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初飛行50周年 ヨーロッパ共同戦闘機「トーネード」万能性を追求したら“見込み客”半減なぜ?

乗りものニュース / 2024年8月20日 6時12分

ドイツ空軍の「トーネード IDS」(画像:ドイツ連邦軍)。

今から50年前の1974年8月14日、1機の軍用機が初飛行を行いました。機体の名前は「トーネード IDS」。複数国が集まって共同開発を行う機体のさきがけとも言える存在ですが、その完成までには困難もあったようです。

皆で作ろう万能戦闘機!

 今から50年前の1974年8月14日、1機の軍用機が初飛行を行いました。機体の名前は「トーネード IDS」。同機は戦後から活発になった複数国による戦闘機共同開発のさきがけともいえる機体でした。

 1960年代後半、欧州はアメリカを中心とした北大西洋条約機構(NATO)の加盟国などの西側陣営、ソビエト連邦(現ロシア)を中心としたワルシャワ条約機構の加盟国などの東側陣営が対峙する東西冷戦のただ中にありました。

 当時、NATO加盟国のうち西ドイツ(現ドイツ)、オランダ、ベルギー、イタリア、カナダでは、運用していたアメリカ製のF-104「スターファイター」戦闘機が旧式化し、後継機を必要としていました。

 また、同じ頃イギリスも偵察機や攻撃機の後継機を計画し、さらに戦闘機に目を転じても現用のイングリッシュ・エレクトリック「ライトニング」やF-4「ファントム II」の後継機が必要とされている状況でした。イギリスは、先手を打って自国企業のBAC(ブリティッシュ・エアクラフト・ コーポレーション)とフランスのダッソーの間で次世代の可変翼機プロジェクトである「AFVG」を立ちあげていたものの、これはうまくいかずプロジェクトは中止されています。

 これを受け、イギリスはF-104の後継機を探す国々を新たにパートナーとして迎え、NATO加盟国の多くが使用できる、制空戦から地上攻撃、偵察まで全てを任せられる超音速の多用途戦闘機(マルチロール機)を作りだそうと考えます。それが1968年に開始された後の「トーネード IDS」となる「MRCA(多目的戦術機)」開発計画でした。

思惑が違うのにまとまるはずはなかった…

 しかし、同じNATO加盟国といえども、地理的事情により各国で要求性能は異なり、それをまとめるのは至難の業でした。たとえば、イギリスは空戦能力を欲しつつも、地上攻撃や偵察を重視していたのに対し、ほかの国は制空戦闘に優れた戦闘機が欲しいといった状況で、運用思想すら違っている状態だったのです。そのため、最初から計画通りスムーズにいくはずもありませんでした。

 計画の詳細が決まる前に、まずカナダとベルギーが離脱を表明。1969年3月にイギリス、西ドイツ、イタリア、オランダの4か国でひとまず制空戦闘、地上攻撃、偵察などの幅広い任務をこなす戦闘機を作るにはどうすればいいかの意見交換などが行われましたが、1970年に今度はオランダが、ここまで複雑で開発が困難な機体は不要と判断し、離脱してしまいます。

 結局、残ったイギリス、西ドイツ、イタリアの3か国で、エンジンや機体を開発する合弁会社である「パナビア エアクラフト」を設立。イギリスと西ドイツがそれぞれ業務量の42.5%の株式を取得し、イタリアが残りの15%を保有する形で本格的な戦闘機の開発がスタートします。

 しかし、この後も同機をふたり乗りの複座機にするかひとり用の単座機にするかで、イギリスと西ドイツが揉めることになります。このときは結局、複座型を推すイギリスの案が通ります。

困難を克服して完成した機体の性能は?

 1974年8月14日の初飛行後は、高高度での減速中に搭載したRB199エンジンに振動が発生するという重大な安全上の問題が発見されます。この問題を解決するため、超音速旅客機「コンコルド」を開発したイギリスの設計チームが関わるなどし、イギリス側とドイツ側の技師の情報共有の不備もありつつも、1976年には問題はほぼ解決し最初の量産機の製造を開始。完成した量産1号機は1979年7月10日に初飛行しました。

 こうしてモノになった「トーネード IDS」は当初計画していた通り、対地攻撃や低空での偵察能力は良好。NATO規格のミサイルや爆弾はほぼ全て搭載でき、低空と高空の双方での運動性も可変翼のお陰で確保されていました。ただ、イギリスは北海や大西洋北東部などの海上で運用するには航続距離に不安があるということで、同機とは別に「トーネード ADV」という制空戦闘専用の機体も独自に開発しています。

 量産開始後は開発を担当した3か国のほか、サウジアラビアも同機を購入します、実戦投入は1991年の湾岸戦争が最初で、その後もアフガニスタン戦争や、イスラム国との戦いにも使用されています。直近でも2018年のシリア内戦にイギリス空軍がシリア政府軍を攻撃するのに用いており、2024年現在も運用中です。

 揉めに揉めた同機の共同開発で得られた経験と実績はその後、イギリス、ドイツ、イタリア、スペインが共同開発を行ったユーロファイター「タイフーン」で活かされることになります。おそらくイギリス、イタリア、そして日本の3か国で計画中の次期戦闘機開発計画、いわゆるGCAP(Global Combat Air Program)でも、その知見は活かされるのではないでしょうか。

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