海自の悲願! 70年越しで実現した「空母保有」なぜ挫折続いた? 真価問われるのはこれから
乗りものニュース / 2024年12月27日 6時12分
海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦「いずも」「かが」が事実上の空母に姿を変えます。ただ、海上自衛隊は空母の保有を発足前から望んでいたとのこと。どのような経緯だったのか、70年以上かかったその歩みを振り返ります。
草案では空母4隻の保有を検討
米国カリフォルニア州サンディエゴ沖で、ステルス戦闘機「F-35B」の運用試験を行っていた海上自衛隊の護衛艦「かが」が2024年12月16日、呉基地に戻ってきました。同艦はJMU(ジャパンマリンユナイテッド)呉事業所で行われた第1回特別改造工事で、艦首部分を台形から長方形へ変更するなど、「空母化」を見据えた様々な改修が施されており、今回の試験では、搭載されている各種機器の動作や艦上における機体の取り回しといった、固定翼機の本格運用に向けたさまざまなデータを収集しました。
護衛艦「かが」の事実上の空母化は、かつて大型空母を複数隻保有・運用していた旧日本海軍が解体された後、現憲法下で新たに発足した海自にとって長年の悲願とも言えるものです。
そもそも、海自の空母保有計画は朝鮮戦争勃発の前後、つまり後に陸上自衛隊となる警察予備隊が発足し、日本の再軍備が動き出した1950(昭和25)年まで遡ります。当時、旧海軍の再建を模索していた野村吉三郎や福留 繁、保科善四郎らのグループは海上兵力の整備計画を「研究資料」として作成しており、この中にアメリカ軍から「護衛空母」を供与してもらい保有すると明記していました。
ただ、この時の「研究資料」は護衛空母4隻に加え、潜水艦8隻、巡洋艦4隻、さらには輸送艦14隻を含む艦艇約140隻、航空機750機という大規模なものでした。当時の日本の状況は、終戦からまだ5年ほどしか経っていないため、大戦の傷跡が多く残り、まだまだ復興途上であったことから、そうした余裕などないことは明らかです。
最終的には、アメリカ側の窓口であったアーレイ・バーク少将の助言もあり、一気に整備するのではなく、年度別に導入計画を立てて段階を踏んで実現していく方向になりました。そこで、当時の日本政府は、戦後も海軍再建を研究していた旧海軍軍人や海上保安官による内閣直属の諮問機関、いわゆる「Y委員会」での議論も踏まえ、1952(昭和27)年4月、海上警備隊を創設します。
ちなみに、海上警備隊の主要装備はアメリカから貸与されたパトロール・フリゲート(PF)、くす型警備船が中心でした。
なお、空母に関しては、その後もアメリカ海軍から駆逐艦母艦を貸与してもらって改造する案や、関釜連絡船として建造された「興安丸」を改装する案、さらにはアメリカ軍事援助顧問団が貸与する意向を示していた空母2隻を導入する案など、さまざまな構想があったものの、いずれも実現しませんでした。
空母保有が目前に でも「安保闘争」の影響が
その後、保安庁警備隊を経て1954(昭和29)年7月、防衛庁(当時)海上自衛隊が発足。東西冷戦が激化し、ソ連の潜水艦が日本の安全保障にとって脅威となる中、海自は対潜能力の向上を理由に対潜ヘリコプターを搭載したヘリコプター搭載母艦(CVH)を保有しようとします。
1958(昭和33)年度にスタートした第1次防衛力整備計画(1次防)では見送られたものの、続く第2次防衛力整備計画(2次防)に向けて具体的な検討が行われ、防衛庁技術研究所(当時)で配置図の作成まで行われました。
庁議でもCVHの建造計画が通り、ついに空母保有が実現かとなったものの、2次防は日米安全保障条約の改定を巡る混乱、いわゆる「60年安保闘争」の影響で決定が遅れます。結局、CVHは1961(昭和36)年度予算には盛り込まれず、計画そのものが立ち消えになりました。
しかし、潜水艦の性能が高まる中、水上艦と艦載対潜ヘリを組み合わせたASW(対潜戦)能力の向上は必要不可欠です。こうして海自は全通甲板を持つ空母ではなく、強力な兵装とヘリ搭載能力を併せ持ったヘリコプター搭載護衛艦(DDH)の計画に舵を切りました。その結果、第3次防衛力整備計画で生まれたのが、HSS-2哨戒ヘリ3機を搭載可能なはるな型護衛艦2隻でした。
その後に策定された第4次防衛力整備計画では、政局による策定の遅れや修正だけでなく、期間中(1972年度から1976年度)に第4次中東戦争が勃発したことが大きな影響を与えます。この戦争では、OPEC(石油輸出国機構)が原油の供給制限と輸出価格の大幅な引き上げを行いますが、これにより急激なインフレが世界を席巻、日本にも経済的な混乱をもたらしました。
