が行われるのが珍しいという印象でした。

 現在は、私鉄系事業者でも、就寝前の23時台、または起床後の5時台に1~2回、開放休憩を実施する路線が増えてきました。

 なお、かつては夜行路線にも4列シート車両(ただし座席間隔がかなり広め)を使っていた西武バスやその共同運行先、またエアロキング(2階建てバス)のように3列独立シートでも隣の人を起こさないと車内トイレに向かえない座席がある車種を使う路線では、開放休憩がありました。続行便(多客日の2号車、3号車)に貸切バスなど4列シート車を投入する際なども同様です。

開放休憩したらしたで必ず浮上する「課題」

 2002年以降、高速ツアーバスとして後発参入した事業者は、開放休憩の比率が高めです。もともと4列シートの貸切バスをチャーターしてスキーツアーを企画していた頃からの流れです。ウェブマーケティングの普及により「バスを比較して予約する」時代に成長した各社ですから、開放休憩の有無や「深夜でもコンビニが営業」といった休憩場所の特徴をウェブ上に記載し、利用者の好みで選んでもらう姿勢の事業者もあります。

 さて昼行、夜行を問わず、バス事業者にとって、開放休憩の最大の課題が、出発時の人数確認と、発車時刻までに戻ってこない利用者への対応です。

 最近の夜行路線には、通路と座席を仕切って個室風となるカーテンを付けた車両が増えました。カーテンの上部はメッシュになっていて利用者が戻っているか乗務員が覗き込むことができるのですが、特に女性客が就寝中の場合は気を遣うと乗務員は言います。

乗り遅れたらSAに「置き去り」いまどうなの?

 バスを離れる利用者に番号札やストラップ付きのプレートを渡し、戻ってきた際に回収する、という方法を採っている事業者もあります。平成エンタープライズ「VIPライナー」が始めた手法が広がったものと考えられます。座席定員と同じ数の札が揃わない限り、誰かが戻ってきていないことになるので、人数確認の手法としては完璧です。

 ただ、休憩時間中、乗務員は交替でバスの前に立って札を回収する必要があります。乗務員のトイレ、車両点検などの時間が別に必要となり、停車時間が伸びてしまいます。

 また、一時期「人数確認をしない」と案内した上で、本当に人数確認をせず発車(ただし案内した出発時刻以降、しばらく待機してから発車)していた事業者もありましたが、けっきょく元に戻っています。「乗合バスだから定刻に発車すればいい」という意見もありますが、そうもいかないのが現実です。

 鉄道では乗客が途中の駅に置いて行かれても駅員が何らか対応できますが、高速道路のSAで利用者がバスに置いて行かれた場合、SA側でできる対応には限界があります。車内に残された手荷物の返却などバス事業者の側の対応も煩雑になり、人数確認を確実に実施する方が無難、という結論になってしまいます。人数確認の苦労はまだまだ続きそうです。

遅れているのにまた休憩!?

 もう一つの課題が、渋滞で遅延した際の対応です。冒頭でご紹介した運行管理の法令のうち、「改善基準告示」で決められている「運転時間4時間に対し合計30分以上の運転の中断」(ただし、10分以上の中断を合算して30分以上であれば可)は、運行計画ではなく実際の走行実績に基づく必要があります。つまり、運行が大幅に遅延した際は、臨時で追加の休憩が必要になるのです。

 さらに「運転時間」には回送中の運転も含まれます。目的地で降車扱いをした後、大都市の停留所周辺には10分以上バスを止めておく場所など無く、最後の休憩場所から車庫に着くまでが「連続運転」扱いとなるので、臨時の休憩が必要となるケースは意外と発生します。

 特に昼行路線では、「ただでさえ渋滞で遅れているのに」と、利用者は(実は乗務員本人も)一刻も早く目的地に着きたい気持ちになりますが、法令を守り、ひいては安全を確保するための休憩ですので省略するわけにはいきません。

「バス乗務員がカレーを食べていた」実は珍しい?

 ところで以前、「高速バスの乗務員が休憩の際にカレーを食べていたことが苦情になった」というニュースが話題になりました。確かに、開放休憩の際に乗務員自身が食事をとるのは珍しいケースではあります。

 というのは、片道4時間程度以下の昼行路線と、片道6時間を超える夜行路線では、遅延しない限り、乗務員自身の食事の時間とは重なりません。前者は目的地に到着後、折り返しまでに正式な休憩時間がありますし、後者は深夜帯に運行するからです。

 これらの路線では、SAでの15~20分程度の休憩中も、乗務員にとっては休憩ではなく労働時間としてカウントされるのが普通です。バス乗務員は会社員ですから労働時間や休憩の考え方は一般的なデスクワークの人と同じで、法定の休憩は終点到着後に確保されます。SAでの休憩は、デスクワークの人が正式な休憩(いわゆるお昼休み)以外の会議の合間などに、トイレに行ったり「一服」したりするのと同じ扱いです。

 しかし、片道5~6時間の昼行路線では、SAで30分ほど休憩するものがあり、その中には、運行管理の法令をクリアする目的に加え、一般的な労働規制で定められた休憩時間の確保を兼ねているケースがあります。いわゆるお昼休みに当たる時間で、当然、食事をとる乗務員もいます。

 もちろん、それ以外の路線でも、渋滞で大きく遅延した際などは乗務員が食事をとるケースも起こります。珍しいケースだけに苦情になったのかも知れませんが、これもまた法令で定められた乗務員自身の休憩時間ですのでご理解をお願いします。

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