「地域の役に立ちたい」二重被災の町で唯一のスーパー 店を開け続ける家族の思い
テレ金NEWS NNN / 2024年12月24日 18時57分
元日の地震で被災しながら1日も休まずに営業を続けたスーパーが輪島市にあります。しかし、店は再建の途中、豪雨災害で再び大きな被害を受けることに。それでも町に一軒だけのスーパーを開け続けたいと願う家族の姿を追いました。
その場所は、もはや車で行くことはできませんでした。道路には濁った水が流れその脇には、大量の土砂と流木。ここは輪島市町野町。
車を捨て、1キロほど歩いた先にそのスーパーはありました。流木が、ガラスを突き破り、泥に覆われた店内。押し寄せた水は背の高さを超えていました。
この9か月前、元日に石川を襲った能登半島地震。店は倒壊こそ免れたものの、多くの住民が町の外へ出ていき、客は激減しました。
もとやスーパー2代目・本谷 一郎 さん:
「必ず戻って来いよ。待ってるぞ」
住民が地元に戻ることを願う2代目の本谷一郎さん。
買物客:
「何時から何時までですか?ちなみに」
妻・本谷 理知子 さん:
「太陽が上がって沈むまで」
経理からレジ、商品の陳列まで、なんでもこなす店の要、妻の理知子さん。
「よっしゃよっしゃ」
そして、スーパーの経営再建を模索する息子で3代目の社長、本谷一知さん。
もとやスーパー3代目・本谷 一知 さん:
「将来描いているビジョンとしては、奥能登の人全体、全部、友達になりたい。移動スーパーを通じて」
停電が続いても… お客さんが来なくても…
「いらっしゃい」
建物で寝泊まりしながら元日から1日も休まず本谷さん一家は、店を開け続けました。
少しずつ仕入れを増やし… 従業員が戻り… 明るい兆しが見え始めていたもとやスーパー。
本谷 一郎 さん:
「今までこうやって育ててもらって店舗も持ってたのは、この周りの人たちのおかげだと思っている。その恩義はもう忘れない」
必要とされる限り町に一軒しかないスーパーをこれからも開け続けたい。それが本谷さん一家の願いでした。
しかし…ことし9月。能登は未曾有の豪雨に襲われました。いたるところで、河川が氾濫。もとやスーパーにも…
「えー浸水してきました」
水かさは、みるみるうちに増していき… ものの10分で…
「うわ、もうすぐそこまで来てる」
スーパーは1階部分が濁流に飲み込まれてしまいました。
翌日。町野町には、豪雨の爪痕がいたるところに残されていました。
もとやスーパー3代目・本谷 一知 さん:
「ここまで来てん。壁の色変わっとるところまで来た。(商品は) とりあえずこういう上とかに乗っけたけどや、ここまで来たらもう何を上げてもだめやろ」
本谷 理知子 さん:
「刺し身の担当者が来て『もう駄目、もう危険だし上がろう』と、2階に上がった」
床一面、泥に覆われた店内。商品も、棚も、すべてが流されました。移動販売に使っていた軽トラックも… 地震よりも深刻な豪雨の被害。
本谷 一知 さん:
「この場所での商売はもう無理やわ。どう考えても。もうこれで無理やなって。町野から出るっていう話もちらほら聞くし」
でも…この人だけは…
「おお~!あはは」
もとやスーパー2代目の一郎さんです。
もとやスーパー2代目・本谷 一郎 さん:
「いや、ひどいな~。まさか水の被害がこんだけひどいと思わなんだ」
全身、泥だらけの一郎さん。濁流が押し寄せた際、商品を救おうと売り場に残ったものの水かさが急激に増え、結局、逃げ遅れてしまったといいます。
本谷 一郎 さん:
「いったんあの、その上に上がって、水引くのを待ってて。(どこの上にあがったんですか?) そこの上。(これ?)うん、そう。そしたらだんだん水が引いてきたもんで、ここ自体に寝てびとびとになってる。しょうがないから布団はない、それから洋服は全部濡れてしまって、わやくそになってる」
ただ、これほどひどい目に遭っても、一郎さんは…
本谷 一郎 さん:
