上野公園が元祖? ソメイヨシノの原木の可能性
ウェザーニュース / 2019年3月28日 10時50分
日本の桜の8割を占め、お花見の定番となっているソメイヨシノ。1本の原木から接ぎ木で増やしてきたクローン桜なのですが、その原木が東京の上野公園にあるかもしれません。
遺伝子解析による親探し
千葉大学大学院(園芸学研究科)教授の中村郁郎さんはソメイヨシノの起源を探そうと、日本のサクラ野生種9種の遺伝子解析を行いました。すると、ソメイヨシノの片親の遺伝子配列がオオシマザクラのそれと同じでした。
もう一方の親の遺伝子配列は、エドヒガンのそれと極めて近かったので、各地のエドヒガン系の品種のDNAを調べました。すると上野公園にあるエドヒガン系のコマツオトメがソメイヨシノと同じ遺伝子配列を持っていたのです。中村さんが語ります。
「そこで2007年に、ソメイヨシノの父親はオオシマザクラ、母親はコマツオトメに似た品種という仮説を発表しました。その後、コマツオトメの詳しい遺伝子解析などで、コマツオトメはソメイヨシノの母親ではなく、異母兄弟であろうと訂正しました」
コマツオトメの原木
中村さんが次に注目したのは、コマツオトメのある上野公園の一角です。動物園正門前の小松宮像が建っているあたりには、ソメイヨシノ4本、エドヒガン5本、コマツオトメ1本などがあります。それらの遺伝子解析をすると、ソメイヨシノとコマツオトメ、エドヒガン5本が兄弟の関係にあることがわかりました。
「これらの木は等間隔で一列に生えているので、両親から得られた実生(種)を植えた可能性があります。また、これらの樹木が“相反交雑”によって生じた兄弟であると仮定すると、ソメイヨシノの両親は【エドヒガン】および【エドヒガンとオオシマザクラの雑種】と考えられます」
相反交雑とは、両親の間でオスとメスを逆にした2通りの交配を行うことで、植物の品種改良にはよく行われる手法です。
管理番号136がソメイヨシノの原木?
中村さんがさらに大胆な仮説を提唱します。「小松宮像の一角は、江戸時代に寛永寺の鐘楼堂がありました。ソメイヨシノは染井村(東京都豊島区)の伊藤伊兵衛政武(1667〜1757年)が作出したという説が有力ですが、ある事情で自宅の畑ではなく、寛永寺の境内で原木を育成したと考えられます」
“ある事情”を簡単に言うと、園芸家として知られた伊藤家が時の権力者ににらまれたくなかったからだそうです。
小松宮像の一角にはソメイヨシノが4本ありますが、兄弟のエドヒガンなどと一列に並ぶ管理番号136のソメイヨシノが原木ではないかと中村さんは推理します。それが伊藤伊兵衛政武の作出したソメイヨシノだとすると、樹齢は約270年ということになりますが、樹木医の見立てでは70〜100年です。中村さんが語ります。
「ソメイヨシノの原木候補がある場所は、寛永寺の鐘楼堂を建立するための基礎工事が施されているので、根が伸びられない盆栽状態の可能性があります。一般的に盆栽は長生きで、手入れを怠らなければ500年持つものがあります。私の仮説の真偽は原木候補の樹齢が鍵を握っているので、解明されるのを待つほかありません」
このソメイヨシノが原木だとすると、日本国内ばかりか海外のソメイヨシノが、この1本を起源にしていることになります。壮大なスケールを感じますね。
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