戦車の威厳を損ねる? ドローン対策の“ゴテゴテ化” アメリカ軍は最新戦車に採用するのか ハイテクで何とかなる?
乗りものニュース / 2024年11月21日 18時12分
ロシア・ウクライナ戦争で、ドローンなどによるトップアタックの脅威にさらされる戦車や装甲車。これには現場急造品も含めた装甲スクリーンで防御しています。果たしてこれは、アメリカが開発を進めるM1戦車の後継に採用されるでしょうか。
システムだけでなく物理的な防御が必要
ロシア・ウクライナ戦争を捉えたSNS投稿動画は、戦車や装甲車がジャベリン対戦車ミサイルやFPV(一人称視点)ドローンに追いかけられて爆炎を上げるシーンでお馴染みになってしまっています。
ウクライナ軍は、こうしたトップアタックから防護すべく、アメリカ軍から供与されたM1エイブラムス戦車にも遠慮なく反応装甲ブロックを貼り付け、コープゲージと呼ばれる追加装甲スクリーンを装備させて、すっかりウクライナ戦線仕様にしてしまっています。そしてこのような戦況が、アメリカの戦車に対する取り組みにも影響を及ぼしているのです。
アメリカのM1戦車は、実戦経験を重ねて「世界最強戦車」を標榜していました。2023年9月、ウクライナ軍に31両が供与されて戦局を変えると期待する向きもありましたが、2024年11月現在は半数の16両が失われています。
しかし、世界は「戦車不要論」どころか、オランダなどは廃止した戦車部隊を復活させようとするなど、“クルマ”の重要性が再認識されています。また投稿されている映像は自軍に有利な宣伝用に切り貼り編集されており、戦場の実態を映しているとは限らないことに注意が必要です。
戦車は経費のかかる重厚長大兵器の代表格で、アメリカはM1の後継戦車はもっと小さく軽くする目論見でした。M1も筐体にはあまり手を加えず、主にソフトウエアや通信などのシステム強化パッケージ(SEP)を更新して対応していました。現在の最新型がSEPv3(システム強化パッケージバージョン3)となっており、次のSEPv4が始まるところでしたが、ロシア・ウクライナ戦争によってこの取り組みでは足りないことを、アメリカ自身も認識しています。
後継M1E3戦車 ドローン対策は考慮されていなかった!?
アメリカは2023年9月6日、「より積極的なアップグレード」が必要だとしてSEPv4を中止し、M1E3を開発することを発表します。モジュラー式のオープンアーキテクチャで将来技術を取り入れやすくし、低コストでアップグレードでき、最低でも15年以上使えることを目指します。
しかし、M1E3の開発はさっそく遅延しています。2024年9月11日の国防総省の文書には、「統合主力戦車システム(Integrated Main Battle Tank System)の取り組み開始を2025年度まで遅らせる」と記載されました。2025年会計年度は10月1日から始まっています。
統合されたアクティブ防御システム(APS)と、自動装填装置の開発開始が遅れているようですが、その要因のひとつがロシア・ウクライナ戦争であることに間違いありません。戦況の変化が早すぎるのです。
M1E3のコンセプトが発表されたのは前述のとおり2023年9月ですが、この頃からFPVドローンが猛威を振るい始めます。つまりM1E3のコンセプト検討段階では、FPVドローン対策はあまり考慮されていなかったと考えられるのです。
M1E3には専用のAPSが採用される予定ですが、これまでのM1にはイスラエルのラファエル社製「トロフィー」が装備されています。トロフィーは対戦車ロケットやミサイルを迎撃する物ですが、ドローンを含むトップアタックも迎撃できるバージョンが発表されており、E3にも同様の仕様が見込まれています。また、ユーロサトリ2024兵器展示会に出展された次世代戦車コンセプトモデルには、もれなくドローン迎撃用のリモートウエポンシステム(RWS)が搭載されていました。
兵器開発には実戦からのフィードバックが最重要
しかし、展示会に登場するような「実戦を経験していない」戦車は、ウクライナ軍のようにタートルタンクやコープゲージなどとも言われる追加装甲スクリーンをドローン対策として装備しません。格好悪く戦車の“威厳”を損ね、映えも大事な展示会には出したくないのは理解できるのですが、実際の戦場では必須の装備になっています。
ドローン対策はウクライナ戦線において焦眉の急であり、追加装甲スクリーンのようなあり合わせの材料をつぎはぎした粗雑な現場急造品はバラエティに富んでおり、これがまたSNS上で映えたりしています。
ウクライナに本社を置く鉄鋼・鉱業コングロマリット(複合企業体)のメトインベスト・グループは、各戦車用の追加装甲スクリーンを規格化し、ウクライナ軍主力のT-72やT-64用だけでなくM1用も製品化しています。全体重量は最大430kgで、1台に増備する作業時間は12時間とされます。
ただスクリーンを張り巡らすのではなく、実戦の経験をもとに、M1の機能を損なわないよう作り込まれています。複雑高価で電力を食うAPSよりも実戦ではコスパに優れるかもしれません。アメリカはウクライナ軍仕様のM1の運用状況を観察評価しています。
では追加装甲スクリーンがM1E3にも標準装備化されることはあるのでしょうか。
アメリカ軍は追加装甲スクリーンについて防御効果が限定的でしかないとする一方で、状況に応じて現場での工夫も可能なことから、乗員への心理的効果は無視できないと評価しています。「世界最強戦車」に乗っていようと、いざ実戦では乗員が隙を見て現地改造であれ装甲を積み増そうとするのは、古今東西行われてきたことです。
現在はFPVドローンが最も厄介な敵とされていますが、この猛威もいつまで続くか分かりませんし、次の脅威が何になるのかも想像しにくい状況です。兵器開発には実戦からのフィードバックが最も重要で、ウクライナ戦争は絶好の機会のはずです。ただ、戦車が戦場から完全に駆逐されることは当分なさそうです。
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