「みんな大抵する前に弱気になっているけど、それじゃだめ。人間あくまでもチャレンジだよ。ここには昔からのお年寄りから、ずっと世話になった人がいっぱいいるから、その人たちに俺が助けられたと思ってるだから、これから恩返しだよ。その恩返しを途中で諦めるってのはこんな変わった話ないよ。だからいま息子にしろ嫁さんにしろ一生懸命頑張ってる。ただ、まだちょっと何か不安はあるみたいだけど。だけど、やってそれが成功したときには一歩前進できるよ。必ず道は開ける」
豪雨から数日後。お店に、ある変化が…
そこには、全国から集まった災害ボランティアの姿がありました。ニュースで甚大な被害を知り駆け付けてくれたのです。
そして、お店には岐阜県で働く一知さんの息子、悠樹さんの姿も…
一知さんの次男・本谷 悠樹 さん:
「心配になったんで帰ってきました。とりあえず」
半年前、輪島市内の高校を卒業した悠樹さん。就職した会社の勧めもあり、一時的に戻ってきたのです。
本谷 悠樹 さん:
「(父の一知さんは)地震のときでも辞めるって言わなかったんで、ちょっと心配だなと思って。まさか地震よりひどいとは思ってなかったので」
父の力になりたい。その思いは店をたたむと口にした一知さんにも伝わったようです。
本谷 一知 さん:
「ずっと落ち込むのも疲れるしね。表情を変えたり、言葉を変えたり、元気を出すというのは1人でもできるからね。そこからやろうと思った。その輪がこうやって広がってきてんだよね、みんな」
一方、一郎さんは… 自らが身を寄せる近くの仮設住宅へ。
本谷 一郎 さん:
「バナナこれ喜ぶわ」
少しでも足しになればと店にある支援物資を袋に詰め、住民に届けているといいます。
本谷 一郎 さん:
「婆ちゃん、どっか出かけてるな。そこの横のお年寄りどうしとる?出ておらんな」
住民:
「いらっしゃるような気がするけど、おらんけ?」
本谷 一郎 さん:
「おらん。そしたら、年寄りで(受け取りに)来ない人に配ってほしい」
本谷 一郎 さん:
「みんな何もそのまま我慢するだけだから。特にここのおばあちゃんはおにぎり3つもらったら1日1個でやってたわけだから、そういう人たち見てるとかわいそうで、なんかせめてな、役に立ってくれれば」
創業78年。町に一軒しかないスーパーを親子3代にわたって切り盛りしてきた、本谷さん一家。
地域の役に立ちたい。一郎さんは、その一心で店を続けてきたと話します。
本谷 一郎 さん:
「要は、この町野っていうところはここしか出ないんです販売店は。だからここがなくなると、あとはお年寄りに歩いて穴水行け、柳田行けって言えますか。しかもバスも通ってない。だからそこでね、私らが頑張って、ともかくしないことには、この近くにいるお年寄りはどうします。できるだけこの近くの人たちの輪を守りたい。それはもう誰だって同じです」
住民は:
「やっぱりその地元の人の誰かに会うことがね。それが一番楽しみ。それに車とか運転できない人は、ちょっと離れたところを買い物に行かなくちゃいけないですし、やっぱりここにあれば助かります」
「なくてはならないお店なので、ぜひ再開してほしいです」
住民の思いに3代目の一知さんも再び店を開けることを決意しました。
本谷 一知 さん:
「店なくなったらさ、心に火を灯すのも大変だよ。俺は商売人だから、商売人として言いたいこと言ってもらって、また元気を出してっていう、そういう場を作って貢献できればなと思う」
11月。
本谷 一郎 さん:
「だいぶ片付いてきたな。今日初入荷してるんだわ。ほんなん。初入荷して。向こうに全部こっちにあったやつを全部ずらしてんだわ。なんでちょっと手伝って、助言してあげたら、みんなみんなで動いてるから、みんな。こりゃいいな。へえ」
お店の一角に積まれたパンや調味料。まだ仮オープンという形ですが、豪雨以来、約50日ぶりにお客さんを迎えることができました。
そしてこの日はもとやスーパーにとって特別な日でもありました。
本谷 一知 さん:
