運転代行が「タクシーより安い」なぜ可能? 5.6万人が従事する“グレーな移動手段”の問題点 業界団体「安いからいいではない」
乗りものニュース / 2024年7月30日 9時42分
移動をクルマに頼る地方都市では、夜飲み後の移動手段として「運転代行」が欠かせません。その業界団体が国土交通大臣と面会。団体が「せめて最低利用料金の設定を」と訴えるその理由は、乗客の安全とも関わっています。
タクシーとやることは同じ でも「誰でもできる」
移動をクルマに頼る地方都市では、夜飲み後の移動手段として、タクシーと並び「運転代行」が欠かせない存在となっています。その業界団体が、警察庁を管理する国家公安委員会と、旅客運送を担当する国土交通省に要望書を提出。国交省では大臣と面会しました。
運転代行業は、飲酒などで運転できない運転者に代わって車両と人員の両方を送迎する事業で、通常は1台のクルマを用いて2人1組で営業しています。市街地などでタクシーに混じって客待ちをする様子を見かけることもあり、利用者にとって両者の違いはわかりにくいかもしれません。
しかし、運転代行はタクシーのように旅客運送でもなければ、車両を運ぶ貨物運送でもないのです。事業者で組織する公益社団法人「全国運転代行協会」の板橋勇二会長は、こう訴えます。
「お客さんを乗せて目的地まで運ぶ。運転代行もタクシーも同じですが、日本の標準産業分類では『その他の対個人サービス』で、運送業ではないのです」
運送業には、乗客の安全を確保し、事故を未然に防ぐ取り組みが強く求められています。また、価格競争のために安全コストを削ることは禁じられています。利用者にとっては、安いに越したことはないのですが、過去何度も安全コストを切り詰めたダンピングが、悲惨な事故を招いていることから、乗員だけでなく、事業者の運行管理体制も厳しく問われているのです。
一方、運転代行で送迎を行う場合は二種免許が必要なものの、車両管理や運行管理の責任者は「安全運転管理者」の講習を受けた資格者の届出だけで済みます。
安全運転管理者は、5台以上の車両を所有する団体で設置が義務付けられた運行管理の責任者で、運転代行に限った資格ではありません。運送業と同じ仕事をしても「その他の対個人サービス」に位置づけられているため、運送業のような特別な資格も知見も必要ないのです。板橋会長は、こう指摘します。
「運転代行は最低限の条件で、警察に必要書類を提出すれば、公安委員会から認定番号を受け、ほとんど誰でも開業することができます。しかし、健全な事業経営と利用者保護は一体です。認定要件の厳守、厳格化を求めたい」
事故対応の保険加入すら疑わしい事業者も
行政の厳しい対応は、民間の競争を阻害する行為という見方もあります。ただ、ほぼ規制のない運転代行業界では、こんな問題もあると、板橋会長は指摘します。
「開業後、必要と認めた場合に警察などが立入検査もできるのですが、事業者によっては検査予告の電話にでない。届出住所に事務所がない、ということもある。事務所には役務提供の約款を掲示しなければならないのですが、事務所がどうなっているのかもわからなければ、約款があるのかさえもも定かではない」
万が一の交通事故に備え、運転代行保険(共済)への加入が必要ですが、これについても抜け道があると言います。
「損害賠償保険(共済)の契約書は届出時に必要ですが、届出時よりも車両が増えた場合に加入を怠ったり、(悪質な場合は)認定を受けたのち契約を打ち切ってしまったりすることもあると聞く。だから、(運転代行は)安い料金で引き受けることができる。安いからいいわけじゃないんです」(板橋会長)
さらに、運転代行には最低料金などの目安がなく、それゆえタクシーのように改造できない封印のついた料金メーターも、必要条件ではありません。
「携帯電話で受け付け、交渉で料金を決めてしまう。競争が激しい地域では、実質的にタクシーに乗るより安い、という白タクじみたことも起きている。ダンピングを行う事業者は利用者が多い週末だけ営業して、ほかの日は電話が鳴っても受けない。これでは飲酒運転撲滅のための社会的使命は果たせない。国土交通省が示すガイドラインに沿った条例制定に向けたテコ入れを求めたい」(前同)
前述の公益社団法人「全国運転代行協会」と公益財団法人「交通安全振興機構」で組織される運転代行連絡協議会(村井博敏会長)は2024年7月16日、国土交通省と国家公安委員会に対して、運転代行が直面する問題の解決を申し入れた要望書を提出しました。
運転代行は公共交通が充実しない場所ではタクシー以上に需要が高く、運転代行連絡協議会は、全国で約7700事業者、約5万6000人が従事すると集計しています。
守られるべきは利用者の安全か、職業分類による縦割り行政か、白とも黒とも言い難いグレーな交通手段のあり方が問われています。
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