「ドローンはレーザーで撃ちまくれ!」そう簡単じゃない!? “コスパ兵器”時代に日本メーカーが活きる道とは? 【後編】
乗りものニュース / 2024年10月7日 8時42分
海外への輸出拡大を目指す日本の防衛産業にとって、これまでとは異なる形で装備品を作り上げる仕組みの構築は喫緊の課題です。米国企業との提携により課題を乗り越えようとしている三菱電機の取り組みを取材しました。
将来の防空システム像とは
日本の防衛産業は、自社製品を海外へ輸出することを目指してさまざまな取り組みを行っています。なかでも、海外企業との提携を強め、各種の実績を積み重ねているのが三菱電機です。同社の企業戦略について、筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は同社防衛システム事業部の洗井昌彦事業部長を取材しました。
3回に分けてお伝えするインタビューの最終回は、将来の防空システム像と、日米同盟の中における防衛産業の「あり方」についてです。
三菱電機は、これまで陸上自衛隊向けの防空システムやレーダーなどを開発・製造してきたことで有名です。そこで、三菱電機が思い描く、今後の陸上における防空システム像とはどのようなものでしょうか。洗井事業部長は現状も交えながらこう説明します。
「現在、陸上自衛隊は弾道ミサイル防衛と極超音速兵器(マッハ5以上)への対処能力を備えようとしており、これらは今後10年以内に装備化される予定です。しかし、その後は無人機のようなコストパフォーマンスに優れる兵器が脅威となる可能性があり、防空システムについてもそうした脅威への対処に論点が移っていくのではないかと考えています」
そこで、迎撃側においてもコストパフォーマンスに優れる安価な装備が必要になりますが、そこで注目されているのが高出力レーザー兵器です。洗井事業部長は、高出力レーザー兵器において重要なのは、必ずしも「レーザーそのもの」に限らないと指摘します。
「どんなに小さな無人機であっても、最低5秒間はレーザーを照射しなければ効果がありません。そこで重要になるのは、目標の捕捉や追尾能力です。高出力レーザー自体は三菱重工さんなどが担当されるとして、我々はレーザー兵器を効果的に運用するために必要なセンサーや大気計測などの分野に取り組みたいと考えています」
無人機に代表される将来的な脅威に対処することと同様に、ミサイルや航空機など多様な脅威に備えるために必要なネットワークシステムについても、その重要性が大きくなってきています。
現代の戦闘では、陸は陸軍が、海は海軍が、というようにそれぞれの軍種が特定の担当領域のみで活動すれば良いというわけではありません。陸海空軍が持つ装備を一体的に運用し、それぞれが持つ強みを生かして戦闘を有利に進めていく、いわゆる「統合運用」が求められます。そして、その統合を高いレベルで実施するためには、お互いの装備品同士をネットワークで結びつけることが求められます。
単純に連接するのではなくて…日米同盟における防衛産業の新たな試み
「統合化されたネットワークを使えば、単独では補えない能力を(味方のシステム同士をつなぎ合わせることで)何倍にも増加することができます」と、洗井事業部長は将来戦におけるネットワークや通信システムの重要性を指摘します。
そこで重要になるのが、2024年1月17日に三菱電機とアメリカの大手防衛関連企業であるノースロップ・グラマン社が締結した、「統合防空システム分野における装備品のネットワーク化の実現を目的」とする協業契約です。
ノースロップ・グラマン社は、あらゆる装備品や部隊同士を連接し、リアルタイムで情報を共有することができる次世代の指揮統制システム「統合防空ミサイル防衛戦闘指揮システム(IBCS)」を開発し、すでにアメリカ陸軍において採用されています。そして三菱電機も、陸上自衛隊で運用中の「対空戦闘指揮統制システム(ADCCS:アドックス)」と呼ばれる指揮統制システムを開発した実績があります。
「ADCCSとIBCSはかなり似ているシステムです。そのため、そこをどうコラボレーションさせていくのかというのは、まさに今(ノースロップ・グラマン社と)お話をしている最中です」と、洗井事業部長は説明します。一方でこの協業契約は、ADCCSとIBCSを単純に組み合わせる、あるいはIBCSを陸上自衛隊に導入するというシンプルな話ではないと、洗井事業部長は指摘します。
「日本周辺で有事が起きれば、運用の観点からして、アメリカ軍は必ずIBCSを日本に持ち込んでくることになります。その際、日米は共同で戦うのは当たり前のことです。三菱電機は日本における国産防空システムメーカーであり、アメリカ軍の運用における中核となるIBCSと日本の防空システムがどのように連携していくかということは、日米の共同防空の中では重要なテーマになると考えました。そこで、ノースロップ・グラマン社との協業契約を結んだのです」
つまり日米が共同で戦うことを前提として、お互いが持つ装備品をいかに連接させるかという点について考えた結果、それぞれの開発元である企業同士で提携を結んだということです。これは、日米同盟の下における防衛産業の新たな歩みのはじまりといえるかもしれません。
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