「こいつバケモノだ!!」クルマ好き興奮!? ディーゼル特急の「エンジン」を自動車っぽく語ってみたらスゴかった!
乗りものニュース / 2024年11月4日 15時12分
最初の気動車特急、キハ80系の後を継いで登場したキハ181系による特急「はまかぜ」。500ps級エンジンを搭載したキハ181系は、山陰や四国エリアの非電化区間で長きにわたって活躍した(画像:PIXTA)。
エンジンを搭載して非電化区間を走る気動車。中でも速達性が求められる特急列車は、高出力エンジンが搭載されています。そのパワーアップの歴史を、クルマ好きからの視点を入れてまとめてみました。
ディーゼル特急の歴史はパワーアップの歴史
クルマに関する話題では、古くからエンジンの最高出力が語られることがあります。高出力=ハイパワーは、永遠の憧れといっても過言ではありません。では鉄道の「エンジンで走る車両」は、クルマと比べてどれほどすごいのでしょうか。
現在の鉄道車両ではクルマのように、エンジンで発電した電気でモーターを回して走るハイブリッド車両も続々と登場していますが、軽油を用いるディーゼルエンジンを動力とする「気動車(ディーゼルカー)」がまだまだ主流。都市間を結ぶディーゼルカーの特急列車も、数多く運転されています。
最初のディーゼル特急用気動車は、JRの前身・国鉄が1960(昭和35)年から投入したキハ80系です。当初は400馬力級のエンジンを搭載することを計画していましたが、開発の結果が思わしくないため、すでにキハ17系・20系・55系などに採用され実績を積んでいた「DMH17系」エンジンを1車両あたり2基搭載してカバーすることになりました。
DMH17系は、1970年代にかけ、国鉄のみならず私鉄の気動車にも採用された「標準型エンジン」とも呼べる存在で、直列8気筒・17リッター(1万7000cc)から、定格出力180馬力を発生しました。なお定格出力とは、最高出力とは異なり「その機関が安定した出力を連続して使用できる力」を意味しています。
しかし、DMH17系は基本設計が第二次世界大戦前に端を発する古いエンジンで、さらにキハ80系では蛍光灯・冷房装置などの発電用に2基のうちひとつを取られる車両も含まれるため、編成全体のパワーが落ちる欠点がありました。参考までに、エンジンを積まない食堂車・キサシ80を連結しない4両編成の場合、その編成出力は1080馬力です。
そこで国鉄は大出力エンジンの試作に再び着手。直6・15リッター+ターボによって300馬力級の出力を得た「DMF15系(DMF15HS型)」および、30リッターの排気量、バンク角180度のV型12気筒(まるでフェラーリ「BB」や「テスタロッサ」のよう!)から500馬力を達成した「DML30系(DML30HS型)」を開発し、1966(昭和41)年に製造された試作車キハ90系で試験運用を開始しました。
1車両あたり900馬力超え!?
その結果、キハ80系に代わる新たな特急型気動車「キハ181系」が1968(昭和43)年から導入され、各地に甲高いターボサウンドを響かせました。編成出力を計算すると、エンジンがない食堂車・キサシ181を除いた4両編成では2000馬力となります。
当時は高性能な乗用車でも150馬力あれば驚かれた時代。500馬力という数値は相当な高性能感を与えました。
その後1982(昭和57)年には、北海道向けの特急気動車としてキハ183系が登場。同系では、220馬力のDMF15HS型と440馬力のDML30HS型を搭載しました。そして国鉄が1987(昭和62)年にJRへ移行する頃から、特急用気動車のエンジンはさらなる発展を遂げます。
まず国鉄末期の1986(昭和61)年、四国エリアの急行を特急化するために、「キハ185系」を開発。ターボによって250馬力を発生する「DMF13系(DMF13HS)」を1両あたり2基搭載していました。同年、北海道にもDMF13HS型および550馬力にアップしたDML30HS型を載せるキハ183系の改良型「500/1500番台(N183系)」を投入しています。なおDMF13系エンジンは、新潟鐵工所の「6L13AS型」をベースにしたもの。国鉄初の直噴ディーゼルでした。
さらに1988(昭和63)年には函館本線(海線)での120km/h運転を目指し、インタークーラーの装着で330馬力・660馬力へと出力向上した「DMF13HZ型」「DML30HZ型」に機関を換装した「550/1550番台(NN183系)」も追加製造されています。
忘れられない「アメリカンエンジン」
1989(平成元)年になると、さらに高性能な特急用気動車が相次いで出現しました。それが、JR東海の「キハ85系」と、JR四国の「2000系」です。
それまで頑なに国産エンジンを使ってきた日本の鉄道ですが、その前年から海外メーカーであるアメリカ・カミンズ社の採用が始まり、キハ85系でもカミンズ製エンジン「DMF14HZ型(C-DMF14HZ型)」を搭載しました。カミンズでの形式は「NTA855」で、直6・14リッター+ターボで350馬力を発生。これを1両あたり2基搭載していましたので、例えば4両編成の場合、編成出力は2800馬力です。
なお国鉄からJR に受け継がれた「DMF14HZ」のような記号には意味があります。「DMF14HZ」を分解すると、DM=ディーゼルモーター(ディーゼル原動機)、F=6気筒、14=排気量、H=水平に搭載、Z=インタークーラーターボを意味します(インタークーラーなしは「S」)。つまり自動車用語で言えば、直6のディーゼルエンジンで、インタークーラー付きターボを備えていることになります。
国産は「コマツ」が唸る!
