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やるぞ、水深1万m超でのサンプル収集! でも懸念が… 解決の糸口は最先端の日の丸エンジニアリングだ

乗りものニュース / 2025年1月23日 9時42分

JAMSTECが保有する有人潜水調査船(HOV)「しんかい6500」(深水千翔撮影)。

日本の技術の粋を集めて建造された有人潜水調査船「しんかい6500」。ただ竣工から35年近くが経過しており、支援母船「よこすか」とともに老朽化が進行し、後継を新造するのか否かの岐路に立っています。JAMSTEC担当者にハナシを聞きました。

水深6000m以上潜れる無人探査機を早急に!

 国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の有人潜水調査船(HOV)「しんかい6500」と、その母船「よこすか」の老朽化が深刻な状態です。

 代わりとなる新造船の建造も難しいなか、このままでは日本が誇る大深度HOVシステムが近い将来、運用できなくなりそうです。

 このたび、筆者(深水千翔:海事ライター)は詳細な状況についてJAMSTECにハナシを聞くことができました。今回は、インタビューの3回目になります。

 2024年11月現在、JAMSTECでは巡航型のAUV(自律型無人探査機)「うらしま」を水深8000mまで潜航可能にする改造を実施中で、将来的にはROV(遠隔操作型無人探査機)やその他のAUVを複数機組み合わせたシステムを構築し、深海の探査能力を強化していくことも検討されています。

 技術開発部の松永 祐研究企画監は「『しんかい6500』のような大深度HOVを簡単に造れないという事情を踏まえ、当面は無人探査機を高度化していく方向性になってきている」と話します。文部科学省の諮問機関である科学技術・学術審議会の海洋開発分科会も、2024年8月に発表した提言の中で、「しんかい6500」を活用しつつ、水深6000m以深の探査が可能なフルデプス級の大深度無人探査機を早期に開発すると明記しています。

 JAMSTECは、自律的に海中を観測するAUVと、母船とケーブルでつながっており機器の設置などの作業ができるROVの両方を保有しています。AUVは3000m級の「じんべい」と、前出の3500m級から8000m級に改造中の「うらしま」の2機。

 一方、ROVは3000m級の「KM-ROV」と4500m級の「ハイパードルフィン」「かいこうMk-IV」の3機です。このうち「KM-ROV」と「ハイパードルフィン」は海外製を購入し、所要の改造を施して運用しています。

 松永研究企画監は「近年、海外を中心とした石油業界では3000m級や4000m級のROVが製品化され、当たり前に使われ始めているため、この深度のROVに関しては、もはや私どもで開発する分野ではない」と述べていました。

「ただ、JAMSTECの研究は、海底に観測機器を設置したり試料を採取したりと、マニピュレータを持つROVの需要が高い。そのため、最初から船の装備品の1つという位置づけでROVもセットで買ってしまおうということで、2016年に竣工した海底広域研究船『かいめい』には『KM-ROV』と専用の着揚収システムを導入した。このように今は市販品でも使えるフェーズになってきている」(松永研究企画監)

7000m潜れてもケーブルが対応不可

 しかし、今使っているROVの最大潜航深度は水深4500m止まりで、それより深いエリアでの探査は行えないのが現状です。

 日本は1990年代に超大深度ROVの開発に取り組んでいました。かつては「かいこう」も1万1000mまで潜航可能なROVシステムでしたが、2003年に室戸岬沖でビークル(子機)が行方不明となってしまい、フルデプス級ROVとしての機能を喪失しました。

 ちなみに「かいこう Mk-IV」の本体は水深1万1000mまで潜航できるものの、母船との間をつなぐ大深度用ROVのケーブルはコスト的にも技術的にも新規開発のハードルが高いことから現在は開発されておらず、現状では水深4500mまでしか対応できません。

 また、同じく1万1000mクラスの潜航性能を持つ「UROV11K」のビークルも、2017年にマリアナ海溝のチャレンジャー海淵で行った潜航試験で失われています。

 こうした経緯もあり、水深4500m以深のサンプルリターンなどはHOVの「しんかい6500」が一手に担うようになったのですが、こちらも2040年代には寿命を迎えると推定されています。

 それでは今後、我が国の深海探査機はどのような道を歩もうとしているのでしょうか。松永研究企画監は「ROVに関しては、市販品は深くても6000m級 から 7000m級にとどまっており、その下が空白域となっている。私どもは、水深6500mより深いところで観測機能を充実させるための開発を行っている」と説明します。

 深海の探査を行う場合、「1,電源が取れないこと」「2,陸上のような通信ができないこと」「3,可視光が届かないこと」この3つを考慮する必要があります。一般的なROVは太径ケーブルを通じて電力供給や通信を行いますが、探査エリアが深ければ深いほど、ケーブルの重量も増し、母船には専用のウインチといった大規模な設備が必要となるため、運用コスト面でもハードルは高くなります。

 JAMSTECでは、こうした課題をクリアする新たな大深度無人探査機のコンセプトとして、海底設置型の観測機「ランダー」と小型のAUV「ビークル」で構成された「超深海作業型ビークルシステム」の開発を進めており、松永研究企画監は「太径ケーブルに依存しない形で6000m以深を目指す試みはアメリカや中国でも行われている」と述べていました。

大深度無人潜水艇にはAIが必須! その理由とは

「超深海作業型ビークルシステム」では、まず洋上で母船から降ろされたランダーが海面から自由落下し、そのまま海底に着底します。続いてランダー内に格納されたビークルがそこから離脱し、カメラ等による海底マッピングや、試料の探索・採取といった調査を自律的に実施します。

 なお、ランダーには大容量電源やビークルの測位システム、定点観測機器など重量物が装備されており、着底地点の採泥や周囲の撮影、ビークルの支援などを行います。調査が終わるとビークルはランダーに収容され、バラストを切り離して浮上、母船へと回収されます。

「超深海での無人観測は、高速音響通信とAI(人工知能)が開発の主軸だと考えている。最新の技術としてAIが進歩し実用化レベルになったことで、ようやくシステムの絵を描けるようになってきた」(松永研究企画監)

 母船とランダーとの間は高速音響通信でつながっており、調査に必要な周囲の状況を船上でも確認できるようにします。JAMSTECはすでに「超深海作業型ビークルシステム」の「ランダー」に当たる海底設置型観測システム「FF11K」を使用した高速音響通信の試験を実施しており、水深9230mの海底で撮影した映像を母船に向けて2.5秒間隔で送信することに成功しました。

 とはいえ、それでも通信には遅延が発生することから、船上から遠隔で全て操作を行わなくても深海で作業ができるシステムの構築が必要と説明していました。

 松永研究企画監によると、音は水中では1秒間に1500mくらいしか進まないため、水深1万mだと往復13秒以上もかかってしまうのだとか。そうなると、例えば船上で情報を把握して指令を出しても、AUVにその指令が届いたときにはすでに次のポイントへ移動しており、その結果、障害物があればぶつかるし、面白いものがあっても通り過ぎてしまう懸念が大きいそうです。

 そのため、やはりある程度、AUVが自分で考えて行動できるよう、AIを用いて、記憶している画像があったら止まる、障害物であると判断したら避けて新しい経路を生成してさらに調査を進めるなど、より高度な自律性を持たせないといけないと述べていました。

 ほかにも、「超深海作業型ビークルシステム」は高速音響通信に対応していれば、専用の母船でなくても運用できるというメリットがあります。そのため今後は複数・多機種の同時運用を前提とした汎用性の高い着水揚収システムを備える、ROVとAUVの運用に特化した機能を持つ船舶も必要となってくるでしょう。

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