熊本地震から4年、災害時に重要視される「心のケア」とは
ウェザーニュース / 2020年4月14日 6時0分
2016年に発生した熊本地震から、4月14日で丸4年が経ちます。近年、地震や水害など大規模な災害の後、被災者に対する「心のケア」が重要視されるようになりました。さらに新型コロナウイルスの流行では、感染者への精神的なケアの必要性も注目されているところです。精神科医である「熊本こころのケアセンター」の矢田部裕介センター長に、お話を伺いました。
災害直後の「身体と精神医療の連携」が重要
被災地域における精神科医療の提供と保健活動の支援のため、都道府県・政令指定都市には専門的な研修と訓練を重ねた災害派遣精神医療チーム「DPAT(Disaster Psychiatric Assistance Team)」が組織されています。
「DPATの最初の活動は1991年の雲仙普賢岳の噴火でした。95年の阪神・淡路大震災で災害時の心のケアに対するコンセンサスが確立し、2004年の新潟県中越地震を経て、11年3月11日の東日本大震災では合わせて3000人以上に及ぶ、大規模な心のケアチームの活動が行われたのです」(矢田部氏)
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来所相談に応じる矢田部裕介センター長
発生4日後、最初に岡山県のDPATが現地に入り、熊本県も10日後に加わりました。当初は、被災者の心のケアが必要なのは、むしろ発生直後より1~2か月後ではないかとみられていたといいます。
「しかし、現地では精神科病院が孤立するうちに患者さんが亡くなったり、ようやく駆けつけた自衛隊員による搬送途中に力尽きたりといった例が多発しました。被災直後の『超急性期』と呼ばれる時点における、身体と精神医療との連携が大きな課題とされたのです。この課題を解決するべく、DPATが設立されました」(矢田部氏)
熊本地震の際には、北は北海道から南は沖縄まで、全国各地のDPATが早い段階から現場での活動を開始しました。DPATは自然災害に限らず、列車事故、新型コロナウイルスの帰国者対応や集団感染が起きた客船「ダイヤモンドプリンセス」へも派遣されたそうです。
災害も感染症も「対応策は同じ」
矢田部氏によると、熊本地震に限らず、被災者の心の変化としてまず「茫然自失期」が現れ、そこに支援や連帯感が生まれると気分が高揚する「ハネムーン期」が訪れます。しかし、これは長続きせず、気分が落ち込む「幻滅期」がやってくるそうです。その長さは災害の規模や個人差によるといいます。
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「熊本地震から4年が経ち、立ち直っていく方とさらに落ち込んでいく方との格差がはっきりしてきます。うまく生活再建が進められる場合は精神的な立ち直りも早いのですが、逆に自主再建が困難な場合は取り残された感覚から、さらに抑うつ傾向が進む方が多いです。
また、仮設住宅からの退去者が増えてきました。退去すると生活再建が果たせたとみなされて、行政の支援体制から外れてしまう。心のケアが必要な人たちは、自分から積極的に助けを求めることが少ない。居場所がわかって介入ができれば、いかようにも対応できるのですが、『見えなく』なってしまうのが問題なのです」(矢田部氏)
「被災者は自宅から仮設住宅へ、仮設住宅から新たな住居へと、環境の変化を二度経験しなければなりません。引っ越しのストレスというのはメンタルヘルスにとって、案外ハイリスクとなるのです」と矢田部氏はいいます。個人的な印象として、近ごろは独身の高齢男性による相談が増えていて、うつやアルコール依存、軽い認知症の症状が目立つそうです。
一方、災害救助法をバックボーンとして活動するDPATにとって、今回の新型コロナウイルス関連での出動は「異例なこと」だったそうです。
「感染の拡大によって日常が突然、非日常と化したことは、災害と同じです。集団感染は自然災害よりもむしろ、コミュニケーションを取ることが難しい。ケアには周囲とのコミュニケーションこそ必要なのですが、絆を深めるどころか、距離を置かれてしまう。それがストレス、トラウマになってしまうのです」(矢田部氏)
災害時や緊急時には様々なストレスや不安から、心が不健康になりがちですが、基本的に「対応策は同じ」だそうです。
「まず、正確な情報を入手すること。メディアとの付き合い方も考えましょう。SNSなどに蔓延(まんえん)する『人が人に対する怒りや不満』は、気づかぬうちに自分自身のストレスともなってしまいます。さらに、眠れなくなったり不安感を抱いてしまったりすることは当たり前、むしろ正常なことだと思うことです。その上で、ストレスを軽減する具体的な行動をとることがなにより大切です」(矢田部氏)
災害時は、生命や自宅などの財産に大きな被害をもたらしますが、同時に心にも大きな傷を残します。命とともに、心を守ることも忘れないようにしたいですね。
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