【映画コラム】大泉洋が適役の『ディア・ファミリー』/伝統的なアメリカンファンタジー『ブルー きみは大丈夫』
エンタメOVO / 2024年6月14日 8時1分
『ディア・ファミリー』(6月14日公開)
1970年代。小さな町工場を経営する坪井宣政(大泉洋)と妻・陽子(菅野美穂)の三女の佳美(福本莉子)は生まれつき心臓疾患を抱え、余命10年を宣告される。
どこの医療機関でも治すことができないという厳しい現実を突きつけられた宣政は、娘のために自ら人工心臓を作ることを決意する。
知識も経験もない状態からの医療器具開発は限りなく不可能に近かったが、夫婦は娘を救いたい一心で勉強に励み、有識者に頭を下げ、資金繰りをして何年間も開発に奔走するが、佳美の命のリミットは刻一刻と迫っていた。
世界で17万人の命を救ったとされるIABP(大動脈内バルーンパンピング)バルーンカテーテルの誕生にまつわる実話を映画化。主人公のモデルとなった筒井宣政氏を取材した清武英利のノンフィクションを基に、林民夫が脚本を書き、『君の膵臓をたべたい』(17)の月川翔が監督を務めた。
まるで、無名の人々の知られざる活躍や製品開発プロジェクトを描くNHKのドキュメンタリー「プロジェクトX~挑戦者たち」をほうふつとさせるような発明話だが、これを市井の一家族が成し遂げたところが興味深い。
大泉が演じる父親の、半ば狂気のような開発への執着に驚かされるが、実際、発明とはそうしたところから生まれるものなのだろうという気もする。加えて、彼が受ける差別を通して、医学界に横たわる権威主義や融通の利かなさがあらわになるところもある。
また、この一歩間違えれば危ない人とも思える主人公を大泉が演じることで、ユーモラスな面や人たらしの部分がにじみ出て、押しの強さにも嫌らしさを感じさせない。その意味ではまさに適役だったといえるだろう。
そして、娘を救いたいというエゴむき出しのこの男が、やがて病に苦しむ全ての人たちのためにと、人工心臓からバルーンカテーテルの開発へと変化していくところが、この映画の真骨頂。
妻が夫に問い掛ける「次はどうする?」というせりふが印象に残る。CGやセットで再現された鉄道や建物など、70年代の風景も見どころだ。
『ブルー きみは大丈夫』(6月14日公開)
母を亡くし心に深い傷を抱える少女ビー(ケイリー・フレミング)は、巨大な謎の生き物ブルー(声:スティーブ・カレル)と出会う。ブルーと彼の仲間たちは、想像力豊かな子どもたちによって生み出された“空想の友だち”だったが、子どもが大人になって彼らを忘れるとその存在が消滅する運命にあった。ビーは謎の隣人(ライアン・レイノルズ)の助けを借りながら、ブルーの新たなパートナーを見つけるべく奔走するが…。
ジョン・クラシンスキー監督が、実写とCGを融合させて描いたファンタジー。カレルのほかにも、マット・デイモン、エミリー・ブラントらが声優をしているのも見どころだ。
劇中、誰にも見えない大ウサギが見える男(ジェームズ・スチュワート)が主人公の名作『ハーヴェイ』(50)が示唆的に映る。また、子ども時代との別れという点では「トイ・ストーリー」シリーズ、空想の友だちの存在を描いた点では『僕のボーガス』(96)といった過去の映画と通じるところもある。
その意味では、もちろん今を描いた映画ではあるが、伝統的なアメリカンファンタジーの系譜に連なる映画だともいえるだろう。
全ての謎が明かされるエンディングに泣かされる。空想の友だちの一人を演じた名優ルイス・ゴセット・ジュニアの遺作となった。
(田中雄二)
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