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「戦闘機界のシビック」F-16が選ばれなくなってきた根本理由

乗りものニュース / 2024年12月28日 6時12分

ウクライナに供与されたF-16(画像:ウクライナ空軍)。

ウクライナでも重宝されるF-16戦闘機。1970年代以降の戦闘機では群を抜く人気モデルとして現在も生産が続いていますが、最近は商戦で敗北を喫しています。なぜ他の戦闘機が選ばれるケースが増えているのでしょうか。

ウクライナも重宝 戦闘機の傑作F-16

 2024年12月5日、ウクライナ国防省は公式メディア「アーミーインフォーム」で、オランダなどから贈与されたF-16戦闘機の活動状況について報じました。ロシアが使用した大型自爆型ドローン「シャへド」や巡航ミサイルなどを多数撃墜し、2024年8月の運用開始からわずか3か月で、すっかりウクライナ空軍にとって不可欠な存在となっているようです。

 航空自衛隊のF-2戦闘機のベースにもなったF-16は、1970年代に開発された戦闘機ですが、2018年6月の時点で4604機が製造されており、現在も最新仕様機「F-16V」の生産が継続しています。

 4604機という生産機数は、1万機以上が生産されたロシア(旧ソ連)のMiG-21戦闘機や、5195機が生産されたF-4「ファントムII」戦闘機には及びませんが、1970年代以降に実用化された戦闘機の中では群を抜いています。1973年の試作機生産開始から半世紀を経た現在まで生産が継続されている点から見ても、商業的に大成功した戦闘機と言って差支えないでしょう。

 F-16は実戦での成績も優秀で、前に述べたウクライナ空軍での活動だけでなく、1991年の湾岸戦争や2003年のイラク戦争などでも大きな戦果を挙げています。

 このように商業面でも軍事面でも成功をおさめているF-16ですが、2024年に入ってからの商戦では、エジプトとタイで他の戦闘機に敗北を喫しています。

F-16の後継に「ロシア機」いや「中国機」

 エジプトは2024年12月現在、1980年代に引き渡された初期型のF-16A/Bを40機と、その後段階的に買い増したF-16C/Dを178機運用しています。

 初号機の引き渡しから40年以上が経過したF-16A/Bを置き換えようと、エジプト政府は当初、その後継機をF-16Vとするためアメリカ政府と交渉していました。しかしまとまらず、エジプトメディアは2019年に、ロシアが提案していたSu-35戦闘機が内定したと報じました。

 エジプトがロシアとSu-35の導入に向けた交渉をしていたのかは不明ですが、ウクライナ侵攻後、導入を公式に否定。その後もエジプトは、F-16A/Bの後継機の選定作業を進めていました。同国メディアは2024年9月に、アメリカがロシアとともに神経を尖らせている中国とパキスタンが共同開発した「J-10C」戦闘機が内定したと報じています。

 J-10Cを選択した理由の一つは、1機4000~5000万ドルという、F-16Vより1000~2000万ドル近く安い価格にあると、エジプトメディアなどは報じています。

 このJ-10Cの導入についてエジプト、中国、パキスタンの各国政府から公式な発表はありませんが、2024年9月にエジプトのエル・アラメインで行われたエアショーにJ-10Cが参加していたことなどから見て、ある程度、話は煮詰まっているものと考えられます。

F-16Vはタイでもフラれた

 タイ空軍は1980年代後半から2000年代前半にかけて、エジプトと同じF-16A/Bと、その改良型F-16AM/BMを導入しています。このうちF-16A/Bは老朽化が進んでおり、タイ空軍は2022年1月から後継機の選定作業に着手していました。

 タイ空軍は当初、F-16A/Bの後継機としてF-35A戦闘機の導入を希望していました。しかしアメリカはF-35の輸出に必要な条件をタイが充たしていなかったことを理由に、これを拒否。代わりにF-16Vを提案しました。

 しかしタイ空軍はF-16Vを採用せず、2024年8月にスウェーデンが提案したサーブ「グリペン」の最新モデル「グリぺンE/F」を採用すると発表しました。

 タイ空軍の選択は、F-35Aの輸出を拒否したアメリカに対する反感という面も多少はあるのでしょうか。ただ同空軍は、JAS39(グリペンの機種番号)E/Fの前モデルであるJAS39C/Dや、早期警戒機S-100「アーガス」などのサーブ製軍用機を運用していますので、運用実績の積み重ねによるサーブ社製軍用機への信頼や慣れも、グリペンE/Fに有利に働いたのかもしれません。

見積りみて「驚愕!!」が目に浮かぶ

 エジプトとタイがF-16Vを選ばなかった理由は複合的なものですが、高すぎる価格も、F-16Vに不利に働いたのではないかと筆者(竹内 修:軍ジャーナリスト)は思います。

 エジプトとタイがF-16A/Bを導入した当時、F-16は1機1500万ドル程度で購入できる、比較的安価な戦闘機でした。

 しかしF-16Vは高性能なレーダーや電子機器などを搭載した結果、価格が上昇しており、エジプトがF-16Vの導入交渉を進めていたころの1機あたりの価格は、6000万ドルを超えていたとの報道もあります。

 F-16Vの価格上昇は、物価や為替レートの変動なども考慮する必要がありますし、F-16V自体の能力も向上していますので、F-16A/Bの価格と比較すること自体、ナンセンスなのは確かですが……長年乗りなれたフォルクスワーゲンやホンダ「シビック」などの大衆車の買い替えに、同じ名前の新型車の見積りをもらったら、高級車並みの価格になっていて購入に二の足を踏んだ――エジプトとタイもそうした状況に出くわしたのではないでしょうか。

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