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「F-35Bが行方不明になりました」 驚愕のステルス戦闘機“迷子事件”その信じ難い顛末とは 米海兵隊が報告

乗りものニュース / 2024年11月11日 8時12分

短距離離陸・垂直着陸(STOLV)能力を持つステルス多用途戦闘機F-35B。アメリカ海兵隊はAV-8B「ハリアーII」の後継として採用している(画像:アメリカ海兵隊)。

ステルス戦闘機F-35Bがサウスカロライナ州で一時行方不明になった問題で、アメリカ海兵隊第2海兵航空団は2024年10月末、報告書を公表しました。一言でいえば「パイロットの判断ミス」が原因のようですが、実際には何が起きていたのでしょうか。

事故から1年あまりが経過し報告書が公表へ

「本日午後F-35Bが行方不明になりました。(中略)回収チームに役立つ情報をお持ちの方は、基地防衛作戦センターまで連絡して下さい。基地の電話番号は……」
 
 2023年9月17日、アメリカのサウスカロライナ州チャールストン統合基地が、Xへこう投稿しました。これには「一体どうすればF-35を紛失できるのか?」と、地元サウスカロライナ州のナンシー・メイス共和党下院議員が嫌味たっぷりのリプを返しています。

 いったい何事でしょうか。F-35Bは短距離離陸・垂直着陸(STOLV)型で、日本も艦載機として導入を決定している機体です。アメリカ海兵隊第2海兵航空団によると、アメリカ海兵隊ビュフォート海兵隊基地のF-35Bが、パイロットの脱出後も飛び続け、まるで「幽霊船」のように空中をさまよったのだといいます。軍事機密の塊のようなF-35Bが行方不明になり、世界中で閲覧できるSNSに発信してまで捜索に協力を求めるなど滑稽でさえありました。

 2024年10月31日に公表された報告書では、事故の概要を次のように説明しています。

「2023年9月17日、サウスカロライナ州チャールストン統合基地付近で、暴風雨のなか計器飛行を実施していた海兵隊のF-35Bが、基地の滑走路に着陸するため高度580mでギアを降ろし、従来の離着陸モード(モード1 CTOL)から短距離離陸および垂直着陸モード(モード4 STOVL)に変更しました。しかし電気系統の異常が発生し、主要無線、トランスポンダー(航空交通管制用自動応答装置)、戦術航空航法システム、計器着陸システムが故障したほか、ヘルメット装着型ディスプレーとパノラマコックピットディスプレーが少なくとも3回にわたって作動しませんでした」

パイロットはどうなった? ほか被害は?

 パイロットは、計器不具合に加え視界不良に陥る厳しい気象条件下で方向感覚を失います。そこで制御不能時のフライトマニュアルに則って脱出を選択。機体を上昇させるためギアを収納し、通常離着陸モード(モード1 CTOL)に復帰させたのです。パイロットは手順通り射出されて着地に成功し、ケガもなく収容されました。

 一方、無人となった機体は自動飛行制御システムにより飛行に必要な機能は作動し続けました。しかし管制レーダーから消失して追尾不能となり、冒頭のように軍による捜索だけでなく地域住民にまで情報提供を呼び掛ける事態となったのです。

 約30時間後の翌日18日16時45分、基地から北東へ104km離れた場所で、F-35Bの残骸が発見されました。パイロット脱出後、11分21秒間、飛行を継続していたようです。

 報告書では、事故原因はパイロットの判断ミスと結論付けられ、当時の状況なら基地に着陸可能であったとしています。電子機器やディスプレーの誤作動については、メンテナンスが規定された基準で実施されており、整備部門には責任なし、パイロットも操縦資格要件を満たしているとしています。この事故による人的被害はありませんでしたが、森林と農作物には物的被害が発生しています。ただし「懲罰的措置は推奨しない」ともしています。

 パイロットが脱出後、機体が無人のまま飛行を続けるという類似の事故は数例起きています。

ソ連機が西側上空をさまよったことも…

 1970(昭和45)年2月2日、アメリカ空軍のF-106A戦闘機がフラットスピンを起こして操縦不能に陥り、パイロットが脱出しますが、その後偶然にも水平飛行に復帰し、無人のままモンタナ州の農場に不時着しています。機体は大きな損傷なく、修理されて任務に復帰しています。

 また1989(平成元)年7月4日には、ポーランドを離陸したソ連空軍のMiG-23戦闘機がエンジン不具合を起こし、パイロットが脱出。バルト海に墜落するものと思われていましたが、間の悪いことに真西に飛行を続け、西側との国境を越えて西ドイツ、さらにオランダ、ベルギーまで飛行して燃料切れで墜落し、地上で1名が亡くなりました。NATOの戦闘機が追尾していましたが、人口の多い地域を飛行したため撃墜できませんでした。

 今回のF-35Bの事案では、「空の幽霊船」のように1日以上も行方不明になるというのが問題でした。この原因については、位置情報を発信するトランスポンダーの停止、機体が航空交通管制レーダーの水平線の下に降下し捉えられなくなったことが指摘されています。そもそもレーダーに捉えにくいステルス機だということも一因のようですが、訓練では安全確保のため、レーダー波を意図的に反射するリフレクターも用意されているはずです。

 この珍事によって皮肉にも、F-35の優れた自動操縦システムと飛行安定性、ステルス性、そしてパイロットの緊急脱出システムの確実性を示すことになりましたが、制御不能の無人ジェット戦闘機が空中をさまようなどまったく褒められた話ではありません。

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