カタツムリが日本に800種 あなたの街の「ご当地カタツムリ」は?
ウェザーニュース / 2020年7月5日 7時39分
梅雨どきのシンボル・カタツムリ(陸産貝類)は、日本全国に800種以上も生息しています。その中には地元の地名から命名され、そこでしか観察できない「ご当地カタツムリ」も多数存在しているそうです。ウェザーニュースが「周辺で見かけるカタツムリの大きさ」について調査を実施したところ、地方による差異がいくつか生じていました。
調査結果と「ご当地カタツムリ」について、カタツムリを含む貝類全般が専門の豊橋市自然史博物館学芸員・西浩孝さんに解説をお願いしました。
沖縄の巨大カタツムリは外来種
調査結果によると、全体ではカタツムリの大きさは「1円玉ほど」が最も多く52%、「ゴルフボールほど」が30%、「野球ボールほど」が1%弱、「見たことがない」が18%という結果になりました。
地域別に詳しく見ると、北陸・東海で「ゴルフボールほど」の割合が最も多くなっています。驚きは沖縄で、「野球ボールほど」が11%と、突出して多くなりました。
「北陸のツルガマイマイ、東海から近畿のイセノナミマイマイなど、各地方を代表するカタツムリの成体の殻径(かくけい=貝殻の幅)は、いずれも3~4cm(ゴルフボール大)です。みなさんがご覧になった『1円玉大』がどのカタツムリなのかわからないのですが、おそらくそれらのカタツムリの『子ども』か、全国的に生息する広域種のウスカワマイマイ(殻径23ミリほど)あたりなのではと思います。
沖縄で見られる巨大なカタツムリはアフリカマイマイといって、東アフリカ原産の外来種です。殻径55mm・殻高115mmほどもあり、食用として持ち込まれたものが逃げ出して増えました。奄美群島や小笠原諸島にも生息しています」(西さん)
遠くまで移動できず種分化が進む
それでは、けっして広くない日本列島の各所に「ご当地カタツムリ」を含む800種ものカタツムリが分布しているのは、なぜなのでしょうか。
「カタツムリはご存知のように『歩みがのろい』うえに、飛べません。海を渡れないため島から島への移動はもちろん、同じ島内でも川や山に隔てられた他の地域への移動も難しい。そのため、同じ本州内でも東北なら東北、中国なら中国といったエリアで種の分化が進み、地域ごとに多くの種、さらに亜種が生まれていったのです。
北陸、東海以外では、北海道がサッポロマイマイ、東北がアオモリマイマイ、関東・甲信がミスジマイマイ、関西がクチベニマイマイ、中国がイズモマイマイ、四国がアワマイマイ、九州がツクシマイマイ、沖縄がオキナワウスカワマイマイといったあたりが、地方を代表するカタツムリといえるでしょう。
そのほかに『広域種』として、その名もニッポンマイマイ、オナジマイマイ、コベソマイマイなどが生息しています」(西さん)
なぜ四国に巨大カタツムリ!?
各地方の代表種のなかでも、四国のアワマイマイは殻径66mm・殻高40mmほどと、日本の固有種のなかで最大です。なぜ四国に巨大なカタツムリが生まれたのでしょうか。
「ベルクマンの法則といって、同じ種でも、ほ乳類などの恒温動物は寒冷地で大きく温暖地で小さくなり、昆虫などの変温動物はその逆という現象がありますが、日本のカタツムリの場合はこれに必ずしも一致しません。
『ご当地カタツムリ』の差異は、ほかの地域と遺伝子の交流ができない狭いエリアで交配が繰り返されてきたことの結果であるとしか、言えないのです」(西さん)
アワマイマイの場合も、低地では小さく、殻の色調も山地では黒っぽく町場では明るいといった、さらに狭い場所ごとの特徴があるそうです。
「ご当地カタツムリ」は、これまでに紹介したツルガ(福井県敦賀市)、イズモ(出雲=島根県東部)、ツクシ(筑紫=福岡県)など、地名がもとになっている命名から、より身近に感じられる存在となっています。トウキョウ(東京)コオオベソマイマイやヒタチ(常陸=茨城県)マイマイという名のカタツムリもいるそうです。
「けれど、私たち研究者にとっても、実は姿が似ているカタツムリの種・亜種の同定(生物の分類学上の種を決定すること)は難しいのです。通常の生物の観察とは逆に、おおまかな殻の大きさと色が似ているものを図鑑などで探し、広域種を除いて『この地域に棲んでいるからこの種だろう』と考えるのが有効です。ただし殻の色には変異が多いので、それも注意点です」(西さん)
難しいという「ご当地カタツムリ」の同定ですが、住まいの近くでぜひ見つけて詳しく観察してみてください。
参考資料など
武田晋一・写真、西浩孝・解説『カタツムリハンドブック』(文一総合出版、2017年初版第2刷)、豊橋市自然史博物館『はてな?なるほど!ザ・カタツムリ』(第28回特別企画展図録、2013年)
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