「コロナ後」に向けて走り出した2024年の鉄道 値上げやコスト削減の中で見えてきた「次の一手」とは
乗りものニュース / 2024年12月31日 7時12分
2024年の鉄道を振り返ると、「アフターコロナ」を模索する一年だったと言えるかもしれません。利用の回復が続く中、各社が利益の確保に向けて「次の一手」に着手しています。
関東と関西で異なる回復傾向
2024年の鉄道を振り返ると、「アフターコロナ」を模索する一年だったと言えるかもしれません。鉄道利用は2023年度以降、急速に回復していますが、2024年はさらに一段階回復しました。
大手私鉄15社(2022年に新京成電鉄を完全子会社化した京成を除く)の2024年度上半期(4~9月)輸送人員をコロナ禍前の2019年度同期と比較すると、定期は16.4%減、定期外は4.3%減、全体で11.5%減でした。
ただその内訳は、地域によって異なります。関東8社合計は定期が18.6%減、定期外が1.9%減、全体では12%減でしたが、関西5社合計は定期が9.7%減、定期外が12%減、全体では10.7%減でした。関西の定期利用は関東ほど落ち込んでいないものの、定期外がそれ以上に減少した格好です。
運賃収入は2019年度下期の消費税率改定、バリアフリー料金制度の導入、東急・近鉄・南海などの運賃改定、東急・相鉄新横浜線の開業が影響しており、単純比較はできませんが、総額だけで見れば関東、関西、その他は総じて3%程度の減少にとどまっています。
収入から営業費を差し引いたのが営業利益です。鉄道事業単体の数字は公表されていないため運輸事業(鉄道、バスなど)全体の営業費を比較すると、営業費は15社合計で4.5%も減少しています。物価や人件費の上昇、ホームドアなど設備投資の増大を考えると、かなりの経営努力です。
鉄道は動力費や人件費など鉄道運行に必要な費用や、施設や車両にかかる減価償却費など、利用の多寡にかかわらず必要な費用、固定費が大きいビジネスなので、乗客の減少はそのまま利益の減少につながります。鉄道利用はコロナ禍中の予想より回復していますが、これ以上の回復が望めないのであれば、運賃値上げなどで収入を増やすか、コストカットで営業費を減らさなければ利益は回復しません。
JRや大手私鉄が2022年以降、相次いで運賃改定を申請しているのは、このような背景があります。2024年もJR北海道、JR九州、JR東日本、京阪電鉄が値上げを申請しました。特に国鉄民営化以降、消費税率改定などを除き運賃を据え置いてきたJR東日本が、初の値上げを申請したことは大きな衝撃を与えました。
関西では定期、定期外ともに減少した利用を補うため、客単価の向上を目指した取り組みが目立ちます。阪急は2024年7月、京都線に同社初の座席指定サービス「PRiVACE(プライベース)」を導入。JR西日本も10月、普通列車に指定席を連結した「Aシート」「うれしート」を拡大しました。京阪の「プレミアムカー」は2025年秋に一部列車に増結を予定しており、京阪間を中心に競争がますます激化しそうです。
「サービスの共通化」が見えてきた
営業費の削減では、会社の垣根を越えてコスト削減の取り組みが検討されています。JR東日本とJR西日本は2024年7月、車両の装置・部品の共通化に向けた検討を開始したと発表しました。まずはモーターやパンタグラフなどの共通化に着手し、将来的には車両規格の共通化も視野に入れています。
改札システムでも大きな発表がありました。JR東日本は12月、今後10年以内にコスト削減とサービス拡大が可能なセンターサーバー式Suicaのシステムを全面的に導入すると発表しました。
このシステムは現行システムとは併存できないため、全国共通ICカードも新システムに切り替える必要があります。そこでJR東日本は、このシステムを他事業者に提供する方針を示しており、今後は全国的なシステム置き換えに向けた検討が始まりそうです。
同じく5月、JR東日本、東武、西武など鉄道事業者8者が2026年度以降、共通サーバーを使用したQRコード乗車券を共同で導入し、磁気乗車券を置き換えていくと発表しました。独自開発はコストがかさむだけでなく、サービス共通化の妨げになります。8社以外の事業者も検討中とのことで、関東のみならず全国共通の仕様になるかが注目されます。
近年、急速に普及しているのが、クレジットカードのタッチ決済を利用した乗車サービスです。大阪万博を控える関西では、近鉄、阪急、阪神、大阪メトロが2024年10月29日にサービスを開始。先行して導入した南海や大阪モノレールを含め、ほとんどの路線で利用可能になりました。
関東でも、5月に東急、11月に京王、12月に横浜高速鉄道や西武、都営地下鉄、京急が実証実験を開始しており、相互直通運転の対応が進めば、一気に普及する可能性があります。
自動車業界でも経営統合や提携が話題ですが、オーダーメイドの少量生産が多い鉄道業界もシステムや機器の統一は大きな効果が見込めます。各社ごとの特色を愛する鉄道ファンからすれば寂しい話かもしれませんが、2024年は、「サービスの共通化」がアフターコロナのキーワードとして表面化してきた一年でした。
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