埼玉の「恐ろしい道路陥没」はどこでも起こり得る? 「下水道管老朽化」という根深い問題 幹線道路ほどヤバいワケ
乗りものニュース / 2025年1月30日 9時42分
埼玉県八潮市の道路陥没事故は、交差点にあるマンホールの下で起きました。崩落するはずのない路面が突如、なくなってしまう。老朽化した下水道管の腐食などがきっかけで起きる災難であり、そこには全国共通の課題があります。
現場の交差点は“下水道の大交差点”でもある
交差点を通過するとき、マンホールの存在に気づくことはないでしょうか。埼玉県八潮市の県道で道路陥没事故は、まさにこうしたマンホールの下で発生しました。
こうした突然の陥没は、老朽化した下水道管の腐食などがきっかけで起きる可能性があります。幹線道路ほど設備更新が進まない“落とし穴”は全国共通です。
道路の下には設備、おもにライフラインが埋まっています。その中でも、全国で必ず埋まっていると言ってもいいのが下水道管です。
各家庭などから排出された汚水は、市区町村道の下にある下水道管から、都道府県道などの幹線道路下の流域下水道管に合流し、処理場などへ送られます。合流は交差点を経由します。例えば、十字路なら、その中心にある汚水マスに下水道管が直角につながります。下水道網は一般道と同じように地下に張り巡らされているのです。
2025年1月28日、埼玉県道「松戸草加線」中央一丁目交差点(八潮市2丁目487先)で発生した道路陥没も、道路の下に張り巡らされた下水道網の上で起きました。この県道は片側4車線、24時間で上下線9600台の交通量がある地域の幹線道路です。そこに八潮市道が斜めに合流する変則6差路の交差点となっています。地下の下水道はここに集まり、処理場へと流されます。
道路陥没は偶然、現場を通行した70代の男性が運転するトラックを飲み込みました。事故当時の穴は、直径9~10m、深さ5mと車両を簡単に飲み込む大きなものでした。
現場となった埼玉県管理の幹線下水道は、交差点の上流側で直径3m、合流して水量が増える下流側では直径4.74mの巨大なコンクリート管でした。幹線道路には、こうした巨大な下水道管が埋まっています。
下水道管は円筒ですが、交差点には立方体の接続マスが設置され、道路上にはマンホールがあります。下水道管を流れる汚水を直角に曲げても、マンホールの“穴”で減圧されるので、汚水の勢いで下水道管が壊れることはありません。記録的な豪雨でマンホールの鉄蓋が吹っ飛ぶのは、流水能力を超えて下水管に流れ込むため、流水を処理できずマンホールから吹き上がり、重い蓋を持ち上げているのです。
現場には自動車ユーザーの想像を超える下水道関連施設が埋まっているのです。
気づかぬうちに大穴があく「管の上側」
巨大なコンクリート下水管は、一般には安全だと考えられています。耐久年数も50年あり、埼玉県はこれを60年まで延ばして使い続けることを決定しています。埼玉県が管理する現場の流域下水道管は1978年建設、1983年に供用を開始しました。すでに40年が経過していますが、年数的に問題はありません。
被害者の救出が優先されている現状で、埼玉県の下水道管理者と道路管理者は、陥没の原因を特定することができません。しかし、下水道管理者によると、下水道管が破損する一般的なメカニズムは次のようなものです。
「汚水が滞留し(管が)腐食することで(細菌が)硫化水素を発生させます。軽いガスはコンクリート管のおもに上部、壁面に結露して硫酸に変化します。すると、コンクリート壁を腐食させ鉄筋をむき出しにします。保護層を失った鉄筋も腐食してひびを作り、損傷は大きくなります」
硫酸の腐食は水に浸かっている部分にはできません。穴は下水道管の上側に発生するので、下水管の上にある土砂、つまり道路の下にある土砂が砂時計のように下水道管に落ちて、道路と下水管の間に空洞を作ります。幹線道路の舗装は厚みがあるので、ぎりぎりまで道路を支えて、ついに崩落します。
この穴が下にあれば下水の流量が減るので発見も早いですが、上にできる穴は流量を維持したまま。そのうえコンクリート管に流れ込んだ土砂も下流に流してしまうので、損傷の発見はいっそう困難になる、というわけです。それだけではありません。
「民家と接続するような細い下水管であれば、掘り返して新しい管に取り替えることができますが、幹線道路の下にある巨大な下水管は、地下鉄を建設するのと同じようなシールドマシンを使うこともあり、通行規制を伴います。しかし、下水道管の直径が大きいので、場合によっては人が中に入って補修することができ、適切な更新があれば取り替えなくても長く使えると言われています」
ただ、埼玉県は2020年に現場となった交差点の上流500mで、鉄筋がむきだしになった不健全なコンクリート管を発見し、今も補修計画を練っている途上でした。また、2021年には下流で、ただちに修繕が必要なほどではありませんが、前者ほどではありませんが不健全な状態を把握していました。
お風呂もダメ 市民生活に多大な影響「復帰は中長期化も視野」
救命中の1月29日午前1時頃には、現場近くで新たな陥没が発生しました。
救命が最優先に行われているため、現場の陥没の原因は未だ不明です。「不健全な状態は確認できなかった」と、埼玉県は話しています。ただ、埼玉県が管理する下水道管だけでも440km。5年に一度の点検は2015年に義務化されましたが、マンパワー不足と老朽化が一斉に押し寄せているため下水道の現実は、老朽化が心配される道路とまったく変わりません。
何も知らずに落ちてしまったトラックはいうまでもなく、道路陥没の影響は広範囲に及んでいます。損傷した下水道管破損の影響を受ける八潮市など9市3町の約120万人に対して下水道の使用を控えるように行政の担当者からメールなどで呼びかけが行われています。入浴やトイレ掃除の回数削減、大規模入浴施設の営業自粛、送迎バスのルート変更などが行われていて、復旧が長引くことで学校での入試実施も心配されています。
下水道だけでなく、NTTインターネット回線の光ファイバー断線、NTT固定電話の通信回線の断線などが起きています。新たな陥没はガス管の損傷を伴う可能性があるため、周辺住民の避難も呼びかけられています。
埼玉県は下水の中川への緊急放流を計画しています。 1月29日午前に大野元裕知事も出席した対策会議では、知事自らが「可能な限り下水の使用を控えてほしい」と、呼びかけてました。
崩落の土砂は下水で流された状態ですが、現場はアスファルトが穴の内側に張り出した状態で、安全対策に必要な全容把握はされていません。ドローンや地中レーダーを投入し、救命と復旧対策を急ぎます。
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