「いろんなことを忘れないでいてほしいと思ってこの映画を撮った」『あんのこと』入江悠監督【インタビュー】
エンタメOVO / 2024年6月6日 8時0分
もともと記事に書かれていたことなので、本当に起きていたことに自分が何かを足そうということはありませんでした。記事には、その後の彼女がそうしたものを断ち切って、もう一度自分で学校に通い出す、踏み出していく過程が書かれていたので、映画としても、では彼女がどうやってそれらを断ち切って、前に進もうとしたのかを描ければいいと思いました。
-最初は、杏が置かれている絶望的な状況を見てやるせなさを感じる。次に彼女が立ち直っていく過程で多少の希望が見える。けれども最後は…となる展開が非常に切なかったです。
そうですね。単なるフィクションであればラストを変えてもいいんですけど、スタート地点が現実に起きたことを記録しておきたいというのがモチベーションだったので…。撮りながら僕もつらかったですが、でもこれこそが、僕たちがあの事件に気付かなかったということなんだと思いながら撮っていました。苦しいシーンもいっぱいありましたが、彼女にとって、少しでも幸せな瞬間があってほしいと願いながら撮っていました。
-杏役の河合優実さん。ある意味とても難しい役だったと思いますが、時折彼女が見せる笑顔が印象的でした。今注目の俳優ですが、彼女はいかがでしたか。
役柄に対して取り組む姿勢がすごく真摯(しんし)です。そこがちょっと尋常ではないというか。だから、こうした実在の人物を演じるときに、僕なんかが想像できないぐらい丁寧にアプローチをして、ふっと出てきた表情や笑顔がすごく光るんです。そこにうそがないというか、本当に杏はこの瞬間笑っただろうなというふうに見えるというか。そういう意味では、これからすごい俳優になると思います。僕が演出しなくても、彼女が脚本を読んで、「杏ってこういう子だったんだ」と想像しながら演じていました。ご本人は「何か一緒に歩いているような感じ」と言っていましたけど、本当に杏が隣にいるような感じでした。
-刑事役の佐藤二朗さん。彼は杏にとってはある意味恩人ですが、他の人にはひどいこともするみたいな、人間の多面性が出ていたと思うんですけど、彼はいかがでしたか。
佐藤さんもすごく繊細な方でした。なるべく演技を抑制して、やり過ぎないように、杏に寄り添っていくというのを、すごく心掛けていらっしゃるなと思いました。撮影中に一番いろんなことを話したのは佐藤さんかもしれません。「この刑事はどういうことをするんだろう」とか、「たばこをポイ捨てする芝居をやってみようと思うけど、どう思う」とか、そういうディスカッションをたくさんしました。
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