護衛艦の居住区「個室化」「ネット使える」は急務!? 安全保障に直結するこれだけの理由 「任務から戻ったら浮気されてて…」
乗りものニュース / 2025年1月12日 9時42分
防衛省が公開した予算案で、護衛艦の寝室をカプセルベッド化すると明記しました。この装備、実は“世界初”かもしれません。なぜこのような改善に踏み切ったのでしょうか。
世界初? カーテン仕切りのみから一挙に進化!
防衛省は令和7(2025)年度予算案で、「若い世代のライフスタイルに合った生活・勤務環境の構築」を主要施策の一つと位置づけており、その一環として海上自衛隊の艦艇の居住性を向上させるための経費を盛り込んでいます。
これまでの海上自衛隊の乗組員用寝台は、2段ベッドが基本で、通路との仕切りはカーテンのみ、寝台には読書灯しかありませんでした。
しかし令和7年度予算案に建造費が計上されている「令和6年度護衛艦」からは、居住区の構造を大幅に改め、カプセルホテルと同じカプセルベッドを採用する計画となっています。
カプセルベッドは2段式ではあるものの、よりプライベート空間の確保に配慮されています。また防衛省が公開したイメージイラストを見ると、壁ができたことによって、側面には折り畳み式の簡易テーブルなども付くようです。
カプセルベッドはフランスのシュフラン級攻撃型原子力潜水艦への採用は確認されていますが、筆者(竹内修:軍事ジャーナリスト)が知る限りにおいて、水上戦闘艦への採用は、おそらく令和6年度護衛艦が世界初なのではないかと思います。
防衛省が海上自衛隊艦艇の居住環境の改善に本腰を入れてとり組んでいこうとする背景には、艦艇乗組員の慢性的な充足率不足の解消と、少子化による隊員の募集難によって、充足率不足にさらに拍車がかかることを防ぎたいという狙いがあります。
防衛省の公式Webサイトには、2024年3月31日付の数字として海上自衛隊の定員充足率は93.3%と記載されています。93.3%という充足率は陸上自衛隊(89.2%)や航空自衛隊(91.6%)よりは高いのですが、実は航空機乗員や地上で勤務する隊員も含めた数字で、艦艇の乗員数の充足率はこれよりもかなり低い数字です。
人口の少ない国では“熾烈な人材争い”
海上自衛隊はソマリア・アデン湾で海賊対処行動を行っており、護衛艦とP-3C哨戒機を派遣していますが、海賊対処行動に派遣される護衛艦の中には任務を遂行するための乗員が足りず、他の護衛艦から臨時に乗員を借りて、なんとかアデン湾に送り出しているという話も関係者からは聞いています。
現状でこの有様なのですから、今後ますます少なくなる若い世代に、「プライバシーの無い空間で過ごせてこそ船乗りだ」などという考え方は通用しません。現状のままでは将来の艦艇乗員の募集はますます困難になることが確定的です。
こうした艦艇での人手不足は日本に限った話ではありません。「居住環境改善によって、長く海軍で働いてもらいたい」「将来の人員募集を有利に進めたい」という考え方は、先進諸国の海軍では共通の課題となっています。
たとえばスウェーデン。日本と同様、若年労働者人口が少なく、少子化にも悩まされています。筆者は先日、スウェーデンの防衛企業であるサーブの幹部と話をしたのですが、次のように話していました。
「スウェーデンでも少ない若年労働者は、軍とイケアなどの民間企業との奪い合いです。このため少しでも艦艇勤務の苦痛を減らし、かつ魅力を感じてもらえるような艦艇の居住環境改善のために、サーブと(同社の子会社で艦艇の建造を手がける)コックムス、それにスウェーデン海軍は知恵を絞っているんですよ」
スウェーデンの近くには、バルト海を挟んでロシアの飛び地であるカリーニングラードを司令部としているバルチック艦隊という脅威があり、日本と同様に海上の防衛力はかなり重要な問題です。
結婚相手に逃げられ親に土下座された自衛官
令和7年度予算案には、艦艇内にWi-Fi通信機を設置してインターネット回線などが使用できるようにするとともに、洋上でも民間回線にアクセスできるよう、商用の低軌道衛星通信機材を自衛艦に搭載するための経費も計上されています。
現代の自衛艦は日本近海のみで活動するのではなく、前述したソマリア・アデン湾での海賊対処やインド太平洋派遣訓練などにも参加しており、航海期間が以前より長くなっています。
これはとある現職海上自衛官から聞いた話ですが、艦艇乗組員が海外での長い航海期間中、なかなか連絡することができず、それだけが理由ではないのでしょうが奥さんが浮気相手と駆け落ちしてしまったという事例があるそうです。そのときは航海を終えた隊員の方が航海を終えて帰宅して、自宅のドアを空けたら、奥さんのご両親が土下座をしていたといいます。
ここまで極端な例はそう多くないと思いたいのですが、これまでの艦艇勤務では、海上でネットが通じず、地上なら日常的にできるメールでのやり取りすら困難な状況でした。それが障害となり、離婚したり、彼や彼女と別れてしまったりという話はよく耳にします。
海上自衛隊では、2027年までに自衛の艦艇の9割で、洋上でも日本本国との通信をできるよう、ネットワーク環境の整備を進めています。
メールでのやり取りができることが、どの程度このような話の発生を防ぐことができるのかは未知数ですが、改善につながって欲しいと思いますし、護衛艦の居室のカプセルベッド化なども含めた艦艇の居住環境の改善は、海上自衛隊艦艇の戦力を維持していく上で、必要なことだと筆者は思います。
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