『天気の子』を見る前に知っておきたい! 「かなとこ雲」ってどんな雲?
ウェザーニュース / 2021年1月3日 14時0分
新海誠監督の作品は、空や雲、夕日などの美しい「気象表現」が印象的です。『天気の子』でもさまざまな雲が登場しますが、その中でも「かなとこ雲」について触れないわけにはいかないでしょう。宣伝告知ポスターにも登場し、作品の代表的なシーンの一つです。
『天気の子』が地上波初放送されるのに先駆け、「かなとこ雲」はどのようにしてできるのか、またその下はどうなっているのか、ウェザーニューズの気象予報士、山口剛央(たけひさ)が解説します。
かなとこ雲は積乱雲が発達したもの
「かなとこ雲は、日本で夏によくできる積乱雲(入道雲)がモクモクと発達してできたものです。かなとこ(金床)とは、鍛造(たんぞう)で加熱した金属をのせてハンマーで叩く作業台のことです。上面が平に広がっている金床に似ていることからが『かなとこ雲』と名づけられました」(山口剛央)
モクモクと発達して上に伸びた積乱雲が、天井があるようにそれより上に行けず、横に広がるのはなぜでしょうか。
「積乱雲が上に伸びて対流圏の上部に達すると、その上の成層圏に行けないため、横に広がるのです。対流圏と成層圏の境目を圏界面といいますが、かなとこ雲は圏界面を天井にして横に広がったのです。高度で言うと11〜13kmくらいです」(山口剛央)
積乱雲が成層圏に入れない理由
なぜ積乱雲は対流圏止まりで、その上の成層圏に行けないのでしょうか。
「その理由は温度差です。対流圏の気温は圏界面付近で最も低くなります。一方、それより上の成層圏では徐々に温度が上がっていきます。冷たい空気は暖かい空気よりも相対的に重いので対流圏と成層圏の境目である圏界面よりも上に行くことが出来ません。このため積乱雲は成層圏に入れないのです」(山口剛央)
大気は通常、高度が高くなるほど温度が下がりますが、対流圏より上の成層圏の温度が高いのは、成層圏にオゾン層があるためです。オゾン層は太陽光の紫外線を吸収して発熱するため温度が高くなるのです。
かなとこ雲の下はどうなっているの?
この大きな雲の下はどのような状態になっているのでしょうか。
「分厚い積乱雲に覆われるので積乱雲の下は暗くなり、地上は気温が急に下がります。雷が鳴り響いて落雷したり、局所的に雨や雹が降ったり、突風に襲われたりするなど、『かなとこ雲』は危険な雲で注意が必要です。
昨夏も各地で『かなとこ雲』が何度か見られました。『天気の子』に登場するような大きな雲が目撃されることもあり、ウェザーニューズに多くの写真が投稿されるなど話題になりました。この時も『かなとこ雲』の真下ではゲリラ豪雨となっていることが多かったのです。
積乱雲が一番発達した状態である『かなとこ雲』は危険な雲ですが、逆に言えばこれ以上発達することはありません。雨や雹を降らせながら次第に衰えて、1時間くらいで消滅することが多いです」(山口剛央)
雲のてっぺんにはどのような世界が?
『天気の子』では重要なシーンで「かなとこ雲」が登場する ©2019「天気の子」製作委員会
『天気の子』では、上空で横に広がった「かなとこ雲」の雲頂に草原のようなものを眺めることができます。ウェザーニューズが2019年に行ったインタビューで、新海監督は「かなとこ雲」の描写について、次のように語っています。
「成長した積乱雲のてっぺんが横に平らに広がる『かなとこ雲』の上は、地上にいる僕たちから見ることはできません。だからこそ、高い空のその平らな雲の上に僕たちの知らない世界があるって考えたら面白いんじゃないかと思いました。
雲は水や氷の小さい粒でできていますが、天気とつながっている存在がいるなら、そんな水や水蒸気の流れでさえ、また別のものに見えるのではないか、人の目には映らないものが見えているのではないか、という想像もしました。だとしたら、その景色を描いてみよう、と」(新海監督)
短時間で消滅する雲の上に、どのような世界が広がっているのでしょうか。こうした気象シーンに注目しながら作品を見ると、より一層楽しめるかもしれませんね。
映画『天気の子』は1月3日、今夜9時からテレビ朝日系列で放送です。
地上波初放送となりますので、ぜひお見逃しなく。
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