韓国機炎上事故、通常の「再着陸」とは全く違う“特殊な飛び方” パイロットはどう判断したのか
乗りものニュース / 2025年1月4日 15時42分
務安空港で発生した韓国LCC機の着陸失敗事故。すでにネット上では事故調査の専門家や航空会社のパイロットが様々な見解を発表しています。どういったものがあるのでしょうか。
181人のうち生存者はたったの2名
2024年12月29日、韓国・務安国際空港で、同国のLCC(格安航空会社)、のチェジュ航空2216便が、着陸時に滑走路をオーバーランし壁に激突して大破炎上するという痛ましい事故が起きてしまいました。韓国当局ではすでに事故機からブラックボックスを回収しているので、ここでは事故の直接原因を推測することは避けますが、事故原因に関係しそうな要因は、言及されていること以外にも複数ありそうです。それらを整理してみます。
今回の事故機に乗っていた181人のうち、生存者はたったの2名。着陸の様子を撮影した動画では爆発炎上ともいえるほどの激しく大破した機体から2名が救出されただけでも奇跡的といえる事故でした。
事故当日、務安空港は無風。チェジュ航空2216便は出発地のバンコクを離陸後、務安空港周辺まで正常に飛行していたことがわかっています。2216便は務安空港の南側から最初の着陸進入を開始していましたが。最終進入の途中でゴーアラウンド(着陸復行)を宣言し、再び上昇しながら空港上空を通過して空港北側に向かいました。
さらに同便は、空港北側で方向転換して南に向けて着陸する決断をしています。2216便の非常事態を宣言発出時刻は、航空管制から鳥の活動について注意喚起があった1分後。およそ6分後に同じ滑走路を南方向に着陸し事故に遭遇しています。
事故機は着陸前から接地後、滑走路端の壁に激突して大破するまでの複数の映像が残されているため、すでにネット上では事故調査の専門家や航空会社のパイロットが様々な見解を発表しています。
映像からわかることは接地時に「着陸形態」と呼ばれる脚とフラップ(高揚力装置)を展開した状態ではないことです。
航空機は離着陸時に主翼前縁と後縁に装備されているフラップを下げ、翼の面積を広げることで、低速でも安全に飛行できる形態をとります。さらに同便は、着陸に使用する脚も出されていませんでした。脚とフラップも展開することで速度を抑制できますが、エンジン出力が不十分だと降下率が増えるため、こんどは滑走路までたどり着けなくなる可能性が出てきます。
専門家の見解では、737-800には脚が出ない場合でも、手動で脚下げの操作が行える機構があり、それは重力、つまり脚の重さで降りる構造になっているとのことです。そうしたことから、脚上げの状態で着陸したのは意図的である可能性が高いとされています。
ゆえに事故時の映像からは、かなりの高速で滑走路に進入して止まり切れなかった様子を見ることができます。
普通の「ゴーアラウンドからの再着陸」とは全く異なる事故機の動き
また、今回の事故では右側のエンジンから煙が出ている様子が、SNSなどで公開されました。これは鳥の群れに関する注意勧告があり、その直後に事故機が緊急事態を宣言したタイミングと重なっています。
この時に疑われるのは、ダメージを受けた右側エンジンではなく、正常に動作していた左側エンジンを止めてしまった可能性です。他方、最初の進入時にパイロットがゴーアラウンドを宣言したのは、この時点ですでにエンジンの1基に不具合が生じていた可能性を指摘する専門家もいます。
そして緊急事態宣言からわずか6分後に着陸していることを不自然だと指摘するパイロットもいます。その理由は「チェックリスト」の存在です。
機長と副操縦士は運航の各段階でチェックリストと呼ばれる操作手順リストを読み上げて、確認する決まりがあります。エンジンの1基が故障した際など機体に不具合がある場合のチェックリストは、通常運航時のものよりも長いので、それを終わらせてから着陸準備を始めることが求められます。つまり事故機の1回目のゴーアラウンドから再着陸し、失敗するまでの時間が短すぎるというのです。
エンジン故障時は着陸のやり直しができないので滑走路への進入は一発勝負になります。なので、パイロットの心理としてはチェックリストを完了してから万全の態勢で着陸を試みるのが自然というわけです。エンジン故障時や操縦系統故障時などの訓練はシミュレーターを使用して行われます。そのため、シミュレーター訓練の中身はチェックリストが中心だと断言するパイロットもいるほどです。
今回の事故の要因は今後の入念な調査をもとにした報告を待つ必要がある――というのは先述したとおりですが、一般的に航空機事故の原因は70%以上がヒューマンエラー、つまり乗員が犯した間違いや判断ミスに起因しているという数字もあります。
そして、このヒューマンエラーの発生率はパイロットの疲労度に直結するというデータがあります。あるエアラインのパイロットは、事故要因の一つに2216便が夜行便であることを指摘しています。
午前2時11分(現地時間)にバンコク空港を離陸し、9時7分ごろ(同)、韓国務安空港に着陸して事故を起こしています。この時のパイロットは、かなりの疲労を感じていたのではとの指摘です。
こうしたパイロットたちの見解に加え、航空事故調査の専門家は滑走路の延長上に設置されたコンクリートの壁の危険性に言及しています。この壁さえなければ事故機は大破炎上を免れ、多くの生存者が救出された可能性があります。この事故の教訓として滑走路の延長上に設置する構造物について新たな規定が導入される可能性もあると筆者は考えています。
通常、滑走路の端のさらに外側にはオーバーランと呼ばれる部分があり、滑走路上で止まり切れなかった場合にのみ使われる予備スペースがあります。近年はこの部分に入った機体も半ば強制的に停止させる特殊な舗装を施した「EMAS」と呼ばれる区域を設置する動きがあり、日本でも羽田空港のA滑走路南端に初めて導入されました。
この機構が、今回の事故を契機にますます普及が進むのではないかと考えています。
【動画】衝撃…チェジュ航空機「衝突の瞬間」
BREAKING: Video shows crash of Jeju Air Flight 2216 in South Korea. 181 people on board pic.twitter.com/9rQUC0Yxt8
— BNO News (@BNONews) December 29, 2024
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