なぜ北朝鮮はミサイル実験するのでしょうか? 多額の費用かけて開発する意味とは 国が滅ぶかもしれないのに
乗りものニュース / 2024年11月4日 12時32分
2024年10月31日に北朝鮮が「ICBM級と考えられる」ミサイルを発射しました。このミサイルは日本では大陸間弾道弾ミサイルとも呼ばれ、核戦争を起こす可能性のある兵器のひとつともされています。
ICBMって何の略?
北朝鮮は2024年10月31日の正午すぎ、金正恩(キム・ジョンウン)総書記の立ち合いのもと、同日の午前中にICBM(大陸間弾道ミサイル)を発射したと発表しました。11月1日にはこのミサイルがなお、日本の防衛省もこのミサイルが「ICBM級と考えられる」と見解を示しています。
11月1日には北朝鮮が新型ICBM「火星19号」だと発表したこのミサイルですが、報道ではアメリカ大統領選を意識し「大統領が誰になろうとICBMの能力を示したい」という狙いがあったとされています。なぜ、ICBMは国の力を誇示する兵器になるのでしょうか。
そもそもICBMとは「intercontinental ballistic missile」の略称で、日本語では大陸間弾道ミサイルと記されます。元々はアメリカとソビエト連邦(以下:旧ソ連)による東西冷戦下で生まれたミサイルの分類で、1969年に始まり1972年に合意に達した戦略兵器制限交渉では「アメリカ合衆国本土の北東国境とソ連本土の北西国境を結ぶ最短距離である5500km以上の射程を持つミサイル」と定められています。
世界で最初にICBMを作ったのは旧ソ連で、1957年5月15日に発射されたR-7が世界初のICBMといわれています。このミサイルはロケットにも転用され、世界初の人工衛星スプートニク1号の打ち上げにも使われました。ちなみに、アメリカは1959年から配備された「アトラス」が同国初のICBMになります。
ICBMのどういった部分が脅威かというと、その射程も理由のひとつにはなるものの、最も驚異なのはミサイルが積む弾頭そのものです。ICBMは誕生当初から核攻撃を想定して開発されており、核弾頭の搭載が前提です。
このミサイルの登場により米ソ両国はわざわざ大型の戦略爆撃機に核爆弾を積んで敵本土を攻撃する必要性がなくなりました。
その後、ICBMに関しては中国も保有するようになったほか、インドも2012年に発射実験に成功した「アグニV」を配備しており、イスラエルも持っていると言われています。そして、このICBM保有国の中に、北朝鮮が新たに追加されようとしています。
なお、イギリス、フランス、パキスタンも核の搭載が可能な弾道ミサイルを所有していますが、英仏は潜水艦発射型の弾道ミサイルであるSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)に核戦力を集中させ、パキスタンは隣国であるインドを攻撃可能な中・短射程の弾道ミサイルに核弾頭を搭載させています。
どこかが撃った時点で世界終わるかも!?
ICBMを発射された場合、迎撃は非常に困難です。アメリカ空軍に現在配備されているICBMであるLGM-30「ミニットマンIII」を例にすると、弾頭は 2万4100km/h(約マッハ23)というとんでもない速度で飛んできます。
さらに弾頭は1個ではなく多弾頭化されているため、「ミニットマンIII」は3個の弾頭を運搬・放出します。しかも弾頭は水爆のため、その破壊力は広島や長崎で投下された原子爆弾よりも遥かに強力です。実はこれでも冷戦終結後に威力を抑えられており、過剰な核戦力であるとして2005年に退役させたLGM-118A「ピースキーパー」は弾頭を10個も搭載していました。
アメリカ空軍はICBMを約450発保有していると言われており、これらのミサイルが一斉にミサイルサイロから撃たれた場合、全て撃ち落とすことは不可能です。
また、ロシアや中国はTEL(Transporter Erector Launcher)と呼ばれる移動式発射台から射出可能なICBMを多数所有しています。このような車両運搬型のICBMだと、仮に核戦争が起き、発射する前にミサイルサイロが破壊されたとしても、TELが生き残っていれば潜水艦から発射するSLBMと同様に、思いもよらない場所からミサイルを発射して報復反撃できます。
こうした強力なICBMの発射を阻止するのに現状で最も効果的といわれているのは、同じ性能の核ミサイルを持つことです。これは「強大な核の力で脅威を与え、他国に攻撃を思いとどまらせる」ということで核抑止論と言われています。しかし、ひとたび核保有国に核ミサイルを発射してしまうと、報復にミサイル攻撃を行った国にも同じようなミサイルが飛んでくることになります。
これがアメリカとロシアというミサイルの保有数が多く、かつ戦力が均衡している国同士であれば、最悪は人類滅亡、軽微で済んだとしても交戦国双方の復旧が困難なほどの損害を受けることになるということで、互いに抑止力が働きます。
これを「相互確証破壊」と呼びますが、北朝鮮がICBMを所有しようと開発を続けるのは、アメリカに対して、この「睨み」を利かせたい、そして外交カードのひとつとしてちらつかせたいからだと言えるでしょう。
こうしたことを鑑みると、日本周辺に限っただけでもロシア、中国、北朝鮮の3か国がICBMを持っていることになります。そう考えると、我が国の安全保障環境はかなり緊迫していることがうかがえます。
【動画】実戦で使われると世界が危険…これが、移動式発射台から射出されるICBMです
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