「グリーンランドを売ってくれ!」トランプ大統領のトンデモ発言 実は日本のビッグチャンスかも!?
乗りものニュース / 2025年1月26日 9時42分
トランプ大統領が就任前から、グリーンランドやカナダを取得したいと発言しています。この発言を物流の観点で考えると、その意味が見えてきます。そして、その恩恵を最も受けるのは、日本かもしれません。
トランプ発言の裏にある「2つの国際コンテナ航路」
米国トランプ大統領が就任前からグリーンランド(デンマーク領)、パナマ運河、はてはカナダまで取得したいと発言をしています。これは一見、トンデモ発言に見えますが、世界物流の幹線をなす国際コンテナ航路から見ると、なかなか興味深い状況です。
国際コンテナ航路は、世界最大の上海港を始めとした中国・東アジアを中心に、アメリカと欧州へつながっていて、世界第1位が「北米航路」(上海―釜山―ロサンゼルス)です。日本海事センターの推計によると北米航路では1日あたり6万TEU(20フィートコンテナ換算で6万個分)が東(アメリカ方面)に運ばれています。
6万TEUとは、コンテナを1列につなげれば366kmにもなる莫大な量で、これが毎日運ばれているのです。量の多さからもアメリカの生命線であることがよくわかります。そして北米航路はほぼ一直線なので良いのですが、問題は世界第2位の欧州航路です。
欧州航路は上海から西に向かいシンガポール、紅海を通り、ロッテルダム(オランダ)、アントワープ(ベルギー)、ハンブルク(ドイツ)の欧州3大港を結んでいます。大きく南に迂回するので遠回りですし、最近はソマリアの海賊や紅海のテロなどを避けて船舶はアフリカ大陸の南端・喜望峰を迂回することも多く、さらに遠回りになっています。
ここで注目されているのが、北極海です。
「アジア回り」トラブルで注目される「北極海」
アジアから北極海を通ると、欧州航路がぐっと短縮されるのです。かつては氷に覆われていて商船の通行は困難でしたが、温暖化の影響で商船の通行の可能性が上がってきています。
北極海には二つの航路があります。
「北西航路」は、欧州から西に向かい、大西洋から北アメリカ大陸の北側にあるカナダ北極諸島の間を抜けて太平洋とを結ぶ航路。「北極海航路」は、欧州から北に向かい、ロシアの北岸に沿って東に向かい大平洋と結ぶ航路です。
ざっと航路を引いてみると、上海起点でスエズ運河経由の欧州航路は1万9500kmなのに対し、北極海航路(ロシア北岸)は1万4400km(マイナス5100km・26%短縮)、北西航路(カナダ北岸)は1万5400km(マイナス4100km・21%短縮)となり、中国―欧州間の貿易はさらに盛んになりそうです。
もし、カナダやグリーンランドがアメリカ領となれば、大部分がロシア沿岸を通る北極海航路に対し、北西航路の大部分がアメリカ沿岸を通るということになります。
中国も重視してきた北極海航路
ここで、北極海の2つの航路が拓かれてきた近年の経緯をおさらいします。
・1996年、カナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、ロシア、スウェーデン、アメリカによって「北極評議会」が設立
・2007年、流氷が減少し砕氷船なしで北西航路が全て通れる状態が起きる
・2016年、中国企業によるグリーンランドの旧米海軍基地施設買収を、米政府が阻止
・2017年、中国が「氷上シルクロード」構想、ロシアと北極海航路開発協力推進に合意
・2018年、「中国の北極政策」が公表。グリーンランドの空港拡張工事に中国系企業が参入しようとし、デンマーク本国や米国が警戒
・2019年、米国トランプ大統領がグリーンランド買収を提案
・2021年、中国が第14次5か年計画に「北極の実務協力に関与し、『氷上のシルクロード』を建設する」と明記、ロシア・ヤマル地域でのLNGプロジェクトに参画
・2022年、「ロシア連邦海洋ドクトリン」が改訂され、北極海を重視
・2024年、米国トランプ次期大統領がグリーンランド買収やカナダ吸収を発言
カナダ政府は、北西航路が通る北極諸島の海峡を領海であると主張し、国際海峡とみなしている各国と論争になっています。トランプ大統領の発言は、北西航路への影響を与える意図があると思われます。パナマ運河も合わせて発言しているのも海上物流を睨んだ戦略ではないかと思えます。
北極海航路が幹線になるには、まだまだハードルが
気候変動により北極海の氷が溶けて北極海を通りやすくなってきたとはいえ、現在の北極海航路はロシア北極海航路局(NSRA)への申請が必要で、通航船のアイスクラス(耐氷・砕氷性能)や氷の状況などから、砕氷船によるエスコートなど一定の航行許可条件が課されます。また、通航船の船長の北極海航路の航行経験によっては、アイスパイロットと呼ばれる水先人の乗船義務も生じます。
運航可能な時期も限られ、気象海象による減速や待機もあるほか、耐氷性能をもつ船の建造費も上がり大きさも制限され保険も高くなるため、コストも時間もかかっています。さらに、信頼できる水深情報、捜索救難システム、海洋汚染などの課題もあります。なかなか困難の大きな航路になりそうですが、近道の魅力が勝るようです。
実は一番得するのは日本!?
そして驚くことに、この北極海航路・北西航路、そして既存の北米航路やパナマ運河経由の航路も通過する極めて重要な海峡が、日本にあります。今まで上海から西に向かっていた欧州航路が北極海経由になると、北米航路とともに東へ向かうことになり、その先には日本海、そして津軽海峡があるのです。
その先の北海道の東側が、北極海方面と北米方面の分岐点になります。
日本はトランプ大統領のように領地を買ったりしなくても、この超重要な津軽海峡を持っているというのは本当に凄い状況です。津軽海峡は国際海峡なので、どの国の船も自由に通行できます。津軽半島の竜飛岬は北の最果てという印象で寂しい状況ですが、その先には世界最大の物流幹線があり、もしかしたらその規模が2倍近くに伸びる可能性もあります。
「南のシンガポール、北の北海道」に?
さて、世界第1位の港は上海港ですが、世界第2位はシンガポール港(3728万9000TEU)です。シンガポール港はマラッカ海峡に近く、欧州航路を行き交う船舶の重要な補給・積替え地となっています。しかしシンガポール発着の貨物は少なく、主には各国から来た船がコンテナを積み替えています。
それを見た隣のマレーシアは、タンジュンペラパス港(1051万3000TEU)やポートケラン港(1322万TEU)を整備し、そちらもコンテナを積み替える船で賑わっています。3港の合計は6102万2000TEUで、東京港(443万TEU)のおよそ14倍です。
つまり、大幹線航路の海峡には莫大なビジネスチャンスがあるのです。世界最大の貨物通過量になるかもしれない津軽海峡ですが、今はほぼ未開発です。駅前の賑わう一等地で店のシャッターを閉じているような状態と言っていいでしょう。
むしろ中国が、前出した「氷上のシルクロード」構想で、南のシンガポールと並ぶ北の拠点として北海道の釧路港を位置付けているほどです。
現状の北米航路だけでも相当なチャンスはありますし、ここにもし北極海航路が開通したら一体どうなることやら。トンデモ発言と思われていたトランプ大統領の戦略が、もしかしたら日本にとってビッグチャンスになるかもしれません。
※一部修正しました(1/26)
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