驚きの高性能!! ボーイングの「最新軍用機」は納得の先進性 でも“自衛隊には不釣り合い?”
乗りものニュース / 2024年11月28日 6時42分
「2024国際航空宇宙展」のボーイングブースに日時限定で最新練習機のシミュレーターが設置されました。乗ってみると素晴らしい機体であったものの、日本が導入するには超えなければいけないハードルがあることも実感しました。
最新練習機T-7Aに乗ってみた
2024年10月16日から19日にかけて、東京ビッグサイトにおいて「2024国際航空宇宙展」が開催されました。内外の航空関連企業が多く出展する中にあって、ボーイング社のブースはひときわ静けさを湛えていました。
同社のブースは、他社とは異なり、模型や実機を展示するといった華やかなつくりではありませんでした。だからといって目新しさがなかったわけではありません。シンプルな設営ながら、筆者が訪れた日には最新のジェット軍用機T-7A「レッドホーク」の大型パネルがブース内に設置され、メディア限定でシミュレーター体験も行われていたのです。
T-7「レッドホーク」は、アメリカ空軍の次世代練習機として採用された新型機で、その高い訓練効率が注目されています。なお、同機は現在、航空自衛隊が運用するT-4中東練習機の後継機としても名乗りを上げるのではないかと目されている存在です。
そういった事情ゆえに、同社は会場内にT-7A「レッドホーク」のシミュレーターを持ち込んだのでしょう。筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)もメディアの1人としてコックピットに座るという貴重な体験を得ることができました。
順番がきたので乗り込むと、そこは新鋭戦闘機さながらの大型タッチパネル型ディスプレイが鎮座する近代的な光景が広がっていました。特に目を引いたのは、ほぼ可動域のない感圧式のサイドスティックです。このスティックは、第五世代戦闘機F-35「ライトニングII」の操縦桿と極めて近いコントロール感覚を提供するように設計されています。
実際に動かしてみると、その感覚は戦闘機に近いように思えました。離陸からあっという間に亜音速へと達する優れた加速性能と高い機動性、レスポンスの良さを兼ね備えており、これが練習機であることを忘れさせるものでした。シミュレーターながら、戦闘機の一歩手前と形容できる高度な訓練を行うためのプラットフォームとしてのポテンシャルを強く感じさせます。
ひと通り操ってみて筆者が感じたのは、T-7A「レッドホーク」には先進的な航空機システムと高機動性が備わっており、これにより次世代戦闘機の特性を忠実に再現した訓練環境を提供してくれる練習機だということでした。同機なら、高価な戦闘機の使用を最小限に抑えつつ実戦に即した訓練を効率的に実施し、高度な戦術的思考能力を養うことが可能でしょう。
スバルT-7からボーイングT-7Aは差ありすぎ!
一方で、T-7A「レッドホーク」を航空自衛隊が導入するとしたら、いくつかの課題が考えられます。中でも大きなネックとなるのが、既存のプロペラ初等練習機、スバルT-7(奇しくも同じ名称だが別機)との性能差が既存のT-4に比べて拡大することです。
スバルT-7は出力400馬力程度の比較的低出力のプロペラ機で、最大速度も203ノット(約376km/h)しか出ません。一方、T-7Aはほぼ戦闘機並みで、搭載エンジンはアフターバーナー付きのターボファンが2基。これにより最大速度もマッハ1.04(約1300km/h)です。この性能差を鑑みると、スバルT-7からT-7Aにいきなりステップアップするのは困難が伴うのではないでしょうか。
アメリカ空軍では初等練習機とT-7A「レッドホーク」の間にもう1機T-6「テキサンII」練習機による訓練を挟んでいます。T-6はプロペラ練習機ながら出力1000馬力以上の高性能エンジンを搭載しており、単純比較では第二次世界大戦時の戦闘機にほぼ匹敵する性能をもっているため、初歩的な戦闘機動の訓練も行うことができます。したがって、アメリカ空軍の訓練生は相対的に高い技量を養った状態で、3機種目にT-7Aへ機種転換することになります。
また、T-7A「レッドホーク」はシミュレーターを含めた総合的な訓練パッケージであり、幅広い訓練を行えることも大きな特徴です。性能ギャップ問題を解消できる可能性を有しますが、その一方で、T-7A「レッドホーク」では性能過剰な初歩的な戦闘機動訓練を実施しなくてはならないため、航空自衛隊では非効率的な運用となることは否めません。
T-7A「レッドホーク」は航空自衛隊の次世代練習機として有力な候補のひとつといえなくもありませんが、戦闘機とのギャップはほとんどなくなる一方で、初等練習機からはギャップが大きくなってしまうことから、メリットとデメリットが大きくあらわれる機種であると言えるでしょう。
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