一方、JR四国の振り子式特急車両2000系は、建機メーカーのコマツが製造する「SA6D125H型」エンジンを採用しました。JR北海道・東日本によっては「DMF11HZ型」とも称されるこのエンジンは、直6・11リッター+ターボから330馬力をマークしており、こちらも1両に2基積まれます。
SA6D125H系は、このほか北近畿タンゴ鉄道の「KTR001形」「KTR8000形」、JR北海道の「キハ281系」「キハ283系」、智頭急行「HOT7000系」などにも搭載。これらの車両と2000系の改良型「N2000系」では、1基あたり355馬力までパワーアップされていました。
エンジンの高性能化は、さらに続きます。
2000(平成12)年、JR西日本はJR四国の2000系をベースにした振り子式車両「キハ187系」を山陰地方に投入しました。同系は、定格出力450馬力に達するコマツ製の15リッターエンジン「SA6D140H型」を1両あたり2基搭載。同様に4両で編成を組んだ際の編成出力は3600馬力に達します。
最初の特急形気動車・キハ80系のそれが1080馬力だったことを考えると、3600馬力は格段の進歩を遂げたことがわかります。なおこの機関は、2010(平成22)年に同社が導入した「キハ189系」、JR四国が2017年・2019年に相次いで投入した「2600系」「2700系」にも積まれています。
そして1998年に試作車が作られ、2000年から運用を開始したJR北海道の「キハ261系」では、定格出力460馬力を絞り出す「N-DMF13HZ型」エンジンを1車両につき2基搭載しています。
キハ261系では一部車両のエンジンが1基のみのため、4両編成時の総出力は3220馬力となります。なお、前述のキハ183系550/1550番台は、後年になってキハ261系と同じ460馬力を持つN-DMF13HZ型エンジンに換装されていました。
フェラーリ的なパフォーマンスを求めるなかれ
とはいえ、鉄道車両はクルマよりもはるかに重いです。例えば最高出力1000馬力を誇るスーパースポーツカー「フェラーリ SF90 ストラダーレ」は、0-100km/h加速2.5秒で走り切りますが、鉄道車両ではこのようなデータは生まれません。
一方、先ほど記したキハ261系「スーパー宗谷」用0番台車の自重は4両編成で約171t、編成出力は3220馬力あるため、クルマの速さの指標のひとつであるパワーウェイトレシオを計算すると約53kg/psとなります。参考までに、一般的なクルマで車重1.5t・最高出力150psの場合、パワーウェイトレシオは10kg/ps、車重11t・最高出力360馬力の大型トラックでは30.5kg/psとなります。
この数値を見ると53kg/psという数値は大したことがないように見えますが、キハ80系4両編成(両端はキハ82形)のパワーウェイトレシオは158kg/psでしたから、その発展ぶりには目を見張ります。1車両あたりの出力が920馬力(!)あるのも、やはり驚異的です。
参考までに蒸気機関車のD51形は1400馬力、ディーゼル機関車のDD51は2200馬力、電気機関車のEF65形は約3400馬力(2550kW)なので、編成出力3220馬力の凄さがわかるかと思います。
※ ※ ※
実際これらのハイパワー特急型気動車に乗車すると、駅から出発する際、そしてある程度速度が乗った状態からでも、驚くほど目覚しい加速を見せます。そして、その時発生する大排気量・高出力ディーゼルエンジンの力強い唸り音は、乗りもの好きの心を揺さぶるものがあります。それは、クルマを趣味にする人にも、きっとあてはまるのではないかと思います。
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