「え、船じゃないの!?」 陸自の激レア「異形の巨大車両」衝撃の洋上訓練に密着! 隊員の知られざる苦労とは
乗りものニュース / 2025年1月5日 17時12分
激レアの水陸両用車、陸上自衛隊の「94式水際地雷敷設装置」の訓練を取材したら、水の上でも緻密に計算しながらかじとりをしなければならない、隊員の知られざる苦労を垣間見ることができました。
水陸両用車は操縦免許も2種類必要
陸上自衛隊は有事の際、敵の水陸両用車や舟艇などの着上陸侵攻が想定される海岸線や浅海部に「水際(すいさい)地雷」と呼ばれる浅瀬専用の機雷を設置し、敵の侵攻を妨害する戦術を考えています。
そのための専用装備なのが、水陸両用車の上に水際地雷敷設用の機械を搭載した「94式水際地雷敷設装置」です。
戦車や装甲車、自走砲などと比べると調達数が少なく、運用している部隊も限られるため、なかなか目にすることのない装備です。このたび、そのような「激レア自衛隊車両」の訓練風景を取材できたので、陸上での訓練と水上での訓練、2回に分けてご紹介します。
今回は後編、博多湾の一角を使って行われた海上訓練の様子です。
敷設車は、陸上では大型免許で運転できますが、海上では船舶扱いとなるため操縦(操船)には船舶免許が必要です。地雷の設置作業では沿岸近くしか航行しないため、2級小型船舶免許の取得で操縦資格は足りるものの、部隊では操縦者によりハイレベルな1級小型船舶免許の取得を義務付けているそうです。
なお、1級小型船舶免許は陸上自衛隊内では取得できないため、現在は海上自衛隊に出向して免許の取得を行っているとのことでした。敷設車についても船舶としての登録が必要で、航海灯や錨、救命浮輪など船舶として義務付けられている物は民間船などと変りなく装備されています。今回の航行訓練では、船検(船舶検査)の更新も兼ねて実施されました。
敷設車が海上に進出することを「へん水:へんすい」といいます。訓練では整備されたマリーナのスロープを使用して、へん水していましたが、有事ではどこが作戦地域になるかわかりません。そのため、へん水時に敷設車が暗礁などに衝突しないよう、中隊内のダイバーチームが海底の様子を事前偵察し、へん水場所を選定するそうです。また水際地雷の設置海域についても、このダイバーチームが適地を事前に偵察するとのことでした。
蛇行すると作業が中止、どういうこと?
敷設車の海上における推進力は、車体後部にある2基のスクリューによって得られています。94式の敷設車には板状の舵はなく、タグボートなどと同じくスクリューの収められたポッドが左右に旋回することで進行方向を変えるシステムです。このスクリューポッドは、ステアリング(ハンドル)と連動するようになっているため、水上航行時もステアリングを回して進行方向を定めます。
なお、ステアリングは連動モードの切り替えが行えるようになっており、陸上での車輪ステアリングと、へん水時の車輪・スクリュー同時操作、海上でのスクリュー操作の3モードで切り替えて使用します。
航行訓練では、熟練隊員の練度維持がメインであったため、今回は敷設装置を載せない純粋な船舶操縦訓練という形でした。実際に敷設装置を搭載し、訓練用模擬地雷で投下訓練を海上で行うこともありますが、このような訓練時は、投下した水際地雷は一定時間が経った後に浮上装置が作動し、海面に浮き上がってきたところを全数回収するそうです。
航行訓練で重視している点をベテラン隊員に聞いたところ、「まずは船舶としての基本的な(他の船舶と安全に航行する)部分と、とにかく敷設(設置)ラインを正確にトレースすること」と答えてくれました。
水際地雷の投下はGPSと連動したコンピューターで制御され、設置位置に来ると自動で投下が始まります。そのため、操縦者は車のナビゲーションシステムのように示された設置経路を正確にトレースしながら操縦しなければなりません。
水際地雷原の効果を最大限に効かせるため、設置ラインは緻密に計算されて設定されます。そのため、敷設車が蛇行などをして設置ライン上から逸脱すると、GPSの位置情報を元にコンピューターが投下を停止してしまうのだとか。このため、操縦者には正確かつ繊細な操縦が求められるとのことでした。
熟練隊員は「その日の海流や風の強さ、搭載している地雷の量などで操縦感覚は常に変化します。よって、ひとつとして同じ条件はありません。とにかく数をこなして感覚を研ぎ澄ますしかないのです」と話していました。
演習場における陸上訓練は3夜4日、海上航行訓練は夜間も含め2日間にわたって行われました。こうして陸上と海上の両方に分けて行われた水際障害中隊の訓練は完了しました。
【動画】これが操縦手目線か!激レア陸自車両の海上訓練をムービーで
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