魚雷40連!? 旧海軍の決戦兵器「じゅうらいそうかん」とは 歴史に翻弄された異形の軍艦
乗りものニュース / 2025年2月8日 19時12分
旧日本海軍が造った唯一無二の軍艦「重雷装艦」。魚雷を片側20本一斉発射可という異色の軍艦は一体どのようにして生まれ、実戦ではどうだったのでしょうか。その一部始終を振り返ります。
魚雷発射管40門備える唯一無二の軍艦
太平洋戦争が始まった頃、旧日本海軍は4連装魚雷発射装置を10基、魚雷発射管の数にすると実に40門を備える、いわゆる「重雷装艦」と呼ばれる船を生み出しました。「魚雷のためのプラットホーム」ともいうべき特殊な軍艦は、なぜ誕生したのでしょうか。
重雷装艦が誕生した経緯を知るためには、時計の針を1920年代に戻す必要があります。1918年に第1次世界大戦が終わると、アメリカ、イギリス、日本、フランス、イタリアの戦勝列強国は、ワシントン海軍軍縮条約やロンドン海軍軍縮条約を締結して、当時の海上戦力の主力だった戦艦以下、各種の軍艦の保有隻数を制限することにしました。
その結果、アメリカとイギリス両国の戦艦の保有隻数比率を5とした場合、日本の割合は3に抑えられてしまったのです。
しかし第1次世界大戦後、日本はアメリカを仮想敵国としており、もしアメリカと戦争になった場合は、米本土の西海岸やハワイを出発して日本に向かって来る大艦隊を迎え撃つ必要がありました。
そこで、アメリカ艦隊が太平洋を横断してくるあいだに、日本側は潜水艦や飛行機で迎え撃って、アメリカ艦隊に随時損害を与え、場合によっては戦艦の隻数を減らし、西太平洋で艦隊決戦を行う頃にはアメリカよりも少ない隻数の日本の戦艦群でも対等に戦えるようにする「漸減邀撃(ざんげんようげき)」という戦い方を考え出します。
つまり戦艦が足りない分を、軍縮条約における保有隻数が戦艦よりも厳しくない艦種で補おうというわけです。
酸素魚雷の量産成功も追い風に
こうして、潜水艦や陸上攻撃機、特殊潜航艇(いわゆる小型潜水艦「甲標的」)などの増勢に力が入れられたのですが、その一環として、旧式化した軽巡洋艦に多数の魚雷発射管を搭載し、一斉雷撃によって敵の戦艦や重巡洋艦を沈めようという構想も持ち上がりました。このような主旨で生まれたのが「重雷装艦」です。
当時、日本は世界のどこの海軍も実用化できなかった、酸素で燃料を燃やしてスクリューを回す酸素魚雷の実用化に成功していました。それまでの魚雷は空気で燃料を燃やしていましたが、空気には酸素だけでなく二酸化炭素も含まれており、燃え残った二酸化炭素が水中に気泡となって放出されると、くっきりとした白い雷跡を残すので、敵に見つけられやすいという欠点がありました。
しかし、酸素を使えばすべて燃えてしまうので、雷跡はほとんど生じません。それに空気のように二酸化炭素という燃えないものを含まないので、従来の魚雷に比べて、酸素魚雷の射距離は長くなるというメリットもありました。
また、軽巡洋艦は本来、駆逐艦部隊の旗艦として司令部が乗り込む目的で造られた艦種なので、同じく酸素魚雷を搭載する駆逐艦と一緒に行動できます。
そこで、旧式化した軽巡洋艦を第一線の戦力として活用する意味も込め、酸素魚雷を発射する4連装魚雷発射装置を10基、魚雷発射管数で40門を備える、世界でも類を見ない「重雷装艦」が考えられました。片舷で見ると4連装魚雷発射装置5基、魚雷発射管20門の一斉射が可能な異色の軍艦は、駆逐艦部隊を率いて高速で敵艦隊へと突撃し、「魚雷の槍ぶすま」を見舞おうというわけです。
激戦を生き延び、戦後は工作艦に変身
改造の候補となったのは、球磨型軽巡洋艦の「北上」「大井」「木曾」の3隻でした。このうち「木曾」を除く2隻が1941年に改造され、重雷装艦としてデビューしています。
しかし、太平洋戦争が始まり、実際にアメリカ艦隊と対峙するようになると、緒戦でのハワイ真珠湾への奇襲攻撃を見るまでもなく、海の戦いは戦艦が主力の「大艦巨砲」から、空母が主力の「航空主兵」へと変化して、重雷装艦の出る幕はなくなってしまいました。
そのため、「北上」も「大井」も戦争中盤にはせっかくの魚雷発射装置を降ろして高速輸送艦として運用され、特に「北上」は、戦争末期になると人間魚雷「回天」を多数搭載する専用母艦に改造されています。
激戦の中、「大井」は1944年7月、香港の南側、南シナ海上でアメリカ潜水艦の魚雷攻撃を受け沈没したものの、「北上」は大戦を生き抜き、工作艦や特別輸送艦として使われたのち長崎の地で解体されました。
旧海軍の独特な作戦思想から生まれた特殊な船「重雷装艦」は、その生涯もまた歴史に翻弄されたものだったと言えるのではないでしょうか。
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