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「貨物船だけど実は“空母”です」実際どう運用した? 民間人の船員が運航した英空母

乗りものニュース / 2024年11月19日 16時12分

元はオランダのタンカーだったMACシップ「マコマ」(画像:オランダ国防省)。

「商船を改造した空母」は、第2次大戦中のイギリスにもありました。穀物運搬船や石油タンカーが生まれ変わった「MACシップ」は搭載機数が少なく、しかも運航するのは民間人の船員。はたして大西洋のドイツ軍に対抗できたのでしょうか。

各国に存在した「商船改造空母」

 商船改造空母といえば旧日本海軍の隼鷹型や大鷹型を思い浮かべる人も多いでしょう。これらは、あらかじめ空母に転用を想定して建造した、外洋航路の貨客船を改造したものです。一から建造する正規空母に比べて工期が短いメリットがあり、日本ではその多くが日米開戦前後に就役しています。軽空母に相当するこれらの商船改造空母は、機動部隊の一翼を担うほかに、船団護衛、航空機の輸送など多方面に使われました。
 
 第2次世界大戦中は、アメリカやイギリスでも商船改造空母が運用されています。特に大西洋の戦いは連合国の輸送船団に対するドイツ軍の通商破壊戦で、イギリス海軍は独自の商船改造空母を生み出しました。そのなかでも、今回ご紹介する「MACシップ」は、船団護衛で重要な役割を担いました。

 第2次世界大戦初期にヨーロッパの大半はドイツに占領されました。孤軍奮闘を強いられたイギリスは、まだ参戦していないアメリカから海上輸される軍需物資に支えられていました。その輸送船団を狙って、ドイツ海軍は戦艦や装甲艦、潜水艦や航空機で通商破壊戦を行い、イギリスは窮地に立たされます。

 そうした状況下、対潜哨戒など航空機による索敵が必要とされるようになり、護衛空母の建造が進められたものの時間がかかるうえに数が足りません。そこで苦肉の策として考えられたのが「CAMシップ」でした。

 これは輸送船の艦首に設置したカタパルトからハリケーン戦闘機を発射して索敵や迎撃をするという苦肉の策でした。当時ドイツ軍は水上艦艇や潜水艦に加えて、航続距離が2000kmを超える4発エンジンのフォッケウルフFw200哨戒爆撃機を船団攻撃に投入していました。それに対抗するために、こうした艦載機が必要だったのです。

 ところが、CAMシップには致命的な欠陥がありました。飛行甲板がないため、いったん発進したハリケーンは母艦に着艦できません。出撃を終えた帰りは航続距離の許す限り母艦近くまで戻ると着水し、パイロットは救助を待つしかありませんでした。

 さすがに、これではまずいと思ったのか、イギリス海軍は次なる手を考えます。それが「MACシップ」(MACはMerchant Aircraft Carrierの略)です。

拿捕した敵国の商船を改造!

 CAMシップでは船団護衛に不十分なのは明らかでした。そこで1940(昭和15)年にイギリス海軍本部は、商船の船体に飛行甲板を設置した簡易空母を計画します。穀物運搬船や石油タンカーを改造するも一部を除いて格納庫がないため、6機程度の艦載機は飛行甲板に留め置くしかありません。

 イギリス海軍はこの商船改造空母を「補助空母」と呼びました。MACシップに改造された第1号は、1940年3月にカリブ海で接収された5537tのドイツ貨物船「ハノーバー」でした。「エンパイア・オーダシティ」と改名したこの船は、翌1941年6月17日にイギリス最初の護衛空母として就役し、さらに「オーダシティ」と改名します。

 同艦はアメリカから供与された戦闘機、マートレット(F4Fワイルドキャットのイギリス版)8機を搭載。就役後は何度か船団護衛に出撃し、ドイツ軍のFw200哨戒爆撃機をしばしば撃墜しています。

 ところが、「オーダシティ」は船団護衛中の同年12月21日、ドイツ潜水艦U-751に雷撃され、その短い生涯を閉じました。

戦闘艦なのに民間船?

「オーダシティ」以後も商船からMACシップへの改造は1944(昭和19)年まで続き、その数は19隻に上りました。

 大戦中期以降、ドイツ海軍の通商破壊戦は潜水艦がメインとなります。それらに対してアメリカの護衛空母も投入され、連合国の優位に戦局が推移するようになると、MACシップは航空機の輸送や船団の給油艦としても使われるようになります。

 そして1944年後半には順次、退役して元の商船に復帰していきました。

 MACシップは護衛空母の位置付けだったものの、実は当初からイギリス海軍の船籍名簿に編入されず、商船として元の船員が運航していました。その背景には、本来の1万t級護衛空母が就役すると、乗員不足になるのは明らかだったからです。

 ちなみに、日本でも戦時中、海軍に輸送船として徴用された商船は、民間の船員が軍属として運航しており、大勢の犠牲者を出しています。日本と比較すればMACシップの損害は少ないものでした。

 商船改造空母とはいえ多数の空母同士が相対した日米戦に比べて、もっぱら潜水艦が相手だった大西洋のイギリス海軍は運用方法も立場も大きく異なりました。ドイツ軍の航空攻撃が限定的だったのは、MACシップには幸運だったといえます。大西洋と太平洋、海の戦いの様相の違いは、こんなところにも表れています。

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