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「なんで予約せずに指定席に座ってるの?」 度々発生する新幹線での訪日客トラブル、原因はルールの違いにあり?

乗りものニュース / 2024年12月12日 7時12分

東海道・山陽新幹線の車内(画像:写真AC)。

新幹線に乗ったら、他人が自分の指定席に勝手に座っていた――。こういった場合、特に外国人なら、日本の列車のルールをよく理解していないのかもしれません。例えば欧州からすると、指定席と自由席が混在する日本の特急や新幹線の編成は、珍しいのです。

欧州の鉄道「指定席」ってどうなってる?

 新幹線「のぞみ」などで、海外からの旅行客が勝手に自分の指定席に座っていて困った――そんな話を耳にするようになりました。しかしそれは、ルールをよく知らないだけかもしれません。例えば高速列車や特急列車が多く走る欧州は、日本と指定席のルールがどのように違うのでしょうか。

 指定席に勝手に座っている人は、「確信的犯行で、わざと指定券を買わずに乗っているのではないか」。そんな疑いを持つ人も多いようですが、実は日本の「のぞみ」のように1編成に指定席車と自由席車が連結されている列車は、筆者(赤川薫:アーティスト・鉄道ジャーナリスト)の住む欧州ではなかなか珍しい方式だと常々感じます。そのため慣れていない観光客が日本の列車の指定席ルールを理解できないのは、無理がない話かもしれません。

「全車指定席の列車」というのは、比較的あります。例えば、ロンドン~パリ間を海底トンネルで結ぶ国際高速列車「ユーロスター」や、フランスの高速鉄道「TGV」、ドイツの首都ベルリンとポーランドの首都ワルシャワを結ぶ特急列車「ベルリン‐ワルシャワエクスプレス」です。

 このような全車指定席の列車では、乗降口で指定席通りの車両に乗り込もうとしているか確認されることが多く、指定券を持っていない乗客が列車に乗り込むことは難しい状況です。ロンドン~パリ間の「ユーロスター」では、見送り客もホームに入れないように徹底されています。

 一方、より一般的なのは、「全車自由席なのだけど、指定券を買えば(あるいは指定券込の乗車券を買えば)座席を予約できる」という、いわゆる「任意予約列車」です。例えば、ドイツ鉄道の高速列車「ICE」の大部分や、オーストリア鉄道の特急「レイルジェット」などが、この方式です。一等車、二等車などの区分はありますが、一等車であっても基本的に全車自由席で、座席を予約したい人は指定席券を買い足します。

 車内で乗車券と指定券の検札に来ることはありますが、全車指定席の列車で一般的に行われるような、乗降口で切符を確認されることはありません。基本的には全車自由席なのですから、予約が入っていない席ならば指定席券を持っていない乗客が勝手に座って良いわけです。

「座席指定の権利は優先」という概念は共有されている

 通常、予約が入っている座席の上には、赤いランプが点いたり、小さな電光掲示板に「Reserved(予約済み)」の文字や、予約が入っている区間が表示されたりすることが多いため、指定券を持っていない乗客は、この情報を頼りに席を探して座ります。JR東日本のグリーン車の座席の上にある赤と緑のランプと似たシステムと言えば分かりやすいでしょうか。

 しかしこの際、要注意なのは、列車が発車するギリギリに入った予約は反映されにくい、ということです。予約区間を手書きした小さな紙を座席の上に挟み込んでいた時代の話ならまだ分かりますが、現在はデジタルなのにもかかわらず、反映されないのです。掲示板の不具合も多く、1編成まるまる掲示板が機能していないこともありますし、そもそも、掲示をまったく確認せずに一か八かで座る乗客もいます。

 こうした事情から、予約が入ってないと思って座っていたら後から来た乗客に追い出されることは多々あります。逆に、指定券を手に列車に乗り込んでみると、強面(こわもて)の男性が自分の席ですでに爆睡していて、自己責任で揺り起こし、どいてくれるように交渉しなくてはならない——。しかも、「座席指定しているからどいてくれ」と伝えると、「掲示板に書いてないじゃないか」とスゴまれた――なんていうことは、日常茶飯事なのです。

 それでも一応、「座席指定の権利は優先しなくてはならない」というマナーは乗客の間で共有されているため、指定席券を持っていれば、指定を無視して座っている先客とひと悶着あったとしても、最終的には座れることが一般的です。

 ただ、本当に困るのは、「座席指定の権利は優先しなくてはならない」という基本中の基本ともいえるマナーを、まさかの、鉄道会社が共有してくれないことがある、ということです。しかも、笑ってしまうほどに頻発するのです。

「予定とは別の車両型式で今日は運行するため、座席の指定は一切無効です」。こんなアナウンスが駅のホームで流れ、乗り込んでみたら、自分が指定した座席番号がそもそも存在しなかった――そんなことはもちろんのこと、「次の列車は5両目の車両を連結し忘れたため、5両目の車両の座席指定は無効です」なんていう、耳を疑うような「車両丸ごと忘れて来ちゃいました」事件も、筆者は何度経験したか分かりません。

車掌ストで指定席無効→返金なし

 はたまた、「今日は無事に指定席に座れた」と安堵しながら旅していると、いきなり車内アナウンスが入り、「この列車は不具合が発生したため、ここで臨時停車します。後続の列車が拾ってくれることになりましたが、現在の列車の座席指定は後続列車では無効です」と言われ、駅でもなんでもない線路脇に降ろされたこともありました。

 もちろん、後続の列車では席がもらえず。そのうえ後続列車の乗客から「お前たちの列車の故障のせいで、こっちの列車も遅延だよ」と言わんばかりの冷たい視線を浴びせられながら、その先の旅は立たされたまま数時間の耐久レースに……。

 英国では、車内で検札をする車掌がストライキで休んだため、列車自体は走るものの、指定席券はおろか、一等、二等などの区分も一切が撤廃という事例が頻発します。こういう場合は大抵、運転士がストライキで休んで間引き運転にもなっているため、超満員のうえ、日頃は乗らない一等車に勝手に乗って酒盛りをする人など、車内は無法地帯と化していることも。指定券が無効になる例を挙げればきりがありません。

 そしていずれの場合も、指定席券の料金は返金されません。

 このような指定席の概念が一般的な欧州の旅行客にとって、乗り込む時点で指定席券の有無を確認されない日本の新幹線が、全車両が「任意予約の自由席」だと映っても不思議はありません。ましてや、車内での検札が廃止された新幹線の指定席車は、ストライキ時に検札が取りやめになり、「無法地帯化」した英国の列車と似た状況になっていると言えます。

 もちろん「郷に入っては郷に従え」で、旅行者は現地のルールに従うべきなのは当たり前なのですが、外国人が「指定席車は、ガラガラであっても座ったらダメ」という発想にならないのは、仕方がないことかもしれません。

 過密な運行スケジュールを厳守している日本の新幹線では、欧州の鉄道のように列車の乗降口で検札するのは無理な話ですが、「指定席車と自由席車が1編成の中で混在している」というルールを訪日客に理解して尊重してもらうために、駅のホームで「ここに到着する車両は、指定席券がなければ乗れません」と、もっと明確に表示をすることは、ある程度有効なのではないでしょうか。

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