トランプ大統領「管制官の多様性が事故原因だ!」←批判が殺到!? 旅客機とヘリの衝突墜落事故 その真相は?
乗りものニュース / 2025年2月4日 8時12分
アメリカの首都ワシントン近郊のレーガン・ナショナル空港付近でアメリカン航空系の旅客機と米軍ヘリコプターが空中で衝突して墜落しました。両機の計67人全員が絶望的な大惨事を巡り、ドナルド・トランプ大統領が論拠を示さずに事故原因を決めつけたことに批判の声が続出しています。
アメリカ屈指の過密空港
アメリカの首都ワシントン近郊に位置するレーガン・ナショナル空港付近で2025年1月31日、アメリカン航空系の旅客機CRJ700と、米陸軍のヘリコプターUH-60「ブラックホーク」が空中衝突して墜落しました。同空港は、羽田空港と同じように混雑空港なのに加え、立地の特性などから「操縦士泣かせ」(航空関係者)なのだとか。周辺地域の特殊要因などを改めて見てみましょう。
衝突したのはアメリカン航空の子会社、PSAが「アメリカン・イーグル」ブランドで運航する中西部カンザス州ウィチタ発ワシントン行きの5342便で、機内には乗客乗員64人が乗っていました。一方、米軍のUH-60「ブラックホーク」には3人が乗っており、両機とも衝突後にポトマック川に墜落しています。
レーガン空港はアメリカ屈指の過密空港とされ、アメリカに通算10年間住んだ筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)も2020~24年のワシントン支局在任中などに幾度となく利用しましたが、そのたびに離着陸の頻度が高いことに目を丸くしていました。
ワシントン圏の主要空港としては、国内線が中心のレーガン空港(バージニア州)、ANA(全日本空輸)の羽田線も含めて国際線が豊富なワシントン・ダレス国際空港(同州)、LCC(格安航空会社)大手サウスウエスト航空が主力のボルティモア・ワシントン国際空港(略称BWI、メリーランド州)、この3つがあります。うち、ワシントン中心部に最も近いのがレーガン空港で、地下鉄「ワシントンメトロ」に乗って30分程度で着きます。
空港当局によると、2023年に利用者が最も多かったのはBWIの約2620万人で、次いでレーガン空港が約2550万人、ダレス空港が約2510万人でした。
ただし、BWIとダレス空港は大型・中型旅客機も離着陸するのに対し、3本ある滑走路のうち最長のものでも2185mしかないレーガン空港はリージョナル機や小型機が中心です。それでも他の2空港とほぼ同規模の利用者を抱えているということは、そのぶん飛行機の発着が多いということであり、便数がいかに多いか物語っているといえるでしょう。
最近でも複数回ニアミスがあった!?
アメリカ国家運輸安全委員会(NTSB)は、両機の飛行記録や操縦室の音声を収めた「ブラックボックス」を回収して事故原因などを調査しており、暫定報告書を30日以内に公表します。NTSBはアメリカン機から回収したブラックボックスのデータに基づいて衝突時の高度が約99mプラスマイナス約8mだったと明らかにしており、これはUH-60「ブラックホーク」が現場で飛ぶことができる最高高度の約61mより上空を飛行していたことを示しています。さらに、事故の背景として指摘されているのが管制官の人員不足と、レーガン空港付近を操縦することの難しさです。
管制塔の音声を配信しているLiveATC.netによると、レーガン空港の管制塔にいる管制官は衝突の約20秒前にUH-60「ブラックホーク」の操縦士に対して「(アメリカン機の)CRJは視界に入っていますか」と確認したうえで、「(アメリカン機の)後ろを通るように」と針路変更を指示しました。
しかし、UH-60「ブラックホーク」はそのまま進んで衝突してしまいました。このため事故の一因として、管制官が多忙を極めていたため両機の動きを十分にフォローできなかったのではないかという見方が出ています。
AP通信は、連邦航空局(FAA)が事故当時の管制官の人員配置について、通常は2人に割り当てられている業務を1人が担っており「時間帯や交通量を考えると正常ではなかった」と言及したと報じました。
民間機は無線の周波数でVHF帯を用いる一方、軍用機はUHF帯を主に使っています。このため、レーガン空港では通常、民間機と軍用機は原則として異なる管制官が対応していますが、事故当時は1人で軍民両方の航空機の管制業務を担っていたというのです。
加えて、事故の背景にはレーガン空港への離着陸の難しさも挙げられています。CNNテレビによると、事故前の3年間に少なくとも2人の操縦士が、レーガン空港への着陸時にヘリコプターとのニアミスがあったと報告していました。
墜落衝突事故を「政争の具」にしたトランプ大統領
民間機パイロットのリック・レッドファーン氏はロイター通信に対し、事故機のアメリカン機が向かっていた33番滑走路(長さ1586m)は「ポトマック川沿いの東側から入る曲がり角がとてもきつい」と解説しています。
さらに、周辺地域の特殊要因もあって「狭い飛行経路を正確に飛ばなければならない」とのこと。それは2001年9月の同時多発テロを受け、一般の民間機が政府庁舎などの空域を飛ぶことを禁じた飛行制限によるものです。
当時、テロリストに乗っ取られた民間機の1機は国防総省(ペンタゴン、バージニア州)に激突し、別の1機は未遂に終わったもののホワイトハウス(ワシントン)への突入を企てていました。このため再発防止策として、政府庁舎の空域を一般の民間機が飛ぶのを禁止しました。
今回の事故についてマリア・カントウェル上院議員(民主党)は「民間機が着陸する経路のすぐ近くで、なぜ軍の訓練飛行を行うのか」と問題視し、レーガン空港近くで軍の訓練を実施するのを取りやめるべきだと提言しています。
一方、トランプ大統領(共和党)は、ジョー・バイデン前大統領(民主党)が雇用の多様化を推進して管制官の採用基準を下げたことが事故の背景にあると決めつけて非難しました。しかし、報道陣から多様化が事故につながった根拠を問われても「そうかもしれない」としか答えられず、具体的な根拠を示せませんでした。交流サイト(SNS)には「トランプ氏は調査を全くしていない航空機事故まで民主党のせいにするのか」「自己中心的なイカれた冷血漢の暴言が、遺族の傷口に塩を塗っている」といった批判の書き込みが相次ぎました。
67人の尊い命が奪われ、遺族らが深く悲しんでいる大惨事まで“政争の具”に利用しようとするトランプ氏の姿勢は言語道断です。このような悲劇を2度と繰り返さないために党派の違いや所属組織の垣根を乗り越えて関係者や有識者らの英知を結集し、有効な再発防止策を導入することが為政者の役割ではないでしょうか。
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