流行の「ビジネスジェットを“空飛ぶレーダーサイト”化」日本はなぜない? 過去には「検討もダメに…」のワケ
乗りものニュース / 2025年1月9日 16時12分
早期警戒機の世界でトレンドとなっていることのひとつが、ビジネスジェットにレーダーシステムを載せた早期警戒機の出現です。どういった理由で、また、航空自衛隊がこれに追随することはあるのでしょうか。
実は空自「E-2」は少し特別なモデル?
現代の世界各国の空軍で欠かせない作戦機に、「空飛ぶレーダーサイト」などともいわれる早期警戒機(AEW)やAEWの機能を拡大した早期警戒管制機(AEW&C)があります。しかし2024年現在、“ビジネスジェットにレーダーシステムを載せた早期警戒機”が出ており、軍用機の世界でトレンドにもなりつつあります。どういった理由で、また、日本の航空自衛隊がこれに追随することはあるのでしょうか。
早期警戒機や早期警戒管制機は一般に、航空自衛隊が用いる「E-2」シリーズや中国の「KJ-500」、ロシアの「A-50」のように、背中にレーダーアンテナを収めた大きな円盤を載せた姿を思い浮かべます。
一方で近年では、レーダーが円盤ではなく「まな板」のよう形状をした米空軍の新型早期警戒機「E-7」など、「早期警戒機のアンテナ=円盤」を覆すようなモデルも出現しています。
実は早期警戒機の多くは、もともと旅客機や輸送機だったモデルの設計にアレンジを加えたものです。逆に、航空自衛隊で採用されているE-2は、当初から早期警戒機専門機として設計されたというマイノリティな出自をもっています。
というのも早期警戒機や早期警戒管制機は、大型のレーダーシステムを積んで長い時間上空にとどまる任務が多いです。そうなると、旅客や貨物を乗せて長時間を飛ぶ旅客機や輸送機は、ベース機とするには相性がとてもよいのです。
実は近年、大型ビジネスジェットが早期警戒機などのベース機として業界的な注目を集めているのも、この航続距離が理由のひとつでもあります。大型ビジネスジェットの中には、長距離国際線の旅客機並みな航続距離を持つ機種もあります。
さらに近年では、レーダーシステムの性能が上がりコンパクト化したため、旅客機ベースの機体を用いずとも搭載できるようにもなりました。また、旅客機ベースのものより小さいビジネスジェット機を早期警戒機とすることで、搭乗員数の省力化も可能にしました。
こうしたことから、シンガポール空軍などのG550CAEW(Cは胴体へのアンテナ密着を示す「コンフォーマル」を意味する)やUAE(アラブ首長国連邦)空軍のグローバルアイといった機体が登場しました。
さて、ここまでは世界的なトレンドに基づいた一般論を述べてきましたが、航空自衛隊では将来の早期警戒機はどのようになるのでしょうか。
「ビジネスジェット早期警戒機」実際に検討されていた…?
2024年時点の航空自衛隊では、早期警戒機にE-2C・E-2Dを使っているというのは、先程述べた通りです。しかし、航空自衛隊でも近年、ビジネスジェット機を早期警戒機に活用できないか考えられたことがあるとのことです。
航空自衛隊で大型ビジネスジェット機の流用が浮かんだのは、E-2Cの補充と後継に向けた頃だったそうです。
筆者が聞いたところによると、関心が向けられたのは米国ガルフストリーム社のG550やG650だったとのこと。たしかに、こうしたビジネスジェットであれば、E-2シリーズより居住性に優れて搭乗員の疲労は少なそうです。
ここからは筆者の推測になりますが、G550やG650に目が向けられた理由は、航空自衛隊は既に同じガルフストリーム社のG-IVをU-4多用途支援機として採用していたうえ、G550はシンガポール空軍で実績があったためではないかと考えられます。
ただし、この実現には1つ、大きなハードルがありました。G550早期警戒管制機のレーダーシステムはイスラエル製だったのです。
今でこそ、日本はロシアによるウクライナ侵攻後の2022年8月にイスラエルと防衛協力に関する覚書を結んでいますが、E-2Cの後継問題が議論されていた当時は、紛争当事国であるイスラエルから、レーダーシステムという大掛かりな電子機器の導入ができるのか――ともなったそうで、最終的には、大方“本命機”と見られていたE-2Cの発展型、E-2Dの導入が決定されたと聞いています。
各国の空軍自体の規模にもよりますが、プロペラ機より高速で高々度を飛べ、旅客機ほど大型の機体を必要としなければ、ビジネスジェットの早期警戒機・早期警戒管制機化は将来、採用がますます増えると考えられます。そして、航空自衛隊が今のE-2Dの後継機を考える際も、今度こそ本格的にビジネスジェット機が候補に挙がるかもしれません。
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