『ガンダム』の軍用機なぜ古臭い? 戦いに不向きなデザイン「窓なんて飾りです」の意図も
乗りものニュース / 2024年11月3日 19時12分
日本を代表するロボット作品『機動戦士ガンダム』には多くの軍用機が登場しますが、そのほとんどが古臭いデザインです。その理由のひとつが窓枠の多いキャノピーではないでしょうか。しかし、実は大きな意味がありそうです。
コックピットの視界、悪そうじゃない?
アニメ『機動戦士ガンダム』には、人型機動兵器「モビルスーツ(以下MS)」だけでなく、数多くの航空機が登場します。ガンダムのコックピットを兼ねる「コア・ファイター」や、増加ユニットを装備し劇場版で活躍した「コア・ブースター」などのほかにも、戦闘攻撃機「フライ・マンタ」、対潜哨戒機「ドン・エスカルゴ」、爆撃機「デプ・ロッグ」などです。一方のジオン軍でも戦闘機の「ドップ」を始め、偵察機「ルッグン」、MSを搭載して飛行できる爆撃機「ドダイYS」などがあります。
これらは脇役といえる兵器ですが、それでもこれだけのバリエーションと存在意義を持たせているのが、『機動戦士ガンダム』の魅力だといえるでしょう。ただ、筆者(安藤昌季/乗りものライター)はこれら航空機のデザインを見ていて「ミノフスキー粒子による有視界戦闘を強いられる航空機」なのに、「どうして多くの機体で視界が悪そうなデザインなのか」と疑問に思いました。
現実の航空機も、黎明期こそガラスなどの覆いがない、吹きさらしの解放型が主流でした。しかし、高速化にともない、ガラスやアクリル製のキャノピー(風防)で囲まれるようになっていきます。ちなみに、全周囲に視界が確保された「バブル(水滴型)キャノピー」は、1936年のドイツで試作されたHe112Bで、ほぼ完全に周囲が見える形状となりました。旧日本海軍の零式艦上戦闘機(零戦)も、こうした枠を持つバブルキャノピーを備えた代表的な機体といえるでしょう。
この頃はまだ、曲面で構成された一体成型の大きなアクリルキャノピーを大量生産することが難しかったため、風防は窓枠を多くしてガラスもしくはアクリルをはめ込んでいく必要がありました。しかし、製造技術の進歩により第二次世界大戦中期以降は、アメリカを中心に窓枠の少ない大型のアクリルキャノピーが多くの機体で採用されるようになっていきます。
理由は、窓枠が少ない方が、枠の多さで視界が制限されることが減少するからです。
『ガンダム』世界でバブルキャノピー使わない意味とは
第二次世界大戦が終わると、軍用機で培われたバブルキャノピーの製造技術は自動車や船舶などにも転用されるようになったほか、技術の進歩も相まって、いまや家電や小物でも一体成型の透明なアクリルで形作られるのは当たり前となっています。
そのことを鑑みると、2024年現在よりはるかに技術が進んでいるはずの宇宙世紀の航空機で、バブルキャノピーを技術的に実現できないわけがありません。
そうしたなかで、零戦のように細分化されたキャノピーを持つドップやデブ・ロック、コア・ファイターなどは、あえてキャノピーに枠を付ける意味があったということになります。ちなみに、コア・ファイターなどはMS技術がさらに進化した、後年の『ZZガンダム』の時代までバブルキャノピーのままだったので、なおさらでしょう。
筆者が考えるに、これは「逆算の論理」ではないでしょうか。実はガンダムやザクは「キャノピーを通じて外を見ている」わけではありません。
頭部メインカメラを中心に、全身にサブカメラが設置されており、モニターにその映像を映して外を見ているわけです。つまり、ミノフスキー粒子はレーダーに対する影響がメインのため、カメラとモニターはあまり関係がないのではないでしょうか。だからこそ、ガラス越しに外を見る必要は少ないのだと考えます。
そもそも窓は「外見る用」じゃない!?
現行の技術でも、シャープはガラスのように見える物体に情報を掲示して、モニターとしても使える「透明ディスプレイ」技術を確立しています。また、シンセイコーポレーションも「透明フィルム型LEDビジョン」として、窓ガラスをデジタルサイネージ化したうえで、フレシキブルに曲げられる製品を出しています。
ガンダムの航空機にもこのような「窓ガラスに見えるモニター」が標準装備されていて、死角からの敵接近などに対してキャノピーの一部がモニターへと自動的に切り替わり、実質的な360度視界を実現しているのかもしれません。
宇宙世紀では長年、航空機及び航宙機でそうした技術的蓄積を実現してきたからこそ、不安なくMSで「ガラス越しに外が見えないコックピット」を実現できたのではないでしょうか。
なお、キャノピーに多くの枠がある理由については、「ここにはこの情報が掲載されます」という区分けを視覚的に整理し、パッと見でわかりやすくするために、あえて枠を設けることで区分けしていると筆者は考えます。
そうした技術がさらに進化した結果、『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』の「ガンダムNT-1 アレックス」では、「360度全天周囲モニター・リニアシート」が試作・搭載され、これによる良好な視界の確保が確認されたからこそ、以後のガンダム世界ではコチラがメインになったのではないかと、筆者は想像する次第です。
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