「オイ違う車両挟まってるぞ」明らかに取って付けた扉… なぜ国鉄・JRは一時期“魔改造電車”ばかりだったの?
乗りものニュース / 2024年7月5日 7時12分
北陸エリアで、普通列車に使用されていた交直両用急行形電車。右は2013年に復刻された急行色で、車体裾に入る細い帯は、かつて60ヘルツ電源用車両を識別するために入れられていたものを再現している(遠藤イヅル撮影)。
国鉄時代には、不要になった電車を他の用途に転用した事例は数多くありました。急行形電車の使えるものを使って生まれた近郊形電車や、特急形電車のグリーン車を近郊形電車に転用した「化けサロ」など、特徴ある車両ばかりでした。
「食パン」魔改造だけじゃない 急行形魔改造の系譜
国鉄・JR車両には、投入する列車や路線の特徴に応じた「特急形」「急行形」「近郊形」「通勤形」および「一般形」という車両区分があります。ただ、稀にそれらをまたいだ車両転用や改造が行われることも。1980年代に、花形だった寝台特急車両を無理やり近郊形に改造した419系や715系などが、その代表例です。
改造された理由は、仙台・金沢・富山・熊本・宮崎・大分・鹿児島といった地方都市部の近郊輸送におけるフリークエンシー化と、それに充てる車両の不足でした。そのため、急行列車の廃止で余剰となっていた交直両用の急行形電車(451系・453系・455系・457系・471系・473系・475系)も、近郊区間の普通列車用に次々と転用されました。
しかし優等列車用に開発された急行形電車は、朝夕のラッシュで乗客が増える普通列車には向いていないのも事実でした。そのためドア付近の仕切り撤去・ロングシート化・吊り革増設などを行い、乗客流動を改善した「近郊化対応改造」が、1983(昭和58)年頃から数多くの車両に施行されました。
ですが、車体両端にドア2か所というスタイルはそのまま。乗客流動が悪く、列車の遅延を生じさせるという欠点は残りました。
ただ、地方都市部における普通列車の問題は、そうした電車化が進む以前、デッキ付きの客車を主に用いていた頃から顕在化していました。人口増加によって混雑時の対応が追いつかなくなっていたのです。そこで1978(昭和53)年、国鉄は新たに2扉クロスシート車の交直両用近郊形電車417系を開発。仙台エリアに3両編成15本を投入しました。
東京・大阪・名古屋・福岡などの大都市圏では、スムーズな乗降と中距離移動の快適性を兼ね備えた3扉クロスシートの近郊形電車(111系・113系・115系・415系など)が適していましたが、地方都市部では3扉が必要なほどのラッシュが少ないことや、低いプラットホームに対応できないことから、417系では2扉車体・低いホームに合わせたステップ付きで登場しました。
また417系と同一の設計思想を持つ電車として、1983(昭和58)年には九州エリアの長崎本線・佐世保線にも、交流近郊形電車713系が登場。2両編成4本を導入しています。
ここまでパーツを使い回すのか!
地方都市部のエースとして期待された417系・713系ですが、逼迫した国鉄の財政状態では新車の製造は難しく、結局、以降の増備は見送られてしまいました。そこで、冒頭に紹介した419系・715系という寝台特急からの「魔改造車」も編み出されましたが、依然として、これら地方都市部では急行形電車が近郊輸送を支えていました。
とはいえ輸送改善はやはり急務。そこで国鉄は、417系・713系のような2扉クロスシート車の導入を決定します。しかしすべてを新規に作るのではなく、同区間を走っていた急行形電車の床下機器、冷房装置などをできる限り再利用。他系列の廃車発生品も流用しコストを削減していました。ボックスシートや網棚なども再利用されており、使えるものはなんでも使って製造されていました。
こうして1986(昭和61)年に誕生したのが、交直両用近郊形電車の413系と、交流近郊形電車の717系でした。
413系は北陸エリアに3両編成11本、717系は仙台エリアに3両編成(0番台・100番台)10本が、そして東九州・南九州エリアにも2両編成(200番台・900番台)8本が投入され、近郊輸送に貢献しました。九州エリア用の717系900番台は、なんと急行形だった種車の車体すらも流用し、中間に両開き扉を増設して3扉化した珍車でした。
なお両系列ともに、2024年現在、あいの風とやま鉄道とえちごトキメキ鉄道に譲渡された413系以外は、すべて引退しています。えちごトキメキ鉄道では、種車がかつて塗っていたローズピンクとベージュの塗色に変更されて運用しており、交直両用急行型電車の面影を今に残しています。
見た目が明らかに違う「化けサロ」
このほか他区分から近郊形電車に転用された例としては、特急形電車のグリーン車を近郊形電車のグリーン車に改造した車両も存在しました。
古くは昭和40-50年代に、153系急行形電車から113系近郊形電車のグリーン車への転用が見られました。その後、この際に登場したグリーン車両であるサロ110形が老朽化したため、上越新幹線開業で余った181系特急形電車のグリーン車を、113系のグリーン車へと改造することを計画。ドアを増設したうえでサロ110形300番台に編入して、1982(昭和57)年から東海道線で使用を開始しました。
その後は181系だけでなく183系・485系・489系といった特急用電車から改造転用が続き、サロ110形350 番台・1300番台・1350番台などが誕生。東海道線・総武快速線・横須賀線などで用いられました。これらは、塗装こそ113系に準じていましたが、卵型の車体断面や冷房装置、窓形状は特急形電車の外観そのままだったので、明らかに「異系列の車両」が編成に挟まっていることがわかりました。
他にも、急行形電車から転用されたグリーン車もありました。特に変わっていたのは、グリーン車ではなく普通車のサロ165を改造したサロ110形500番台でした。ややこしいことに、165系のグリーン車を転用したサロ110形400番台なる車両もありました。
113系の改造グリーン車は「化けサロ」と呼ばれてファンに親しまれていましたが、現在では全車廃車され、現存しません。
サービス改善を目的に国鉄が財政のなかで生み出した、他の区分から改造された近郊形電車。しかしその姿を残すのは413系のみとなりました。今後の末長い活躍を祈らずに入られません。
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