一時漂流の「高速ジェット船」機関トラブルが他人事でないワケ 維持更新できる人材だいじょうぶ?
乗りものニュース / 2024年7月25日 8時12分
東海汽船のジェットフォイルが千葉県沖で航行不能になりました。原因は機関故障だといいますが、当該船はかなりの老朽船だとか。しかも同様の懸念は、国内他社のジェットフォイル全般に言えるようです。打開策はあるのでしょうか。
最高80km/hオーバーで海面を疾走
東京と伊豆諸島を結ぶ高速ジェット船が2024年7月24日、千葉県の房総半島沖で機関故障のため一時漂流しました。航行不能に陥ったのは東海汽船の「セブンアイランド愛」で、同船は東海汽船が保有する高速ジェット船4隻の中で最古参になります。
日本では「ジェットフォイル」の通称でも知られる高速ジェット船ですが、実はこの船の開発元は造船会社ではありません。大手航空機メーカーであるアメリカのボーイング社が生みの親です。
しかも当初は軍用として開発されたのだとか。いったいどのような経緯で旅客船へと姿を変え、日本で運航するようになったのでしょうか。
高速ジェット船の特徴は、なんといってもそのスピードにあります。最高速力45ノット(83km/h)という、既存の船舶にない快速性を実現するため、他の船ではまず見られない特異な形状をしています。
主機関はガスタービンエンジンですが、これでウォータージェットポンプを駆動することで、1分間に約150tの海水を高圧力で噴射させ、高速推進を実現します。また、船体の前後にある水中翼の揚力を用い、船体を海面から浮かせるのも高速航行の秘訣です。
いうなれば、航空機でいうところの大気の代わりに水で揚力を得ており、翼走中のジェットフォイルは、航空機ときわめて似た仕組みで航行しています。
このスタイルから“海の飛行機”とも称されるそうで、「ジェットフォイル(Jetfoil)」という呼び名も、ジェットエンジンやウォータージェットに由来する「ジェット(Jet)」と、薄い翼を意味する「フォイル(Foil)」を組み合わせた造語です。
世界の「ジェットフォイル」の半数近くが日本に
その外観や構造から「水中翼船」と呼ばれることもあるジェットフォイルですが、メーカーであるボーイングでは、「ジャンボジェット」の愛称で知られる747を始めとして、737や777、787などと同じく「929」という3ケタの数字からなるモデル名を付与しています。
研究そのものは1960年代前半から始まっていますが、当初は軍用に主眼が置かれており、1968年に最初の実用艇として沿岸パトロール用の「トゥーカムカリ」が就役すると、その快速性にNATO(北大西洋条約機構)が注目し、ミサイル艇の開発へと進みます。
一方、ボーイングではこの技術を基に旅客船にも着手。こうして1974年に生まれたのが「ボーイング929」でした。
日本では、佐渡汽船が1977年に導入したのが最初で、その後、川崎重工がライセンス生産契約を締結。以後は国内建造が主流になります。なお、国産艇は1989年より就航しており、1995年までに16隻が川崎重工神戸工場で建造されています。
2024年現在、日本国内で「ボーイング929」を運航しているのは、前出の東海汽船、佐渡汽船のほかに、隠岐汽船、九州商船、九州郵船、種子屋久高速船で、その数は約20隻にもなります。
建造数は、ボーイングと川崎重工、そして同じくライセンス生産契約を結んだ上海新南船廠の3企業で合わせて44隻なので、その半数近くが日本で運航されている計算になります。
こうして見てみると、実は日本がジェットフォイル(ボーイング929)大国であることがわかるでしょう。
新船の建造がハードル高いワケ
なぜ、日本がここまでジェットフォイルを多用しているのか。それは多島国家である点が大きいでしょう。比較的近距離に有人離島が点在するため、1隻あたりの収容人数や長大な航続距離よりも、短時間で往来できる方に軸足が置かれるからです。
また、飛行機と競合する路線に優れた高速性を持つジェットフォイルが投入されているというのもあります。
ただ、2020年7月に就航した東海汽船の「セブンアイランド結」を除くと、いずれも竣工から20年以上が経過した老朽船で、リプレイスが課題となっています。
実際、このたび航行不能になった「セブンアイランド愛」は1980年10月竣工(東海汽船での運航は2002年より)で、すでに40年以上も使われ続けているベテラン船です。種子屋久高速船が運航する「トッピー7」は、さらに古い1979年竣工と、老朽化が課題になっています。
しかし、代替船を検討する際にネックになるのが、50億円を超える高額な船価です。
2020年に就役した「セブンアイランド結」を建造する際も、1隻だけでは費用の問題から建造が難しかったため、当初はジェットフォイルを所有する他社と連携して建造できないか検討されたものの、折り合いがつかず難航しました。
一方で建造する側の川崎重工も、このタイミングで建造しないと、ノウハウを持った技術者がいなくなり、ジェットフォイルの技術が伝承できないという深刻な状況を抱えていました。
そこで東海汽船が使った手が、JRTT(鉄道建設・運輸施設整備支援機構)の共有建造制度を利用するというもの。これに東京都から船価の45%に当たる23億円の建造補助を得て、さらにエンジンなどの主要部品も従来船のものを流用するなどしてコストを抑えたことで、ようやく建造にこぎつけています。
ノウハウ喪失まで待ったなし
今回の「セブンアイランド愛」の航行不能は、おそらく他の会社にとっても他人事ではないでしょう。
しかし、開発元のボーイングでは、最後に建造したジェットフォイルの引き渡しから40年近く経過しており、ノウハウを持つ技術者は残っていないと思われます。
一方、日本では前出のJRTTが、ジェットフォイルの建造を支援しようと制度を拡充し、共有建造においては、共有期間を通常(軽合金船)の9年から最長15年へ延長するなどしているほか、共有比率についても、一定の条件さえクリアすれば上限を70%まで引き上げています。
川崎重工も、ジェットフォイルのノウハウを維持するためには継続的な建造が必要としており、新技術を取り入れながら、エンジンを新しくするなどアップデートを図り、今後も事業を続けていく方針を示しています。
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