ドイツ戦車の「ボコボコ」何のため? 疑心暗鬼の“労作” 最後は意味ナシって気付いちゃった!
乗りものニュース / 2024年12月16日 16時12分
第二次大戦末期、劣勢のドイツ軍が僅かな望みに賭け反攻作戦を行いました。いわゆる「バルジ作戦」です。この戦場に投入された「ティーガーII」を始めとしたドイツ戦車は装甲表面が波打っていますが、どんな意味があったのでしょうか。
大戦後期のドイツ戦車装甲の謎
今から80年前の1944年12月16日、第二次世界大戦の西部戦線において、アメリカ軍を中核とした連合軍の進撃を止めるべく、アルデンヌ高地においてナチス・ドイツ最後の大反攻作戦が開始されます。同攻勢には様々な呼び方がありますが、映画のタイトルにもなった「バルジ作戦」が一番有名です。
この戦いに、ドイツ陸軍は後期の主力戦車となったV号戦車「パンター」や同車の砲塔を排し駆逐戦車に改造した「ヤークトパンター」、さらには「ティーガーI」「ティーガーII」といった貴重な重戦車戦力まで多数投入しています。これらをよく見ると、車体表面がザラザラに波打っている車両が多いです。
実は、このザラザラは装飾という訳ではなく、「ツィンメリット・コーティング」と呼ばれる特殊な表面処理です。主な目的は、歩兵携行の対戦車兵器である磁石式の吸着地雷対策用で、第二次世界大戦後期にドイツで運用されていた戦車や装甲車などに施されていました。
「敵もこの強力な兵器を使うかも」という危機感から
吸着地雷とは、磁力を使って装甲表面に吸着させることのできる爆弾で、爆発のエネルギーを一点に集中させる成形炸薬効果を利用して装甲に穴を開け、金属のジェット噴射で装甲に穴をあけ撃破する兵器です。ドイツ軍では1942年から使用していました。
歩兵であっても巨大な戦車を一撃で撃破するこの兵器を、ドイツは敵軍もコピーして使ってくるのではと危惧していました。そこで対策のため、装甲表面に硫酸バリウムやポリ酢酸ビニル、おがくずなどの非磁性体を原料とした素材を塗ることで、磁石を使った兵器が使用できないようにしました。これが「ツィンメリット・コーティング」です。
名前の由来は、開発したツィマー社にちなんだものだそうで、1943年8月に制式化されたといわれています。最初はただ装甲面にコーティングをベタ張りしていましたが、はがれ易かったため、後期の戦車に見られるような波打った状態のものになりました。
「敵もこの強力な兵器を使うかも」という危機感から
しかし、結果からいうと、この「ツィンメリット・コーティング」は特に必要ありませんでした。なぜなら、米英軍だけではなくソ連軍も磁石吸着式の対戦車地雷は使わなかったからです。
使われなかった大きな理由として、この対戦車地雷を設置するまでがかなり危険だった点があげられます。
戦車装甲に貼り付けないと効果がないため、敵戦車のゼロ距離まで近づく必要がありました。そうなればもちろん、戦車が搭載する機関銃はもちろん、周囲で行動を共にしている歩兵にも狙われるため、地雷を設置した後、爆発する前に離脱するのは至難の業です。攻撃を行う歩兵は「必死」ではありませんが「決死」の覚悟が必要でした。
そうした人命のリスクを抑えるべく、米英軍では、同じく成形炸薬効果を理由しているものの、投射兵器である「バズーカ」や「ピアット」を使いました。これらの兵器には「ツィンメリット・コーティング」は意味がなく、わざわざ表面をザラザラするのも時間もコストもかかることから、わずか1年後の1944年9月に塗布が中止されることなります。
なお、ドイツですら「ツィンメリット・コーティング」塗布が中止された頃には、対戦車兵器として吸着地雷はほぼ使わなくなっており、遠距離から攻撃可能な投射兵器である「パンツァーファウスト」をメインの対戦車火器に据えていました。
皮肉なことに磁力による吸着地雷を第二次世界大戦終結まで最も多く使った軍隊は、ドイツの同盟国で対戦車投射兵器の開発が遅れていた旧日本軍でした。
ちなみに、かつてプラモデルなどで、この「ツィンメリット・コーティング」を再現する場合は、パテを表面につけ、カッターノコギリの刃で模様をつけるという、とてつもない手間をかける必要がありました。しかし、2024年現在はパテで行う場合でも専用のローラーが売られているほか、「ツィンメリット・コーティング」のパターンを施したデカール(水転写のシール)なども販売されているため、かなり楽に再現できるようになっています。
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