5月〜7月は雹(ひょう)に注意 氷なのに、なぜ初夏に多くなる?
ウェザーニュース / 2021年5月24日 5時0分
空が突然暗くなり、氷の塊が降ってくる雹(ひょう)は、積もると地面や屋根、自動車の車体などを雪のように真っ白に染めることから寒い季節の自然現象のイメージがあります。ところが雹は夏の季語としても知られているように、全国的に5月〜7月の初夏に発生することが多いのです。
元気象庁天気相談所長の宮澤清治氏が気象庁資料からまとめた全国の雹害の発生件数をみると、2005年までの10年間で最も多い月は5月の約115件、次いで7月の約70件となっています。
暖かいはずのこの時季になぜ雹が降ってくるのか、被害を防ぐにはどう対処すればいいのかについて、ウェザーニュースの気象予報士、山口剛央(たけひさ)が詳しく解説します。
氷の粒の直径が5mm以上を雹と呼ぶ
雹と霰(あられ)はどう違うのでしょうか。
「どちらも同じ氷の粒ですが、雹と霰がどう区別されているのかというと、ズバリ『大きさ』です。氷の粒の直径が5mm以上のものを『雹』、5mm未満のものを『霰』と呼んでいます。
雹や霰は、積乱雲の中で作られます。最初は小さな氷の結晶ですが、雲の中にある細かい水の粒が付着すると氷の結晶は少しずつ成長します。重くなった氷の結晶は、地上へ落ちようとしますが、積乱雲の中は上昇気流が発達しているため、再び上へと戻されます。
この上下運動を繰り返しているうちに氷の結晶は次第に大きくなり、雹や霰が作られます。ある程度の大きさになると上昇気流よりも氷が落ちる力の方が大きくなり、塊のまま雹や霰となって地表に降ってくるのです」(山口予報士)
雹の大きさと落下速度
天気予報で注意が呼び掛けられますが、雹や霰はそれほど危険なものなのですか。
「氷の塊と化した雹や霰は大きければ大きいほど、落下速度が速くなります。直径50mm(5cm)になると時速100kmを超えます。雹の大きさによっては車が破損したり、大きな怪我につながったりすることもあるので、注意が必要なのです。
粒が5mm未満の小さい霰も、危険がないわけではありません。霰が地面に積もってしまうと、非常に滑りやすくなります。たとえて言うなら、ビー玉やパチンコ玉の上を歩いたり車を走らせたりするようなものです」(山口予報士)
5月は上空の大気が冷たいので解けずに雹として地上に落下
なぜ暖かくなる時期に雹が最も多く発生するのでしょうか。
「5月は強い日差しによって気温が上がりやすくなりますが、上空に大陸から冬の名残りの寒気があると、冷たい空気は相対的に重いので下に降りようとし、暖かい空気は軽いので上昇していきます。この空気の上下変動が起きやすい状態のことを『大気の状態が不安定』といいます。
『大気が不安定』な気象条件では、雹を降らせる積乱雲(入道雲)が発生しやすくなるので、冬ではなく地表付近の気温が上がる時期に雹が多くなるのです。
ちなみに、上空の気温が高すぎると、大きなひょう粒が成長できないと考えられているので、8月は積乱雲が発達しやすい時期ですが、一般的に雹は少なくなります」(山口予報士)
「大気の状態が不安定」というキーワードに注意
雹による被害を予防するにはどのように対処すれば良いのでしょうか。
「まず、雹が降る前兆を知っておくことが重要です。雹は雷をもたらす積乱雲が原因となるため、次のような現象に気づいたら要注意です。
・周りが急に暗くなった
・急にひんやりとした風が吹いてきた
・雷光が見えたり雷鳴が聞こえてきたりした
・急に強い雨が降ってきた
このような現象に出会ったら、できるだけ早く屋内に避難するようにしましょう。屋外で作業をしているときは落雷の危険もあるので木の下に避難してはいけません。
また、天気予報で気象予報士から『大気の状態が不安定』『上空の強い寒気』という言葉が出たときは、注意してください。一般の人には地上天気図では大気が不安定という判断が難しいので、これらのキーワードを見逃さない、聞き逃さないようにしてください」(山口予報士)
雹はいきなり降ってきます。暖かそうな日だからと油断せずに「大気の状態が不安定」という言葉に注意を払い、外出時に前兆を感じたら早めに身を守る行動を取るように心がけましょう。
参考資料など
写真:ウェザーリポート(ウェザーニュースアプリからの投稿)
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