「11月11日は、ほらもとやの創業祭だと。うちのばあちゃんも11月1日生まれなんで、まあ偶然か。悠樹の誕生日も11月11日でさ。地震が1月1日に何かと1に縁のあるもとやスーパーということで、はい誕生日おめでとう」
社会人になって初めての誕生日。悠樹さんは、岐阜での仕事を辞め、もとやスーパーで働くことを決めました。
本谷 悠樹 さん:
「やっぱり地震があって、水害があって、連続であって、やっぱりここが一番このお店の踏ん張り時か分かんないですけど、ここでやっぱり立て直さなかったら、この後、自分がいなかったらすごい自分自身が後悔しそうだな。やっぱりここのお店でちっちゃいころから育って、学校も行かせてもらってみたいな感じなんで、ここで恩返ししなかったら、後々後悔しそうだなというのが直感ですけど、そんな感じで、今ここにいるべきなんじゃないかなというのが一番ですね」
3週間後にはさらに売り場を広げ、本格的に営業を再開することも決まりました。
そして一知さんには… 実は、新たなお店の構想が浮かんでいるようです。
本谷 一知さん:
「お客さんはさ、ここからこうやって入ってくるわけ。入ってきて、ここが入り口じゃない。ここでもバナナとかちゃんと並べるわけ。ここにイチゴが並んでるわけで、ここからスーパー入って宿泊する人はここで、レジで、ここでちょっとお二人なんですけど、わかりました、これピッて、ここで宿泊施設に行くと」
「ここにまっすぐ1本線があって、ここに部屋があるわけで、こう入って、ここでがちゃっと入って、ちょっとWiFiでパソコンできたり、スマホいじったりできて、空調で温度調整して、家族3人、4人でもいけますかね、なんて。ここをちゃんと家族の部屋にするわけですね。ダブルベッド置いて。こことここ、ちゃんと洋式の広いトイレにして、ほんでシャワールームは冷蔵庫が4つあるでしょ。これがちょうどシャワースペースになるんだわ」
「やっぱり移住者だとか作業員だとか帰省客だとか観光客で、この町野はもちろんだけど、地方再生の何かそういうベンチャー的な事業をしたいんだよね、将来的には」
地震と豪雨に見舞われ手探りで歩み続けたこの1年。背中を押してくれたのは地域の絆と…父、一郎さんの思いでした。
本谷 一知 さん:
「2メートルの津波が来たじゃない。あの中でも親父は下に残ったんだよね。なんで逃げないのか。俺はこの店と一緒に死ぬんやって最後まで。うちの親父2代目だけど、1代目が守ったこの店を守る。最後にあとは頼むぞって言うわけ。水が引いた中も泥だらけでさ、ベッドで寝てるわけで、虫まみれで。でも幸せだっていうのは、お前が頑張ってるし、お前につなぐのが俺の仕事だということを寝ながら言うわけ。やっぱりそういう人たちの気持ち、この町に可能性を感じている人たちの気持ち、だから思いに対する責任っていうのは、俺は背負ってると思っている。それはやっぱりここを灯つけて、また業態を変えてでも、人を集められるような場所にしたい。もちろん水害対策はちゃんとしないといけない。それはちゃんとした上で、やっぱりここをもう一回にぎやかな場所にするっていう責任を背負わされていると思っている」
記者:
「まだ想像がつかないんですけど、今の状況が実現できますか?」
本谷 一知 さん:
「わかんない。はっきり言ってわかんない。いいものにもなるかもしれないし、何もならないかもしれない。それは約束できないけど、でもまあ、なんだろう。やろうとしないとならないからね。うん」
迎えた復活オープンの日。店にはあふれんばかりの買い物客が訪れました。その応対はもちろん、家族総出で。
この町とずっと生きていきたい。形は変わっても必要とされる限り町に一軒しかないスーパーを開け続けたい。
「ありがとうございます!」
本谷さん一家の願いは、これからも決して変わることはありません。
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