ドイツ「戦車王国」の黄昏 稼働するのは全盛期のわずか3%、どうしてそうなった?

乗りものニュース / 2019年2月11日 6時0分

ベストセラー戦車のレオパルト2、その最新バージョンであるレオパルト2A7+(画像:KMW)。

戦車といえばドイツ、ドイツといえば機甲師団、というイメージは、もはや過去のものかもしれません。実稼働数は、いまや自衛隊のそれよりも少ないといいます。復活の目はあるのでしょうか。

想像以上かも? ドイツ戦車の現状

 ドイツ陸軍「レオパルト2」戦車の稼働数、68両――これは2017年12月に、ドイツ国防省から公表された「主要兵器システムの重要な運用準備に関する報告書」に記載された数です。桁(けた)が間違っているのではないかと、目を疑ってしまいます。この報告書によれば、ドイツ陸軍が保有するレオパルト2は244両ですが、うち176両は保管状態(その約70%は訓練なら使用可能)で、稼働状態にあるのは差し引き68両とのことです。

 ドイツ戦車といえば、第2次世界大戦中は「タイガーI(VI号戦車I型、ティーガーI)」「キングタイガー(VI号戦車II型、ティーガーII)」、現代では「レオパルト」が有名で、ドイツは「戦車王国」というイメージがあります。プラモデルなど、ミリタリーホビーのなかでも高い人気を誇っています。タイガーI、キングタイガーは、実戦場では数が揃わなかったことや、補給やメンテナンスの問題から、十分にその能力を発揮したとは言い切れませんでしたが、当時、他国のどんな戦車より強力でした。

 戦後になって西ドイツが開発したレオパルトシリーズは、最初の「レオパルト1」が1965(昭和40)年に配備が始まって以降、改修を重ね「レオパルト2」となり、21世紀に入っても世界各国で採用されるベストセラーとなりました。数多くのバリエーションも存在し、ライセンス生産も含めると8000両以上が生産されたと言われています。しかし現在、ドイツ本国で稼働する戦車は100両にも足りません。陸上自衛隊の戦車数640両(「平成30年版防衛白書」による)と比較しても桁違いに少ないのです。

WW2後「戦車王国」になったワケ

 第2次世界大戦後、ヨーロッパは、資本主義経済体制を採るアメリカを中心とする西側陣営と、社会主義経済体制を採る旧ソ連を中心とする東側陣営に分かれ、軍事的には西側(NATO軍)、東側(ワルシャワ条約機構軍)として対峙する「冷戦時代」を迎えます。

 ドイツは、西側に属するドイツ連邦共和国(西ドイツ)と、東側に属するドイツ民主共和国(東ドイツ)に分割されてしまい、西ドイツはNATO軍の最前線に立たされました。レオパルトシリーズはその対立のなかで生まれ、ドイツ連邦軍は2000両以上の戦車を保有する、堂々たる「戦車王国」でした。

 一方の、ワルシャワ条約機構軍の最前線は東ドイツになります。しかし東ドイツでは、レオパルトのような戦車どころか装甲車すら開発されず、東ドイツ陸軍の戦車は全て旧ソ連製でした。そこには、東側の盟主たる旧ソ連の意向が強く働いていました。旧ソ連も第2次世界大戦では、傑作戦車「T-34」などを生み出した「戦車王国」で、ドイツのタイガーなどと直接砲火を交えて、ドイツ戦車の威力を知り抜いています。旧ソ連は東ドイツを全面的には信頼しておらず、「戦車王国」の復活を恐れたのではないかと言われています。

 1980年代終わりまで、ヨーロッパには東西ドイツの国境を挟んで、3万両以上の戦車がひしめいていたのです。

冷戦終結から20有余年、「戦車王国」はどうなった?

 1991(平成3)年12月25日、東側陣営の盟主だったソ連が解体され、東西対立の冷戦時代も終わります。ヨーロッパ各国は軍の体制を見直し、お金のかかる戦車を減らしていきます。2001(平成13)年9月11日に発生した「アメリカ同時多発テロ事件」をきっかけに、先進国の軍隊は国家ではないテロ集団や武装組織など、「非国家組織」との戦闘に備えなければならず、世界中に素早く展開できるような体制に変わっていきます。戦車のような、大きく重たくお金のかかる装備ではなく、装輪(タイヤ)式装甲車など軽くて運びやすく、お金の掛からない装備が重視されるようになったのです。

 1970年代には、当時の西ドイツには13個装甲(戦車)師団がありましたが、統一後、2010(平成22)年には2個装甲師団にまで削減されています。2000両もあった戦車も余剰となり、中古でも高性能で「人気車」であったレオパルトは、どんどん輸出に回されます。こうしてドイツの戦車は数を減らしていきます。

 一方で、「ボクサー」という装輪装甲車が、2002(平成14)年から配備され始めました。2019年現在、その保有数は274両で、計画では404両まで増やすといい、現状の稼動数は107両です。対し、レオパルト2の稼働数は先述のとおり68両。ほかにドイツ軍が採用する戦車はなく、数だけ見れば、もはや「戦車王国」と呼べるような現状ではありません。

「新冷戦」の時代の戦車

 2015年5月、東の「戦車王国」ロシアで、新型の「T-14」戦車が姿を現します。強力な125㎜砲を搭載した無人砲塔を採用し、防御にも優れ、周辺状況をモニターする電子・光学センサーを多数装備し、3名の乗員は特に防護された車体の区画にまとめて配置されるなど、従来の戦車とは明らかに異なったコンセプトになっています。

 当初、ロシアはこの新型戦車を、2020年までに2000両以上取得すると発表していましたが、2019年現在でも実際の配備数は100両程度で、T-14はまだ完成品ではないとも言われています。しかし、ヨーロッパにおける陸戦の「ゲームチェンジャー」になる可能性を秘めています。このT-14に、ボクサーのような装輪装甲車ではまったく対抗できません。レオパルト2でさえも、渡り合うのは厳しいとの見方もあります。

 戦車を発明したイギリスは、戦車生産ラインを2009(平成21)年に閉鎖し、アメリカはヨーロッパに展開していた戦車部隊を、本国に引き上げてしまっています。他方、ウクライナ情勢を受けて、ロシアと西側諸国との緊張は再び高まっており、「新冷戦」という言葉も聞こえています。そうした情勢のなか、アメリカは定期的に戦車部隊を東欧、中欧ポーランドなどの中部ヨーロッパに送って合同演習を行っています。もちろんドイツにとっても他人事ではないはずで、再び「戦車王国」として復活する時は近づいているのかもしれません。

【写真】現存するタイガーIと「ポルシェティーガー」

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