「あわや沈没!!」から生還できるのが“いい軍艦” 「ダメコン」のスゴさとは ハイテク艦もやっぱり「人」
乗りものニュース / 2025年1月2日 6時12分
軍艦が損傷を受けた場合、沈没を防ぐための「ダメージコントロール」が重要です。乗員らは、一体どのようなことをしているのでしょうか。2019年に行われた英軍艦「モントローズ」の一般公開から振り返ります。
「いいダメコン」が艦の命を左右する
軍艦はミサイルなどにより被害を受ける可能性がある――当たり前の話ですが、ここで重要になるのが、いわゆる「ダメージコントロール(ダメコン)」です。艦の沈没や命の危機につながる火災や浸水など、あらゆる要因に対処する能力です。
このダメージコントロールの実態について、2019(平成31)年に東京の晴海ふ頭で一般公開されたイギリス海軍のフリゲート「モントローズ」で実施されたデモンストレーションを例に、概観していきましょう。
まず、一口にダメージコントロールといっても、被害箇所や状況に応じてさまざまな種類の方策がとられます。たとえば船体に穴が開き浸水が発生した場合、まずは浸水箇所に布や木の板、ロープや箱などをあてたり、木材の端材などを打ち込んだりして、その穴を塞いでいきます。さらに角材などで水圧に耐えられるよう支柱を設け、浸水を防ぎます。
すでに艦内に入った海水は、ポンプで外へくみ出していきますが、片側の浸水が激しい場合には、その反対側にあえて注水して船体を安定させ、転覆を防ぐ場合もあります。
実際に「モントローズ」で展示されていた対処方法はこうです。まず浸水が発生すると警報が鳴り、対処要員は金づちと木材が入った小さな袋を持って現場に駆け付けます。浸水箇所を確認したら木材を金づちで打ち込み、水の勢いを抑えていきます。そしてその上から半球状の蓋をあて、さらにそれが水圧に耐えるよう、支柱で固定していました。
火災への対応は?
一方、艦艇における火災への対処ですが、そもそも火災には紙や木など固体の可燃物による「A火災(一般火災)」、油など可燃性の液体による「B火災(油火災)」、電気配線のショートなどによる「C火災(電気火災)」の3種類があり、それぞれの場合で対処が異なります。
Aの一般火災の場合には、勢いよく放水する消火方法が用いられますが、この方法はBの油火災の場合には、かえって火の勢いを強くしてしまい、またCの電気火災の場合には感電の恐れがあるため、用いることができません。それら火災の種類を見極め、水を霧状に放水する装置や、ガスや化学剤を用いた消火方法などがとられます。また、海水を散布する装置が各所に設置されていて、これらを用いて艦内の火災を鎮めていきます。
こうしたダメージコントロールが日本近海で功を奏した事例があります。2017(平成29)年に静岡県の伊豆半島沖で、アメリカ海軍のイージス艦「フィッツジェラルド」が貨物船と衝突した事故です。
2017年6月17日未明、訓練を終えて静岡県伊豆半島沖を航行していた「フィッツジェラルド」は、フィリピン船籍の貨物船が接近していることに気づかず衝突し、艦内の居住区や通信室などに浸水が発生しました。また、衝突の衝撃で艦橋の一部が押し曲げられるなど船体構造がダメージを受けたほか、漏電や有毒な煙霧まで発生し、まさに運用開始以来の、絶体絶命の危機を迎えたのです。
「フィッツジェラルド」を救った乗員の決死の努力
しかし、同艦の乗員たちは、前述したような危険な状況下、被害を受けた区画において16時間連続でダメージコントロールを実施し、見事「フィッツジェラルド」を母港である神奈川県横須賀基地へと帰港させたのです。
この事故により、「フィッツジェラルド」は居住区への浸水で乗員7名の命を失ったほか、船体にも大きなダメージを受けてしまいましたが、乗員たちの懸命の努力によって幸い沈没は免れました。後日、アメリカ海軍は懸命のダメージコントロールによりさらなる人命損失を防ぎ、艦を守った功績をたたえ、「フィッツジェラルド」の乗員36名に対して勲章を授与しました。
ダメージコントロールは戦闘中のみならず、このように平時から重要性の高いものです。2019年の「モントローズ」一般公開では、イギリス海軍によるダメージコントロールに対する努力の一環を垣間見ることができました。
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