世界初の「鉄道・バス両用」これでいいの? 全運休となったDMV 「やってることバスと同じ」という疑問
乗りものニュース / 2024年10月28日 7時12分
四国の南東部を走る阿佐海岸鉄道は、2021年より道路と鉄道の双方を走行できるDMVを運行しています。世界でもほぼ見られないレア車両ですが、道路と鉄道の直通はどの程度の集客効果があるのか、乗車し現状を見てみました。
日本では実現までに59年を要した
線路も道路も走行可能なデュアル・モード・ビークル(DMV)。世界で初めて本格運行に漕ぎつけた、四国南東部の阿佐海岸鉄道阿佐東線でしたが、2024年10月初め、同社はDMV1台に不具合が見つかったとして、全車両の精密検査を行うために11日(金)まで運休しました。
筆者(安藤昌季:乗りものライター)は8月下旬、DMVに乗車。運行開始から3年が経とうとする中、2023年には1日13往復(平日)あったダイヤが8往復へ減便されていました(多客期は増発)。縮小傾向にも見えますが、期待された室戸岬への直通効果はあったのでしょうか。
そもそもDMVのように鉄道にもバスにも可変できる乗りものは、1960(昭和35)年ごろのドイツで、バスの運転席側に鉄道の台車を付け、後輪ではタイヤをレールに設置させた「鉄道を走れるバス」として研究されました。バス主流の地域から乗り換えなしで鉄道へ乗り入れられたら、広域集客に有利との考えからです。
日本でも国鉄が1962(昭和37)年、英語で「両生類」を意味する「アンヒビアン」バスの開発を開始しますが、車両をジャッキで持ち上げバスの下に鉄道の台車をセットする構想に無理があり、開発は失敗しました。
その後2004(平成16)年に、JR北海道がマイクロバスを改造した定員34名の試作車「サラマンダー901」を製造。翌年には2両を背中合わせに連結できる、定員16名の第二次試作車911・912号車も製造しました。
しかしJR北海道は安全対策と新幹線建設を優先させるとして、2014(平成26)年に導入を断念。技術を継承した阿佐海岸鉄道が2017(平成29)年、DMVの導入を決めたのでした。
DMVはどんな車両?
阿佐海岸鉄道は2018(平成30)年の時点で、1992(平成4)年時の2%しか定期券発売数がないという利用状況で、通常の気動車では輸送力を持て余していました。そこでDMVという珍しい車両による観光資源化、ランニングコストの削減、観光地・室戸岬への直通、高齢化に対応したきめ細やかな交通網の整備、災害復旧のしやすさなどの利点から、導入に踏み切ったのです。
完成したDMV-93形は、鉄道モードでは車輪が出て、後輪で線路を推進するもので、ジャッキは不要でした。トヨタ自動車のマイクロバス「コースター」がベースで、定員は座席18名、立席4名、乗務員1名の合計23名。全長8.06m、全幅2.09m、自重5.85tという車両です。もともと運用していたASA-301形気動車の定員100名、全長16.3m、全幅3m、26.2tと比較しても超小型といえます。なお、最高速度は70km/hです。
室戸岬方面まで直通するのは、土日祝の1日1往復のみです。DMVの始発となる海の駅「とろむ」まで、土佐くろしお鉄道の奈半利駅(高知県奈半利町)から高知東部交通バスに乗り、室戸営業所から歩きました。なお、阿佐海岸鉄道ホームページを見ても、JR四国や高知東部交通バスなど、他の交通機関との乗り継ぎがわかりにくいです。観光集客を考えるなら、現地への行き方・帰り方の情報は必須だと思う次第です。
座席は1+2列で1人掛けが幅44cm、2人掛けが1人46.5cm。ひじ掛けはありませんが、座り心地はなかなか。窓と座席の位置は一致し、1B席と2D席からは前面展望が楽しめます。ただし飲食禁止です。筆者以外の乗客は1名のみで、13時52分に出発しました。
モードチェンジを行い一路終点へ
13時58分、室戸岬に到着。観光客で賑わい、カフェもありました。奈半利駅方面からの高知東部交通バスは、こちらの乗り換えが便利です。ここで2名が乗車。海が近く絶景でした。
発車後に計測すると、平均震度は4.9、平均騒音は72.1dbで、結構揺れ走行音も響きます。機器類が揺れる音がするのはDMVらしいです。
14時6分、室戸世界ジオパークセンターに到着。ここも高知東部交通バスと乗り換えられます。次のむろと廃校博物館には14時12分に到着。3名が乗車しました。
ここから約50分は無停車です。14時52分着の海の駅 東洋町では乗降なし。風光明媚な海岸リゾート地でした。
14時56分、阿佐海岸鉄道の甲浦駅に到着。ここでモードチェンジを行い、バスから鉄道となりました。その様子はモニターでも映されました。
DMVは鉄道とは違う小さなホームに到着。元の鉄道用ホームは使われていませんでした。ここでの乗降はゼロ。鉄道モードは走行音や揺れが異なり、計測すると平均震度が3.3、平均騒音が67.2dbと、騒音や振動が減りました。
15時1分、宍喰に到着。5分の停車中に乗客が車両撮影をしていました。乗降はゼロ。宍喰駅を出ると、トンネルが指輪のように続きます。
15時14分、海部駅に到着。ここでも乗降はありませんでした。15時20分、鉄道の終点である阿波海南駅に到着し、2名が下車。再びモードチェンジしバスになると、出発前に運転士が車輪状態を確かめました。
不思議なのは、阿波海南駅の至近にある海部高校前バス停から、徳島バス「室戸・生見・阿南‐大阪線」がDMVと同じ15時20分に発車してしまい、乗り換えられないことです。このバスは大阪に直通し、広域集客に有利なはずですが……。
観光に特化した方が集客を望める?
そのまま道路を走ったDMVは、終点の阿波海南文化むらに15時23分に到着し、3名が下車しました。
結局、鉄道で走る阿佐東線内の乗降はゼロ。室戸岬からの観光集客は必要です。車窓案内のほか、希望者には降りてもらい、外からモードチェンジを見学できた方がよいと感じました。土佐くろしお鉄道奈半利駅までの直通も必要でしょう。
阿佐東線の地域輸送としては徳島バスが並走し、全駅に停留所を置いています。DMVは車両価格がバスより高く、輸送力も小さいです。「バスで十分」と言われないために、きめ細かな接客や、豪華で特徴的な内装など、観光客のリピーターを増やす進化が必要と感じる次第です。
なお、DMV自体には可能性も感じました。通常鉄道との直通はDMV用ホームの新設が必要になり、また自重が軽いDMVはポイント動作に支障をきたすと思われますが、直通先が路面電車ならば車高の低さ、自重問題をクリアしやすく、モードチェンジの施設も簡便にできるかもしれません。また地域輸送ではなく、観光特化すれば客単価を高くできるでしょう。
例えば、高知市内を走る路面電車のとさでん交通から「アンパンマンミュージアム」(高知県香美市)を結ぶ「アンパンマンDMV」として、「チャギントン列車」(岡山電気軌道)のようにアニメを感じさせる内外装で予約制にすれば、好評を博すかもしれません。
※一部修正しました(10月28日17時30分)。
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