発端は「堤vs五島」!? 西武新宿線だけ地下鉄直通しないワケ “60年の悲願”都心乗り入れは実現するのか
乗りものニュース / 2024年11月5日 7時12分
関東大手私鉄の「本線格」の路線で唯一、地下鉄と直通していないのが、西武新宿線です。地下鉄で池袋線と新宿線をつなぐなど都心乗り入れ構想は以前から存在しますが、実現に至らない様々な事情がありました。
「本線格」なのに地下鉄直通なしの西武新宿線
2023年3月に相鉄新横浜線が開業し、関東大手私鉄の全社で地下鉄との相互直通運転が実現しました。これら直通する私鉄路線は、京王電鉄京王線、小田急電鉄小田原線など各社の「本線」ですが、唯一、地下鉄と直通しない「本線格」の路線が西武鉄道の新宿線です。
歴史を振り返れば、新宿線にも直通構想がなかったわけではありません。西武鉄道元常務取締役の故・長谷部和夫氏は2014年の鉄道趣味誌『レイル』92号で、西武と地下鉄の複雑な関係について語っています。
東京の私鉄にとって、山手線内への乗り入れは長年の悲願でした。ところが1938(昭和13)年に成立した陸上交通事業調整法は、山手線内の地上は東京市電気局(市電、市バス)、地下は帝都高速度交通営団が担当する「交通調整」を実施し、私鉄の都心乗り入れは閉ざされました。
戦後、戦時下に成立した営団体制の揺らぎを突いた各社は独自の都心乗り入れ線を出願し、都心の鉄道整備計画は混乱に陥りますが、1956(昭和31)年の「都市交通審議会答申第1号」で、営団体制を存続させた上で、地下鉄と私鉄を相互直通運転させる方針が提示されました。
そんな中、都心乗り入れ線を申請しなかった唯一の私鉄が西武です。その理由について長谷部氏は、西武グループの創始者である堤康次郎にとって、交通調整を主導した東急グループ創始者の五島慶太は「宿敵」だったからと述べています。都心乗り入れを希望することは交通調整の是認であり、「五島の軍門にくだることを意味し、堤としては耐えられない」というのです。
しかし新宿線と並行する国鉄中央線と地下鉄5号線(東西線)の直通運転が決定すると、さすがの堤も焦りを覚え、新宿線の下落合から高田馬場経由で地下鉄への直通運転を要望しますが、今さらの提案は認められるはずもなく、西武は地下鉄乗り入れ戦線から取り残されてしまいます。
1962(昭和37)年の「都市交通審議会答申第6号」では私鉄の既設線の中間に地下鉄5路線が追加されますが、経営に与える影響が甚大であると各社が主張した結果、1965(昭和40)年の「建設省告示第1454号」で都心のターミナル付近から直通運転を行う計画に改められました。
西武が描いた大胆な「逆さα形」都心乗り入れ構想
ところが西武が直通運転を求めなかったため、池袋線と新宿線の中間に計画された「8号線」は存置されてしまいます。こうした状況を受けて西武もいよいよ地下鉄直通の実現に向けて動き出します。まず具体化したのは池袋線でした。
現在の有楽町線池袋~成増間は元々、丸ノ内線の延伸区間として計画されていました。しかし丸ノ内線は小型車両、最大6両で輸送力の限界を迎えており、私鉄との直通運転も不可能です。そこで「8号線」は、和光市から東武、向原から西武が乗り入れる路線に変更されました。
続いて新宿線の地下鉄乗り入れが検討されました。長谷部氏によれば西武新宿駅から現在の都営新宿線のコースで東進し、神保町から半蔵門線のコースに入り、兜町付近から平成通りを南下。新富町で8号線に乗り入れるというものでした。つまり「α」を反転させた路線とすることで、池袋線と新宿線を直通させようという大胆な案でした。
しかし、運輸省は西武1社に2ルートを与えるわけにいかないとして、この要望を認めませんでした。伊勢崎線と東上線の2つの本線を持つ東武は2ルートを認められていることを思えば、西武も2ルートが認められてもおかしくないと感じますが、乗り入れ競争に出遅れたことが影響したのかもしれません。
こうして新宿線の地下鉄直通は幻に終わり、その後も具体化しないまま現在に至りますが、60年の歴史をもつ新宿線と東西線の直通構想は今も生きているようです。
長谷部氏は「メトロ落合駅と新井薬師前間の連絡線を建設し、東西線と新宿線との相互直通運転をする件については、都交とメトロとの統合問題のお陰で一時ストップになってしまっているのは、なんとも残念なことです」と記しています。
また、西武ホールディングスの喜多村樹美男社長も2020年9月28日付の東洋経済オンラインのインタビューで、「高田馬場から東京メトロ東西線に乗り入れるとか、いろいろな選択肢がある。関係者が多いので、これから詰めていくことになる」と述べており、水面下の検討は今も続いているのでしょう。
新宿線と東西線は距離こそ短いものの、立体交差の連絡線建設には長期の工期と莫大な建設費がかかります。一方、コロナ禍で鉄道事業の収益性が低下する中、沿線価値向上と需要開拓の重要性はむしろ増加したとも言えます。鉄道等利便増進法などの補助制度を活用できるのか、今後の議論が気になるところです。
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