空を飛べるのに…?「穴あき200億円トンネル」「豪華な跨線橋」を線路に建設 欧州で広まるコウモリ保護作戦
乗りものニュース / 2025年1月26日 15時42分
英国で建設が進む高速鉄道「HS2」が、森の中に長さ1kmにおよぶトンネル状の建造物を造ろうとしています。費用は1億ポンド(約200億円)以上。目的はコウモリの保護です。このような巨額を投じる“ニューノーマル”が、欧州で広まりつつあります。
予算不足の一方で、コウモリ保護には巨額投資
コウモリの保護に巨額の資金を投じるのが、欧州の鉄道会社の“ニューノーマル”になりそうです。
英国で首都ロンドンとイングランド北部を結ぶべく建設が進む新しい高速鉄道「ハイスピード2(HS2)」が、コウモリの保護のために1億ポンド(約200億円)以上をかけてコウモリ専用の長大な建造物を建設しようとしていることが判明しました。
建設予定地は、ロンドンから北東に80kmほどの森の中で、希少種がいることから保護されている地区です。その森の中を走ることになるHS2と、絶滅危惧種とされるベヒシュタインホオヒゲコウモリが衝突しないよう、1kmにわたってメッシュ状のトンネルのような建造物で線路を覆うという壮大な計画です。
英国を含む欧州では、コウモリは法的に保護されています。絶滅危惧種のコウモリの保護は地球にとって最重要課題ではあるものの、200億円以上という額がメディアを騒がせました。というのも、2020年に着工されたHS2は、予算不足から、2023年に当初の計画よりも路線を大幅に短縮したにもかかわらず、さらに予算は膨らむばかりで社会問題になっているからです。
実は、欧州ではコウモリ保護のために鉄道会社があちこちで特別な設備投資をしている例がありました。
コウモリの冬眠を待って工事決行
ドイツ南西部のミュルハイムで、2020年、コウモリの保護のためにドイツ鉄道が160万ユーロ(2億6000万円強)をかけてコウモリ用の跨線橋を建設しました。
跨線橋の工事が始まる前のミュルハイムでは、S字に大きく蛇行した小川の上を複線の線路が横切って走っていました。コウモリの巣と、餌になる虫が多い小川の領域が線路によって遮られてしまったため、線路の下をくぐって毎晩のように線路の反対側まで通っていたのです。ところが、この路線を近代化と高速化を目的に複々線(線路4本)に拡張工事すると、「コウモリが線路の反対側に行けなくなる」という環境アセスメントが出てしまったのです。
コウモリは視覚を頼りに飛ぶのではなく、自ら発した超音波が木立などの障害物にあたって跳ね返ってくるのを聞き分けて飛行するため、幅が広い線路敷きや高速道路などのように上空に障害物が少ない空間が続くと飛べないといわれています(ネットワーク・レイル社による)。
また、コウモリは先祖代々にわたって引き継いできた飛行ルートが存在し、それを遮るような工事を行うと、混乱したコウモリが餌場にたどり着けなくなったり、列車に衝突して命を落としたりするかもしれないそうです(ドイツ鉄道による)。この地区のコウモリの生息数は数百匹といいます。毎年1匹ずつしか子孫を残さないため、列車事故で命を落とすコウモリが1匹でもあっては大損失だというわけです。
しかしそもそも、今すでにある複線の線路を新設した時に、先祖代々のコウモリの飛行ルートは一度すでに妨げられているはずです。コウモリが先祖の教えにどの程度忠実なのか疑問が残る話ですが、ミュルハイムが含まれるバーデン=ヴュルテンベルク州はもともと環境意識が高いドイツの中でも、環境政党の「緑の党」が州政府の与党という、特に環境保護に熱心な地域。コウモリが冬眠して飛行しなくなるのを待って、2019年9月から跨線橋の建設が行われました。
2億円以上の予算をかけ、2020年9月に華々しく解禁したコウモリのための跨線橋ですが、それから4年以上がたった現在、ドイツ鉄道は取材に対して「跨線橋の効果はまだ調査中で結果が出ていません」と回答しています。
思ったようにコウモリが通ってくれなかったのか、跨線橋の完成後、橋に向かってコウモリを誘導するべく植林をしたり、木が育つまでの措置として金網を立てたりする追加工事が行われています。日本の魚道に近い構造というと分かりやすいかもしれません。
現在、複々線化の工事はすでに始まっており、2025年12月には開通予定です。
コウモリ保護に熱心な欧州の公共交通
こうした動きは、実は高速道路の方が先行しているようで、21世紀初頭から英仏独の各地でコウモリが高速道路を渡れるように、コウモリ用の橋が建設されています。
直近では、2024年にドイツ南東部のパッサウで高速道路の上に約400万ユーロ(約6億6千万円)をかけてコウモリ用の橋が造れています。
高速道路で一般的になってきたため、鉄道業界でも無視できなくなってきたということかもしれません。
跨線橋以外にも、コウモリ保護の動きは欧州の鉄道業界で増加傾向にあるようです。
ドイツ鉄道は線路の下をくぐれるようにコウモリ用の「アンダーパス(トンネル)」をあちこちに設けていますし、また、英国の線路の大半を管理しているネットワーク・レイル社や、ロンドン交通局、ドイツ鉄道、スイス鉄道などはコウモリに巣箱を用意したり、使われなくなった古いトンネルや小さな建物をコウモリの巣窟として転用したりする保護活動も行っています。
中でも、ロンドン交通局は市北部のハイゲイトで使われなくなった駅舎と古いトンネル4本をコウモリの巣として提供・管理しています。42匹のコウモリが確認されているということですが、地価が高いロンドンの中でもハイゲイトは特に高級住宅街の地区。コウモリのための超高級マンションとなっています。
いずれの場合も、鉄道会社のウェブサイトには大きく宣伝が載っています。ドイツ鉄道は、「コウモリのためのホテル」という専用のページを開設して、こうした巣の提供を通じた保護活動のコンセプトを説明していますし、各企業のイメージ向上にコウモリが一役買っているようです。
今後、どこまでコウモリ保護の動きが鉄道業界の中で一般化していくのか、興味深いところです。
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