いわゆる「第1次オイルショック」と呼ばれた出来事で、これにより海自でも護衛艦の新造が一部中止になるなど、防衛政策に大きな影響がありました。日本政府/防衛省でも財政的に中期的な見通しが立てられなくなり、1977年度から1979年度にかけて単年度で予算が策定される「ポスト4次防」と呼ばれる期間に突入します。
空母とイージス艦を天秤にかけた結果…
海自はこの間にASW能力の向上を図るため、ヘリを複数機搭載できるDDH、艦隊防空の中核となるDDG(ミサイル護衛艦)、そしてヘリ1機を搭載できるDD(汎用護衛艦)を組み合わせた8隻の護衛艦と8機の対潜ヘリで構成される戦術単位「8艦8機体制」の構想を固めます。この構想に基づいてHSS-2B哨戒ヘリの開発と、同機を搭載するはつゆき型護衛艦の建造が行われています。
ここまではASWに主眼を置いてきましたが、1970年代後半にはソ連海軍航空隊のツポレフTu-22など陸上爆撃機による艦艇への攻撃が、脅威として現実味を帯びてきました。防衛庁に設置された「洋上防空体制研究会(洋防研)」で海自は、高速で飛来するミサイルに対処するため次世代DDGとしてイージス艦の導入を求める一方、爆撃機への直接攻撃を行えるよう、イギリス製の垂直離着陸戦闘機「シーハリアー」を艦載戦闘機として運用可能な航空機搭載護衛艦(DDV)の提案に踏み切ります。
結局このときは、こんごう型護衛艦となるイージス艦の整備が優先されたため陽の目を見ることなく終わりますが、全通甲板を備えた自衛艦の構想は生き続けることになりました。
艦橋と煙突が一体化した構造物を右舷側に寄せて配置する全通甲板型の海自艦艇は、まずおおすみ型輸送艦で実現します。続いて2001年度から2005年度までの中期防衛力整備計画(13中期防)で護衛艦はるなの代替として、「指揮通信機能及びヘリコプター運用能力等の充実」を図ったDDHの建造が盛り込まれました。これが全通甲板を持つひゅうが型護衛艦として、2009(平成21)年3月に1番艦「ひゅうが」が、2011(平成23)年3月に2番艦「いせ」が、それぞれ竣工します。
いずも型の空母改修、ここからが本番だ
ひゅうが型は、広い飛行甲板と格納庫を併せ持つヘリ運用の能力に加えて、有事や大規模災害時に洋上の司令部として機能するための設備が備わっています。ただ、一方で短魚雷発射管や、「シースパロー」対空ミサイル並びに「アスロック」対潜ロケットの発射が可能なVLS(垂直発射装置)を装備するなど、汎用護衛艦と同程度の戦闘能力も維持していました。
そのため、現在の目で見ると中途半端さは否めないものの、物資輸送を行える余裕を持った船体と高い指揮通信機能、そして航空機運用能力は、2011年3月11日に発生した東日本大震災の災害派遣で大いに役立つことになります。
このひゅうが型をさらに発展させたのが、このたび空母改装され話題となった、いずも型護衛艦です。1番艦「いずも」は2015(平成27)年3月に、2番艦「かが」は2017(平成29)年3月に就役しています。任務の多様化や陸海空自衛隊を一体的に運用する統合運用体制の整備を踏まえ、航空機運用能力や指揮統制能力が強化されています。
2018(平成30)年末に政府が決定した「防衛計画の大綱」(防衛大綱)と「中期防衛力整備計画」(2019~2023年度)では、STOVL(短距離離陸・垂直着陸)タイプの戦闘機であるF-35Bを導入し、洋上運用できるよう、いずも型を事実上の空母へ改修することが明記されました。これに合わせて、まず「いずも」でF-35Bを発着艦できるよう最低限の工事が行われた後、「かが」では艦首部分を台形から長方形へ変える大規模な改造が2024年3月まで実施されています。なお、「いずも」も2024年度末から飛行甲板の改造を伴う工事が行われる見込みです。
海自創設時から計画されていた空母の保有は、「いずも」「かが」の改修完成でようやく叶うと言えるでしょう。しかし大事なのは固定翼機を搭載可能なDDHを今後、有効的に活用するにはどのような体制が望ましいかということです。
F-35B戦闘機は航空自衛隊が導入する機材ですが、「いずも」「かが」に搭載した場合にどのような運用を行うかはまだ詰められていないようです。叶った夢を現実のものにするためにも、海空が連携して抑止力を発揮できる体制整備が行われることを期待しています。
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