「100年経っても忘れません」無名の日本商船がギリシャ国民を救った! 軍艦相手に“大立ち回り”まで
乗りものニュース / 2025年1月4日 18時12分
日本では無名に近い客船「トーケイマル」ですが、遠く離れたヨーロッパのギリシャではよく知られた船名です。理由は1922年に発生したトルコとの軍事衝突。このとき何があったのかひも解きます。
ギリシャで語り継がれる奇跡の救出劇
2018年、ギリシャで一本の短編アニメ映画が公開されました。タイトルは『TOKEI MARU』。ギリシャ人監督が手掛けたこの作品は、絶妙なタッチのイラストレーションと、感動的なストーリーで同国では話題を呼びました。
この映画、実は日本に大きな関わりがあります。なぜなら、この物語で大きな役割を果たす船「トーケイマル」は日本の商船であり、しかも実話をもとにしているからです。実際にギリシャには「家族が日本の船に助けられた」「父は日本にずっと感謝していた」という人もいるようです。
とはいえ、ギリシャとは裏腹に日本ではほとんど知られずに終わったこの作品。なぜ遠く離れた中欧では有名なのでしょうか。
そもそも、作品の舞台は1922年のエーゲ海。第一次世界大戦で敗戦国となったトルコに対し、イギリスの後ろ盾を得たギリシャが1919年に戦いをしかけます(希土戦争)。それにより、戦場となった都市スミルナ(トルコ名イズミル)での出来事です。
スミルナ周辺は第一次大戦以前のオスマン帝国時代はギリシャ系住民が多く居住していました。そうした民族的な背景を理由に、大戦の敗北により崩壊しつつあるオスマン帝国の混乱に乗じ、同地を領有しようとギリシャ軍が進駐しました。
しかし、オスマン帝国の後継国家として領土を継承したトルコ共和国が成立すると、国家間の戦争へと進展。結果、トルコが勢力を盛り返し、激しい戦闘により住むところを失ったスミルナのギリシャ人やアルメニア人は、戦火を逃れようと海からの脱出を図りますが、絶対的に船が足りません。そのような状況に、手を差し伸べたのが日本の商船「ト―ケイマル」でした。
逃げ場のなくなった人々の前に日本船が
当時、「トーケイマル」は、貿易のために地中海へと来航していましたが、スミルナの住人が困っているのを見て、迷わず積み荷を捨てて彼らを乗船させます。こうして、救出されたギリシャ系並びにアルバニア系住民は、戦場と化したスミルナを離れることに成功したのです。
実は、この「トーケイマル」の船長もかつて薩英戦争で父親をなくしており、どうしても人々を見過ごすことができなかったそう。「トーケイマル」は、妨害しようとするトルコ海軍にも「もし難民に手を出すのなら、それは日本に対する侮辱とみなす」と毅然とした態度をとり、約800人のギリシャ人やアルメニア人を救い出しました。
「トーケイマル」という船は実在するのか。この話は実話なのか。船長はいったい誰だったのか。日本に残された資料は大変に少なく、調査も難航しましたが、ギリシャ近現代史の専門家である東洋大学の村田奈々子教授が、調査を続けるなかで一隻の商船にたどり着きました。
その船は「東慶丸」。1915(大正4)年に中国大連の東和公司が購入し、翌年に日本の大連東和汽船へ移管された貨物船です。この船はもともとイギリスで進水し、オーストラリアとの間を結ぶ南半球航路で重用されたのちに、日本にやってきました。
この「東慶丸」」が、1921(大正10)年に貿易で地中海へ向かったことが記録として残っています。
さらに、船長についても日比左三という人物であったことを突き止めました。その人物像については不明であるものの、彼の母親が熱心なキリスト教徒であったことは判明しています。
断片的な情報しかないため、推測の域を出ないのが現状ではありますが、つなぎ合わせていくと、「東慶丸」という船がエーゲ海 で多くの避難民を助けたようだ、というストーリーは間違いないのではないでしょうか。
この「トーケイマル奇跡の救出劇」からちょうど100年の節目であった2022年には、ギリシャの都市カヴァラで、「TOKEI MARU 1922-2022: Commemorating 100 Years since a Japanese Ship’s Voyage to Smyrna」というイベントも開催されました。
日本にはほとんど資料の残されていない事件ではありますが、ギリシャの人々の心にはしっかりと刻まれているようです。
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