「映画館から出た時は、きっとみんながいい気持ちになっているはず。そんな映画です」井浦新、藤谷文子、マーク・マリオット監督『東京カウボーイ』【インタビュー】
エンタメOVO / 2024年6月7日 8時0分
マリオット 違いよりもむしろ共通点の方が多いわけです。ただ、今私たちの住んでいる世の中は、本来なら似ている点が多いのに、分断の要因が多いですね。今回は、特定の文化に着目して描いていますが、例えばモンタナにやって来た人も、そこにいればやっぱり地元の人と似てくるということ。共通点を見つけ出せると思うんです。それが本作が描いた美点だと思います。私が若い時に日本に住んでいた時も、違いよりもより多くの共通点を見いだすことができました。
-最初に脚本を読んだ時にどう思いましたか。また実際に演じてみてどう感じましたか。
井浦 まず、好きな脚本だなと思いました。温かさを感じましたし、ある意味ヒデキの再生の物語でもあります。ヒデキを通して、人はどんな状況でも変化していくことができる、希望の物語でもあると思いました。とても普遍的で、自分の中にある身近なものにも寄り添える作品だと感じました。だからこそ、自分がヒデキを演じることで、その思いをどうパフォーマンスしていけるかという点でも、これはすごいチャレンジになると思いました。たくさんの人たちが共感できる題材だからこそ、それに対してどういうアプローチをするかで、見え方や伝わり方は変わっていきますから、僕自身が試されるなとも思いました。
マリオット 心に響く映画を作ろうと思ったら、正直な映画作りが必要だと思います。それは本当に純粋に文化を描いていて、自然に醸し出されるようなユーモアもあるもの。今回は、まず優れた脚本があった。そしてその神髄を理解してくださる俳優がいたことで、とても人間味にあふれた、リアルな作品作りが達成できたと思います。
井浦 監督が求めていたのは、いわゆる演技らしい演技をせずに、怒ったり興奮したり、どう動いていくかを見せていくことでした。演技をし過ぎた時はもう1回やってみようとなり、僕も監督がこの映画の温度感をどうしたいのかはキャッチしていたので、いつの間にかヒデキの境遇と僕の状態が一つになっていました。言葉が通じない撮影の現場に入っていくという点では、本当にヒデキと同じような状況になって、いつの間にかフィクションではあるけれども、僕の内側のところでは完全なノンフィクションになっていると、一つ一つ体感してみて感じました。
-今回は、英語はもちろん、乗馬や投げ縄をするシーンもありましたね。
井浦 ヒデキは乗馬ができなければ…と、ずっと心配していました。「日本で練習していった方がいいですか」と聞いたら、「身一つで来てくれ」と言われて。それを信じてモンタナに行ってから2日間ぐらい乗馬の練習をしました。時代劇作品でも、天皇や公家の役が多かったので、中々乗馬をする機会がありませんでした。自分で脚本を読んでいる時は、せりふを覚えるしかないんですが、モンタナに行って撮影が始まったら、その景色や環境、一緒に撮影しているクルーたちと過ごしながら、僕はだんだんヒデキになっていけばいいのかなと。監督も「このシーンはヒデキの心が何かを感じていくシーンだよね。だから、あなたはどういうふうに芝居をするんだろう」と言って考えさせてくれる。それでヒデキの心の動きというのは自分でも考えましたが、常に監督が手綱を持ってくれているので、僕は感じたものを心のままにやっていく。それがちょっとずれていたら、監督がいつでも言ってくれる。そういう信頼関係がありました。頭で考え過ぎてやらないということを思っていたので、その環境の中で、戸惑ったら戸惑ったなりに、気持ちを素直に出していけました。
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