空自「ファントムII」のカラフル名物マーク 実は「二代目」!? “幻のオジロワシ”が消えたワケ
乗りものニュース / 2024年11月22日 18時12分
航空自衛隊屈指の名物部隊マークといえる第302飛行隊の「オジロワシ」。デザインの秀逸さと色鮮やかさから、いまだに話題となります。ただ、そのオジロワシマークに短期間で終わった「幻のデザイン」がありました。
大きく色鮮やかだった「ファントムII」のオジロワシ
航空自衛隊の第302飛行隊は、最新のステルス戦闘機F-35A「ライトニングII」を運用する部隊として青森県の三沢基地に所在しています。
ただ、F-35Aを装備するようになったのはここ5年ほどのこと。それ以前はF-4EJ/EJ改「ファントムII」戦闘機を長らく運用していました。しかも、この時代にはF-4の垂直尾翼に大きな尾白鷲マークを描いていたことから、「オジロワシのファントム」としてよく知られた飛行隊でもありました。
赤・青・白・黄の4色を主体に垂直尾翼いっぱいに描かれたオジロワシマークは、遠目からでも目立っていたため、いまだに人気のある飛行隊マークのひとつでもありますが、その図柄が生まれた経緯についてはあまり知られていません。
筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)はこのたび、第302飛行隊の創隊50周年記念式典を取材したのですが、そこに招かれていた飛行隊OBのなかに、なんとこのオジロワシマークをデザインした元パイロットがいたため、その経緯についてハナシを聞くことができました。
オジロワシのマークをデザインしたのは元航空自衛官だった山本忠夫氏で、第302飛行隊が発足した当時に、部隊に所属していたF-4EJ「ファントムII」のパイロットだったそうです。
水墨画風だった? 幻のデザイン
そもそも、第302飛行隊は北海道の千歳基地で1974年に新編されています。運用するF-4EJ「ファントムII」は当時最新鋭の機体であり、それを運用する部隊は300番台のナンバーが付与されたまったく新しい飛行隊が用意されることになっていました。
このような流れから第302飛行隊は、F-4EJを装備する2番目の飛行隊として生まれたのです。ただ、新編部隊ゆえに最初はシンボルとなる部隊マークがなく、それらも新しく作る必要がありました。初代隊長の意向で、マークは地元北海道に生息するオジロワシをモチーフにすることこそ決まったものの、それをどう意匠化するかは飛行隊の隊員たちの腕にかかっています。
結果、隊員からデザイン案を公募することになり、最初に選ばれたのが、筆絵風のタッチで書かれたオジロワシのデザインでした。現在のマークと比べると写実的にオジロワシをそのままイラスト化したようなデザインになっており、使われている色も水墨画のような黒一色です。一応、このマークは試験的にF-4EJの垂直尾翼にも描かれたものの、正式に採用されることはありませんでした。
こうして、いわば幻で終わった「オジロワシマーク」について、前出の山本忠夫氏は次のように回想しています。
「最初のデザインは私の先輩が作ったもので、とてもよいデザインだと思います。ただ、ファントムの垂直尾翼は非常に大きいため、そこに実際に描いてみるとインパクトがなくて不評でした。そこで新しいデザインを隊内でまた募集することになりました」
山本氏はもともと絵を描くのが趣味だったそうで、新しい部隊マークをデザインして応募。これが現在のオジロワシマークの原点となりました。
デッカい尾翼に、巨大マークを
現在も第302飛行隊で使われている部隊マークは、オジロワシをもとに、頭と胴体、翼、尾、脚を図形のような形で意匠化したデザインとなっています。この図柄にはオジロワシとは別に飛行隊のナンバーが具現化されており、翼部分が「3」、尾の部分が「0」、脚の部分が「2」をそれぞれ模っています。また、前述したようにオジロワシには4色のカラーが用いられていますが、この色にも「赤:激しい情熱」、「青:豊かな知性」という意味が込められているそうです。
このようなデザインが完成した理由について山本氏に伺うと、次のように説明してくれました。
「当時、アメリカ海軍で運用しているF-4『ファントムII』には、どれもカラーのマーキングが描かれていたので、部隊マークのデザインが派手になったのもその影響でした。加えて、F-4の垂直尾翼には中央付近に編隊飛行用のライトがあるため、それを避けて大きくマークを描くには全体形状を三角にした方がよく、これがオジロワシのデザインの基準となっています。また、デザインに3、0、2の数字を図形化して入れたのには、別の飛行隊の影響があります。当時、千歳基地にはF-104『スターファイター』戦闘機を運用する第201飛行隊がいたのですが、この飛行隊のマークが201の数字を上手くデザイン化したもの(当時)であったことから、それをお手本にしました」
こうして部隊マークのデザインが決まり、塗装のための正式な航空自衛隊の許可が出たのは1975年9月のこと。部隊発足から1年ほどの歳月がかかったそうです。
ファントムIIの「オジロワシ」が尾を振った!
こうした苦労があって誕生した「色鮮やかな巨大オジロワシ」の部隊マーク。実際にF-4EJ「ファントムII」に塗装されたとき、デザインを担当した山本氏はどんな感想を抱いたのでしょうか。
「オジロワシのマークは、尾の部分が垂直尾翼の一番後ろ、ラダーの可動翼部分に描かれています。F-4が地上滑走をするとき、ステアリング操作でラダーペダルを踏むとラダーの可動翼も動くのですが、その時にオジロワシが尾を振っているみたいに見えて感動したのを覚えています」
1974年に発足した第302飛行隊はF-4EJとその改良型であるF-4EJ改を運用し続け、2019年までの45年間を「ファントムII」飛行隊として活動しました。その間、同部隊のF-4にはこの大きなオジロワシのマークがずっと描かれ続けたのです。
その後、2019年にF-35の飛行隊として生まれ変わると、装備機種がステルス戦闘機になったことで、部隊マークは小さくなるとともに鮮やかな色合いもグレー系のロービジ(低視認)仕様へと変わってしまいました。
ただ、2024年に50周年を迎えた飛行隊では、それに合わせて期間限定の記念塗装機を作成し、かつてのカラフルなオジロワシを復活させました。往年のF-4「ファントムII」をほうふつとさせる機体は式典会場に展示され、山本氏をはじめとする歴代OBたちに披露されています。
OBのほとんどはF-4時代に飛行隊に所属していたパイロットや隊員たちで、F-35はまったく未知の存在でした。しかし、その垂直尾翼には見慣れたオジロワシのマークが受け継がれていたことに、飛行隊の伝統と歴史がしっかりと受け継がれていることを実感しているようでした。
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