「こんな欲張り電車は他にない」 大手私鉄3社ミックス“魔改造譲渡車”ついに引退 残る名車の行方は
乗りものニュース / 2025年1月21日 7時12分
島根の一畑電車で、京王電鉄の初代5000系を譲り受けた5010編成が引退。この電車、ただの京王5000系ではなく、関係者が「こんな欲張りな電車は一畑だけ」と豪語する、とびきり異色の“魔改造譲渡車”です。
地方で実現した“幻の京王5000系”
名車の呼び声が高い旧京王帝都電鉄(現・京王電鉄)初代5000系を大幅に改造し、一畑電車(島根県)で活躍してきた5010号編成が2025年1月13日で運行を終えました。この編成は、京王を含めた計3つの首都圏鉄道事業者でかつて活躍していた車両から流用した1粒で3度オイシイ「異色トリオ」です。鉄道ファンらが殺到したラストランを取材し、一畑電車幹部らに導入のいきさつを聞きました。
京王初代5000系は1963(昭和38)年8月に登場。それまでの緑一色の電車とは全く異なるアイボリー色に赤色の帯が入った斬新なデザインで、京王の歴史に残る名車です。
1996年12月1日に京王では旅客運用のラストランを迎えましたが、地方私鉄に譲渡された車両は改造された活躍を続けました。その中でも異彩を放つ“魔改造”を受けて1998年に導入されたのが、1967年製の5010・5110号の2両を連結した編成です。
京王初代5000系は全長18mで客室に3つの片開き扉を備え、座席はロングシートを採用していました。ところが、一畑電車(当時は一畑電気鉄道)の5010号編成は京王子会社の京王重機整備で改造された際に片開き扉を2か所に減らし、座席も転換クロスシートに交換しました。
これは出雲大社への参拝客ら向けに、出雲大社前~松江温泉(現・松江しんじ湖温泉)を結ぶ急行「出雲大社号」として走らせるためでした。この改造により、奇しくも京王初代5000系の“幻”の仕様が実現しました。
京王が初代5000系を導入した目的の1つは、1968年10月からの新宿~東八王子(後に移転して京王八王子)における特急運転の開始です。最高速度90km/hで走って40分で結びました。
このため、開発段階では特急専用車両にして扉を2か所だけにし、クロスシートを設ける案も浮上していました。しかし、通勤通学客でごった返す朝夕のラッシュ時の運用に支障が出るため断念していました。
移籍時の改造で先頭部の貫通扉が撤去されて塗装も一新するなど外観は大きく変わり、京王初代5000系の“幻のインテリア”も実現したのです。
なぜか片側だけにロマンスカーの座席
設置されたクロスシートは回転式の2人掛けと転換式の1人掛けの配置で、うち2人掛けは小田急電鉄の特急用車両「ロマンスカーNSE」3100形の座席を流用しています。NSEは小田急で初めて前面展望を楽しめるように運転席を2階に設けた画期的な車両で、1963年から2000年まで活躍しました。
最終運転日に訪れた筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)は、なぜロマンスカーNSEの座席が採用されたのかが気になっていました。そこで、一畑電車の野津昌巳営業部長にたずねると「改造時にクロスシートを装着するという話が出ていた中で、廃車になったロマンスカーNSEの座席が出物であるという流れだと聞いています」と教えてくれました。
片側だけにロマンスカーNSEの座席が設置された背景については、こう説明してくれました。
「検討段階では全席をNSEのシートにするという案も出たのですが、この列車は通常の列車でも利用され、弊社は後ろ乗り前降りのワンマン運転のため真ん中の通路も車いすが通れるサイズを確保しなければなりませんでした。両席にNSEのシートを置くと車いすでは通れないため、片側だけになりました」
反対側の1人掛けの座席は新造し、旧ロマンスカーNSEの座席も1人掛けと同じ生地に張り替えたそうです。
東京メトロもミックスされている!?
この編成には、特に首都圏の鉄道愛好家をひきつけるもう1つの“縁の下の力持ち”が存在します。それは「台車」。線路幅(軌間)が1372mmの京王電鉄京王線から移籍する際、一畑の1067mmに対応するために換装されているのです。
ラストランに案内役として乗務した営業課の黒川好美さんが、車内放送でこう説明しました。
「京王電鉄の車体、ロマンスカーの座席、東京メトロの台車と、1つの電車で何と3社の車両が楽しめる欲張りな電車です」
5010号編成には、旧帝都高速度交通営団(現・東京メトロ)日比谷線で1961~94年に走っていた初代車両3000系の台車が使われています。
残る旧京王5000系の行方は?
東京都の京王電鉄沿線にかつて住み、京王初代5000系と小田急ロマンスカーNSE、旧営団3000系のいずれも好きな車両だった筆者にとって、一畑電車5010号編成は郷愁をかき立てる実に魅惑的な電車です。両端に「さよなら5010」と「惜別」などと記したヘッドマークを掲げた電車は出雲大社前14時00分発の雲州平田行きがラストランとなり、筆者は旧ロマンスカーNSEの座席に腰かけて余韻に浸りました。
多くが地方私鉄に移籍した京王初代5000系でも「こんなに欲張りな改造をしたのは一畑電車だけ」(黒川さん)と自負する、1粒で3度オイシイ5010号編成。引退は「惜しい」という哀愁を抱いた大勢のファンを乗せて14時59分に終点の雲州平田に滑り込みました。
老朽化のため引退し、解体される5010号編成を含めた一畑電車の旧京王初代5000系(2両編成)は5編成あります。一方、2026年度にかけて導入される新型車両8000系は4両にとどまるため、取材中に会った地元関係者は、「予備車として旧京王5000系の一部が残る可能性もあり得るのではないか」との見方を示していました。
「老兵」の旧京王初代5000系が時代の流れとともに消えていくのは仕方がないのかもしれません。それでも遠方からも鉄道愛好家らを呼び込んでいる貴重な財産だけに、出雲路での少しでも長い快走を祈りたいと思います。
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